作品タイトル不明
お茶会の第一歩
ドレスに使われた濃いグリーンの布は、透けるほど薄い。
それが何層にも重ねられて、森の中の妖精みたいな幻想的な雰囲気を作り出している。
アクセサリーは大粒のパールと白い薔薇の花。淡いピンクの髪は夜会巻きにされ、白い薔薇と真珠の髪飾りが飾り付けられた。
白い薔薇には濃いグリーンの葉っぱと蔓を忘れずに……。
お化粧は淡いローズピンクのリップで髪色を引き立てている。
「……すごい」
鏡を前にした私の後ろに勢ぞろいした侍女たちは、誰もが満足げだ。
「濃いグリーンのドレスは私には似合わないと思っていたのに」
差し出されたオフホワイトの靴、小さなバッグにはパールが飾り付けられている。
「やあ……これは美しいな」
「アシェル様!」
振り返れば、アシェル様がドレスとお揃いの色の目を見開いていた。
お茶会にふさわしいオフホワイトの服装は、アシェル様の大人の色気を際立たせていた。
「美しい君の隣にいられることが誇らしいよ」
「……っ!?」
いつもの少々仰々しい褒め方と違い、今日のアシェル様の言葉は大人びている。
頬が強い熱を帯びてしまった。
「なるほど……ランディス子爵令嬢の言うとおり、これからは褒め言葉をもっと学ぶとしよう」
「……なにか仰いましたか?」
「いや、こちらの話だ」
アシェル様が少し意地悪げに笑って、背中を大きくかがめると私の頬に口づけを落とした。
「さて、君がベルアメール夫人として初めて開催するお茶会だ。楽しみにしている」
そんなことを言われると緊張してしまう。
アシェル様は私を見つめて軽く微笑むと頭頂部に口付けしてきた。
「そんなに気負わずに楽しめばいい。今日のために淑女たちのお茶会の作法や流行は完璧に押さえてある」
宰相であるアシェル様の完璧がどの程度のものか予想もつかない。ほんの少しの不安が浮かんでは消える。
「さて、今日は休みを取ったが領地関連の執務がたまっていてね。いったん失礼する」
「お忙しいのに、ありがとうございます」
「ずっと可愛い君を見張っていたいが」
「見張る!?」
「いや、可愛い君を見ていたいが」
確実にアシェル様は私を『見張りたい』と口を滑らした。
(そんなに私がなにか失敗しないか心配なのかしら……)
本当は全て一人で執り行い、少しでもアシェル様のお力になりたい。
けれど、まだまだ私は学園を卒業したくらいの年齢だ。これから学んでお役に立つようになろう。
そう心に誓い、私は庭園に設けられた会場に足を踏み入れた。
しかし、まさかその第一歩で慣れない高いヒールのために体勢を崩して盛大に転ぶなんて……誰が予想しただろう。