軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13話 「僕は年上派です」

「おにいちゃんだぁれ?」

うん。君もだぁれ?

反射的にそんな言葉が喉まで上がってくる。

無論、その白銀の髪色を見ればなんとなく察せられるものではあるのだが、僕はどう対応しようか頭を悩ませていた。

「はじめまして。僕はルナお嬢様の騎士になったユノ・アスタリオです」

僕がそう言うと小さなルナは可愛く首を傾げる。

「おねえさまのきし? うっそだぁ、あはは」

そう言ってケタケタと笑う幼女。

うん。可愛いね。ルナにもこんな時があったのかなぁ? と僕は少し和んでいた。

……それにしても、遅いなルナの奴。

僕の部屋へと案内する前に、と前置いて。

『ここで少し待っていなさい』

そう言って随分前に部屋を出ていったきり戻ってきていない。

その代わり部屋にやってきたのが、この銀髪幼女だ。

「うふふ、あははは、あは」

いや、まだ笑ってたの君。

仕方なしに僕も少し笑ってみる。

「はははっ――」

「…………」

――いや、やめるんかい。

「おきゃくさんなんだよね? ちょっとまってて」

そう言うとペタペタと奥の別室へと向かっていく銀髪幼女。

なんとなく察した僕は、「あ、お構いなく」と言いつつも、素直に感心していた。

僕があれくらいの時は来客対応なんてしていただろうか。

作法は知っていても、なんだかんだいつも誰かがやってくれていた気がする。

「おまたせしました」

そう言って僕の前へと置かれるグラス。

「ありがとうございます。いただきます」

うん。水だな。

「結構なお手前で」

僕がそう頭を下げると銀髪幼女は得意げな顔をして座った。僕の膝に。

「「…………」」

なになに? どうすればいいの?

困惑する僕をよそに、幼女はそのまま首を反らすように顔をあげると、じっと僕の瞳を見つめてくる。

「おにいちゃん、ふしぎなかんじがする」

「……不思議?」

「こわくないの。ぜーんぜん」

そう言って静かに足をバタつかせる銀髪幼女。

「…………」

ふむ……怖くない、か。

自慢じゃないが僕は今まで誰かに怖いなんて言われた事が無い。

「そうかな?」

「うん」

まぁ、この子がそう言うならそうなんだろ。

名前知らないけど。

「そろそろかなぁ……」

突然、銀髪幼女はそう呟くと僕の膝から降り、くるりとその小さな体を僕へと向ける。

そして僕へと差し出される細くて白い両手。

……この手をどうしろと?

「どうしたの?」

僕がそう聞くと、ぷくっと頬を膨らませて。

「だっこして」

そんな事を言ってくる。

さて、僕はルナの騎士という立ち位置なわけだが……妹さんをだっこする。それは不敬にはあたらないだろうか?

まだ幼いとはいえ公爵家の御令嬢だ。子供だからと対応を誤れば最悪僕の首が飛ぶ。

「はやくぅ」

そういって体を揺らす妹さん。

……うん。抱っこぐらいならいいか。

僕はそう思い妹さんを優しく抱き上げる。

いわゆる、高い高いというやつだ。

「うへへ……」

……嬉しそうでなによりである。

「ねえ、今度はぎゅっと抱きしめて」

僕に掲げられた妹さんがそんな驚くべき事を言ってくる。

僕が、ぎゅっと、だきしめる?

