作品タイトル不明
9-31 砂の国ロウカク 地龍との関係
『皆様……此度の戦いの末、我々ロウカクは新しき地龍の長であるカサンドラ様と、盟約ではなく新たに友好を結ぶ事となりました』
ロウカクの城に帰り、兵士達に退避してもらっていた国民に知らせを送って戻ってきてもらってから数日の事。
ロウカクに所属する小さな村の一つ一つに至るまで伝令を飛ばして多くの国民が城下へと集まり、今回の宣言をする日をついに迎える事が出来ていた。
友好……とは言うが、実際は基本的な不干渉と姫巫女の生贄廃止、地竜の討伐請負であるが、宣言を聞いた瞬間に国民は大いに喜び、コレン様を称える大声援であった。
ちなみに俺達の事は出来れば内緒にして欲しいとお願いした。
レンゲは元々この国の姫巫女でもあり、もしここで英雄になど担ぎ上げられれば主の下から離そうと強行する者が現れるのを恐れ、俺は単純明快にどう考えても面倒だからと断ったのだ。
アイナ達も素材は回収できたし名誉はいらないと同意し、シロとウェンディは俺の決定に賛成したので事なきを得たのである。
……とはいえ、クドゥロさんとコレン様からは猛反対。
後世に残るほどの偉業を成し遂げたというのに、王が英雄の功績を隠蔽することなど出来ないとしたので、俺達とはわからないように他者の助力があったとする事で、どうにかお互い妥協する事にしたのである。
その後は国民は国民で宴を、貴族や兵士、王族や俺たちは晩餐会リターンズである。
小さな村々からも集まった国民にコレン様は食料と酒を大盤振る舞いし、来年からは帰還した日を祝祭日と決めて大きく騒ぎ、平和に感謝する日と決めたのだ。
晩餐会の内容は……まあ、兵士や国の重鎮には助力したのが俺達だと知られているので取り囲まれたよ……。
豪邸を用意するから王国からこっちに引っ越さないかとまで言われたが、アインズヘイルには大きな家もあるし、あの町が好きだし、俺の帰りを待っている大切な人がいるからと断った。
あれ? そういえば晩餐会の時にクドゥロさんの姿が見えなかったな。
せっかくの晩餐会だというのに、もしかして怪我が再発して寝込んでいたのだろうか?
「ってな感じで、ロウカクの方は大賑わいだよ」
「そっか。私の方も順調といえば順調かな。母様も嫌々言いながら走りに行ってるし」
俺はカサンドラの所へ行き、約束どおり魔力球を馳走するついでに、ロウカクについて話をしに地中にいた。
どうやって地中に来たかだが、砂漠に向かってカサンドラを呼ぶと地龍の姿でやってきて抱きかかえられて地中深くへと連れてこられたのである。
話す際に人型になったカサンドラは、ウェンディ達が用意して渡した下着と服を着て石の上に座り、白いミニスカートだという事も気にせずに足をぶらぶらさせながら向かい合って話していた。
すると、
「あーん」
カサンドラが人差し指でちょいちょいっと口を指し、俺に向かって口を開けるので、魔力球を作って投げるとぱくんと食べた。
これは、ウェンディとアイナが色々とカサンドラへ人の世界の事を教えていた際に覚えたことらしく、間違って魔力球をくれと言う合図だと覚えたようである。
「なあ、この食べ方でいいのか?」
「うん。人型だと小さいので十分だからね。たくさん食べると太っちゃうし、これなら味がよくわかる上に小さいから太らないしね」
いや、龍の姿か人の姿かって話ではなく、投げたのを口で受ける食べ方でいいのか? って話なんだけども……。
あれだ。犬に投げて餌を与える感覚に近いのだが、言っていいものかどうか……。
「おい! もっとこっちにもよこせよ!」
「そうだそうだー! 食べちゃうぞー!」
……弟達も復活したようで、相変わらずお調子者感は抜けていないようだ。
えっと、ロッカスとロックズだったか?
