軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

134話 「心当たり」

フレイム邸。

つまりはルナの家のばかでかい屋根の上で仰向けに寝そべりながら、僕は夜空に灯る月をぼーっと眺めていた。

もちろん、理由なくこんな夜更けに外に出ている訳じゃない。

僕は今、待っているのだ。相棒とも呼べる、仲間のことを。

「……」

ふと、微かに頬をなでるようにして吹いた風が僕にとっての合図になった。

変わらず少し欠けた月を眺めながら、僕は言う。

「困ったことになった」

「…… 魔女の集い(ワルプルギス) のことか」

「……」

僕の隣に来てお尻を地面につけるようにして座る神獣――ポチの左右に揺れる尻尾をちらりと眺めた後、僕は首を縦に振った。

「まだ迷っておるのか? 何度も言うようじゃが、結局はお主の気持ち次第じゃ。不要じゃと思うのであれば参加する必要も無い」

至極真っ当なその意見を聞いて僕は少し意外に思っていた。

ポチの言葉にではない。自分の心の移りように、だ。

「参加しようと思ってる。………… 違(・) う(・) 」

僕は目を閉じてから言いなおした。

「参加するべきなんだと思う」

「…………」

ポチは何も言わなかった。

静寂が僕らを中心に広がっていく。

今、ポチがなにを考えているのかは僕には分からないけれど、不思議とその静寂は居心地が良かった。

たぶん、僕は言葉にしたかったのだ。

唯一、僕の立場すべてを理解しているポチに。

「……」

――参加するべき。

あれだけ意味を見出せていなかった魔女の集いに対するひとまずの結論。

僕がそう思うに至った理由はいくつかあるけれど、結局のところロイド先輩との会話の中で僕自身、納得できる部分が少なからずあったということが大きな理由になる。

……実際、思わないわけではなかったのだ。

「……もしも」

「……」

「もしも、僕にもっと多くの仲間がいたら……って」

……たらればの話に意味が無いことは分かっている。

けれど、例えば信頼できる仲間が、ポチの他にもいたならば神様もティナも攫われる……なんてことにはならなかったかもしれない。

アリスだって……あんな怪我をおわなくてすんだかもしれないのだ。

過去を変えることはできない。けれどこれから先に広がる茨のような道を共に歩いてくれる存在がいるというのなら。

「僕に同調してくれる者がいるなら……直接確かめるべきなんだと思う」

「……おぬし自身で、じゃな?」

「……うん」

僕は両手を屋根について上体を起こすと、ポチの黄金の瞳を見つめながら首を縦に振った。

ポチは小さく鼻を鳴らして言う。

「結論はでとるようじゃな。であれば、お主の言う『困ったこと』というのはまた別のことか?」

僕は頷いて口にした。

「魔女の集いの場に、僕はユノ・アスタリオとして参加することになる」

「…………なるほど、な」

ポチは静かに瞳を閉じると、小さく息を吐き出した。

僕は言葉を続ける。

「だからポチには邪神ノアとして魔女の集いに参加してもらおうと考えてる」

「……それ以外に手は無いのじゃな?」

「一応……ポチに僕……ユノ・アスタリオとして参加してもらうって手もあるけど」

ポチは小さく首を振った。

「 お主(ユノ) のことをある程度知る者がいることを考えれば、まだ得体の知られておらぬ 邪神(ノア) に成り代わった方が楽そうじゃな」

僕は素直に頷いた。

ポチの言葉の通り、たぶんそっちの方が違和感は少ないはずだ。

「……となると」

ポチも察したのだろう。

補足するように僕は口にした。

「ポチ……神獣がいない」

「……」

ポチは考え込むようにして瞳を閉じると、大きな黒い尻尾をだらりと下げて言った。

「……不参加……というわけにもいかぬか」

「……」

言葉の通り、ポチの不参加という形をとるのも一つの手だろう。

けれど、今回の魔女の集いという催しにおいてポチ―― 神獣(フェンリル) という存在は大きな役割を担っている。

なにせ、暗部と邪神ノアを繋いだのは、紛れもなく神獣ポチなのだから。

それにポチの知り合いも来るって話だし、不参加では違和感を抱かれる可能性も少なくないだろう。

そのほかにも考えなければいけないことは多い。

ロイド先輩が考えているという契約のこともその一つだ。

それを含めてポチに演じてもらうノアとしての立ち回りは、事前の話し合いでどうにかなると僕は踏んでいる。ならばやはり、早急に考えなければいけないのはポチの不在をどうするか、なのだが。

「……理由によってはそんな状況も正当化されるはずだと僕は考えてる」

僕の言葉にポチは首を横に振った。

「わしには考えつかん。……じゃが、他にも手はあると考えておる」

「……他に?」

僕が怪訝そうに眉をひそめると、ポチは僕の目をまっすぐ見つめながら口にした。

「協力者がいれば、話は変わることじゃ」

「……それは」

たしかにそれはそうだろうと思う。

ポチのスキル『変態』であれば他者を神獣のように見せることも可能だろう。

けれど、その対象者が僕にはまったく思い浮かばないでいる。

人間ではダメなのだ。それは僕の……ノアの正体への手がかりにもなり得るし、なによりどのような説明をして神殺しをおこなった邪神への協力をあおげば良いのだろうか。

それは恐らく神獣が魔女の集いに不参加である理由を探すよりも困難なことだろう。

「……わしに心当たりがある」

そう言ってポチは、夜空の向こうを指すようにして鼻先を遠くへと向けた。