年上派の僕である。もしこれがフェリ女の美人なお姉さまからの許しであったのならば、僕は喜んでそうした事だろう。

「いやいや、さすがにそれは」

「いやだぁ、はやくぅ」

「いやいやいやいや」

「――おねえさまに言っちゃうよ? おにいちゃんがわたしみたいな小さい子の方が好きって言ってた――」

僕の行動は早かった。

小さな体をぎゅっとする。

……なんて恐ろしい事を言うのだろう。

先にも述べたがこの子は幼いとはいえ公爵家の御令嬢。この子が黒と言えばたとえ白でも黒く染まるのだ。

そして運悪く部屋の扉が開かれる。

僕は恐る恐る開かれた扉の方を向いた。

「…………」

ルナが驚いたように目を見開き固まっている。

こんなルナは今までに一度も見たことが無い。

僕は確信する。これはやばいと。

「お嬢様、違うんです。違うんですよ。本当に違うんです」

僕は妹さんをゆっくりと降ろすと、ルナの方を向き頭を垂れる。

そして、僕の身の潔白全てを己が瞳に込め、まっすぐルナを見つめて口を開いた。

「――違うんです」

我ながら大した語彙力である。

返ってきたのは沈黙。僕は冷や汗が止まらない。

だが、そんな僕の焦りを知ってか知らずか、妹さんが追い討ちをかける。

「おねえさまぁぁ! こわかったよぉ」

そう言ってルナの元へと走り、ひしりと抱きつく妹さん。

そのままルナの背中へと回ると、少しだけ顔をだし、悪魔のような顔で僕を見てニヤリと笑った。

こいつぅ……!

心臓が早鐘を打つ。クロードの初撃を紙一重で躱した時以上のプレッシャーだ。

だが、ルナの口から告げられたのは少し意外なものだった。

「……それは? この子が出したの?」

ルナの視線が先ほどまで座っていたソファーの前にある机、その上にあるグラスへと注がれる。

「え? あ、はい」

「そう……あなたもなのね、エリス」

そう言って妹さんの頭を撫でるルナ。

エリスというのが妹さんの名前なのだろう。

「もう挨拶はすましたの?」

「まだぁ」

「もう一人でできるわね?」

「うん」

妹――エリスはルナの言葉に頷くと一歩前へと進み出た。

「フレイムこうしゃく家が次女、エリス・フレイムです。どうぞよろしくおねがいします」

そう言ってペコリと頭を下げたエリス。

年相応でなんとも可愛らしくあるが、僕はもう騙されない。

「……ふふ、あなたもそんな顔をするのね。安心なさい。分かってるから」

そう言って微笑みを浮かべるルナを見て僕は心の底から安堵する。

「それにしても驚いたわ。この子、めったに他人に寄り付かないの。お父上が近寄ろうものなら尻尾を巻いて逃げ出すわ」

お父様……他人扱いされていますよ。

「まったく誰に似たのかしら? このままでは少し心配だわ」

どの口が言うのだろうか? という疑問はさておき、僕はルナへと問いかける。

「あのお嬢様、それで僕は一体ここで何を?」

「ああ。そうだったわね。もう少しで来ると思うわ。その前に――」

ルナの視線が開け放たれたままの扉に向けられる。

ひょこ、顔を半分だした神様が僕を赤い双眸で見つめていた。

「か、か、神様!」

僕がそう言うと赤い瞳がぶわっと潤む。

「ユノさん……!」

神アテナは嬉しそうな声色でそう言うと小走りで僕の元へと――来る前にタックルを受けて尻もちをつく。

「うわぁ……! きれいな人だ―!」

エリスである。僕をさしおいて神様に熱い抱擁をかましている。

「え? あ、あの、くすぐったいです……! あひゃ……!」

……いいね。その笑顔、プライスレス。

「それにしてもお嬢様、何故ここに神様が?」

「家の前で落ち着か無さそうにうろうろしていたから連れてきたわ」

なんだって? まさか僕の後をついてきたのだろうか?

僕はそんな事をさせてしまった自分に腹が立った。

「それに、ちょうど良かったのよ。あなたと同じようにアテナ様にも部屋を用意しているわ」

「え!? もしかして、神様もこのお屋敷に?」

「ええ。そのつもりよ。迷惑かしら?」

とんでもない!

「そんなまさか! ありがとうございますお嬢様」

僕は深々と頭を下げる。

神アテナとの共同生活である。嬉しくない筈が無い。

「……あなたの理由なのでしょう? アテナ様は」

そう小さく呟くように言ったルナの言葉に僕は小さく頷いた。

ルナの事だ。大体の事は理解しているのだろう。

そんな最中、華やかな香りがふわっと香る。

僕はその正体を確かめようとして――。

「あらぁ? この子がルナの言っていた騎士くんなのぉ?」

見目麗しい白銀の髪をなびかせた女神が降臨した。

僕の体は脊髄反射でその場に傅く。

そうか……そうなのか。この美人さんがきっと――。

「――ええそうです。お母様」