「……尻尾。治りかけてるね。今度は別の部位をいただこうかな?」
「「ひい! 尻尾で勘弁してください!!」」
そんな地龍兄弟の背後からぬらりと現れたのは護衛役のシロ。
シロを見て飛びずさり、すぐさま土下座をする二人……二匹だが二匹はどうやら人型にはなれないらしい。
だから地龍が地に伏せているだけのようにしか見えず、シロがゆらゆらとナイフを揺らして近づいていった。
「まったく……お姉ちゃんの盟友だって言っているだろう? こいつらは体よりももう少し頭を鍛えたいところだね」
シロが近づくにつれてペコペコと頭を下げる速度を上げる弟達を見てカサンドラが笑う。
……おそらく、二人からするとシロは白い恐怖の象徴に見えるのだろう。
そんなシロの主たる俺は……。
「シロ。まだ肉はあるんだからやめときなさいって。尻尾は適度にくれるっていうんだからさ」
と、シロを窘めると
「シロの姉御の旦那!」
「シロの姉御の旦那!!」
と呼ばれるようになってしまった。
で、
「シロの旦那……とてもいい響き……」
シロが恍惚の表情を浮かべるもんだから、二匹はこれでご機嫌取りが出来るとわかったのか、その呼び名が定着してしまった……。
「はぁ……はぁ……ひぃ……ひぃ……おうえ……気持ち悪い……お腹すいた……死ぬ……もうお母さん死んじゃう……カサンドラちゃんの鬼……鬼龍……」
そんな中で、汗をだらだらと流しながら、愚痴をたらたらと吐き出して、走っているのか歩いているのかわからない速度でやってきたのは母地龍のレアガイア。
裸のままでは目に毒なので、リサイズ可能な軽装備をつけてもらっているが、リサイズにも限界があるのかどこもぱっつぱっつんである。
「はぁ……ひぃ……ああー! ご飯の子だ!」
その速度で走れるのなら最初からそう走れよと思える速度で近づいてくるレアガイア。
だが、俺に到達する前にカサンドラが近づいて足を引っ掛けると、ヘッドスライディングというか、フェイススライディングのように滑り込んできた。
しばらく滑った後に砂まみれの顔を上げるとカサンドラを睨むレアガイア。
「痛いよ! 何するのさカサンドラちゃん!」
「母様が飛びついたら盟友が死んじゃうだろう」
「そ、そんなことないよ!?」
いやあるよ?
一回飛びつかれて押しつぶされて死ぬかと思ったからね?
おっぱいの感触か肉の感触かわからない感触に押しつぶされてしまったからね?
しかも今回は汗だくと来た。
流石にちょっとその状態で抱きつかれるのは不快極まりないという事は理解していただきたい。
「ねえねえ、今日はお母さん頑張って走ったんだよ? ご褒美があってもいいと思うんだけど?」
「はあ……ちょっと行って戻ってきただけじゃないか。地竜は討伐したの?」
「したけど……美味しくないんだもん。不純物多すぎ」
「美味しくなくても、盟友は常にいるわけじゃないんだから慣れておかないとでしょ」
「えええ……常にいてよー!」
流石に残りの人生全てをここで費やすのは勘弁してもらいたい。
太陽は浴びていたいのだ。
「その代わり、たまにコレンが来て魔法はくれるそうだよ」
「魔法ねえ……あれも魔力球に比べたら美味しくないんだもん……」
「贅沢言わないの……。盟友は特別って事だよ」
そう。
実は魔法でも腹は膨らむらしい。
ただ、土魔法限定な上に効率で言えば姫巫女の数十万分の一だそうだ。
それと、魔法と魔力球では微妙に違うらしい。
魔法は魔法の味、魔力球は魔力の味だそうだ。
ならばと、試しにコレン様にランタン型の魔道具を貸して魔力球を出してもらったんだが……。
『なんか微妙……。食感が悪い。味が不均一で薄い。魔法臭い……美味しくない』
と、不評で、これならば普通の魔法を食べた方がましという結果に至ったのだ。
もし、それで賄えるようであればエリオダルトに頼んでもう一つ作ってもらおうかと思ったんだがな……。
なんでだろう。
純度が高いと言われるのは、魔法が使えないのに属性の適性はあるからなのだろうか。
「まったく……少しは成果を出してから贅沢を言って欲しいものだね」
「まあまあ、ゆっくりでもいいんじゃないか? さぼったら勿論駄目だけど、頑張ったら御褒美は欲しいもんさ」
「そう言って甘やかさないでくれ盟友。こんなんじゃいつまでたっても痩せやしない」
「……なんか、もう夫婦みたいだね……はっ! お母さんまだお婆ちゃんにはなりたくないからね!」
なーにを言ってるんだこのメタボリックドラゴンは。
シロの眼がギラリと光って、強制的に痩せさせられそうだから言動には気をつけてもらえますかね……。
「そういえば、そろそろこの国を出るんだろう?」
「ん、ああ。そうだな。アインズヘイルに帰るよ」
「ええー! 帰っちゃうの!? じゃあ気軽にご飯がもらえなくなっちゃうの!?」
俺の価値はご飯か……。いや、事実そのとおりなんだから仕方ないが、どことなく寂しいな。
「ご飯なら、先に少し貰っているよ。母様には隠してあるけど」
「ずっるい! ずるいずるい! カサンドラちゃん独り占めする気!?」
「そんなわけないだろう。ちゃんと母様が頑張ったらあげるってば。それで、アインズヘイルっていうのは砂漠の先の王国だったね」
「ああ。俺は普段そっちで生活しているからさ。まあ、時間作って遊びにはくるさ」
「へえ。じゃあお母さんも遊びに行く!」
「……いや、駄目でしょう」
王国で地龍が出たら大騒ぎ間違い無しだ。
その大騒ぎの関係者に俺がなるとか……絶対に嫌だ!
「母様。無茶を言わないの。盟友が困っているだろう」
「大体国境はどうする気なんだ……」
「国境なんて勝手にヒトが引いたものなんだから、地龍のお母さんには関係ないもーん」
いやまあそうなんだろうけどさ……。
下手すると国が樹立するよりも前に生まれているかもしれないのだし、そりゃあ国境なんて関係ないのだろうけど……国境にいる兵士にとってはたまったものではないだろう……。
来るとしても、地面の下を通って王国領に入り、ヒトの目がない所で人型になってもらわなければ困るが、そんな面倒な事はきっとこの龍はしてくれないだろうな……。
「それに君は魔力量は多いけど他はてんで駄目みたいだからね。なんかすぐ死んじゃいそうで心配なんだよ」
「そりゃあ、地龍から見ればさぞ矮小でしょうよ……」
貴方から見たら多くのヒトがそうでしょうよ。
決して俺限定ではない……はずだ。
それと、心配なのは魔力球が食べられなくなる事がですよね。
「……あれが食べられなくなるのは困る……凄く困る」
あ、口に出しちゃったよ。
しかも本気で真剣に心配した眼差しを向けていらっしゃる!
別にいいけどさ!
「……あ、そうだ。カサンドラちゃんも長になったわけだし、練習がてらカサンドラちゃんが加護をあげればいいんじゃないかな? 別にその子なら嫌ってわけじゃないでしょう?」
「そうだね……。盟友なら。それじゃあ私の加護をあげよう」
「へ? 加護?」
「そう。加護。じっとしててね。んっ……」
突然重ねられる唇。
目の前に一瞬で現れたカサンドラから俺が逃げられるわけもなく、腕を押さえられ抵抗する間もなく口内が好き勝手に蹂躙されていくと、何か丸くて温かいものが体内へと入り込んでいった。
「ぷはぁ。これで……今よりは死ににくくなったんじゃないかな」
あまりの出来事にぽかんとしていたが、慌ててギルドカードを取り出して確認をした。
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忍宮一樹 : 錬金術師 Lv28
HP 1250/1250→1300/1300
MP 6900/6900→7500/7500
STR(ストレングス) : F VIT(バイタリティ) : E
INT(インテリジェンス) : B MID(マインド) : B
AGI(アジリティ) : E→D DEX(デクステリティ) : A
アクティブスキル
空間魔法 Lv6
・ 吸入(インプット)
・ 排出(アウトプット)
・ 不可視の牢獄(インビジブルジェイル)
・ 空間座標指定(エリアポインティング)
・ 座標転移(ポイントゲート)
・ 加速する方向性(ベクトルアクセル)
錬金 Lv9
・ 手形成(ハンディング)
・ 贋作(マルチコピー)
・ 既知の魔法陣(エクスペリエンスサークル)
鑑定 Lv3
パッシブスキル
農業 Lv1
料理 Lv1
裁縫 Lv1
アクティブオートスキル
狂化 Lv1
???スキル Lv4
称号
『創造術師』
加護
『地龍の加護』
ギルドカード登録者
・隼人
・メイラ
・アイリス
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と、新たに加護が追加されていた。
「うまくいったみたいだね。盟友との繋がりを感じるよ」
「ちょ、いいのかこれ」
「うん。あ、でも、加護といってもほんの少ししか効果はないから頼りすぎないでね。元が元だから、あくまでも今までよりほんの少し死ににくくなったくらいだから」
「いや、十分ありがたいけど……」
死ににくくなるのならば少しだろうがなんだろうがありがたい限りである。
だが、地龍の加護だなんてかなり大それたものな気がしてならないのだが……冒険者や英雄でもない俺がもらっていいのだろうか……。
こういうのは英雄や冒険者が強くなるために授かるもので、魔力球をこれからも食べるためにと貰っていいものなのだろうか……。
「まあ、あまり気にしなくていいさ。私としても盟友には死んで欲しくないからね。長生きしてくれよ?」
「……それは食事のためか?」
「いいや。盟友自身に興味があるんだよ」
そう即答したカサンドラは、少しだけ顔を赤くしてニカッと笑うのだった。
そして……。
「わ、わ。本当にキスで加護をあげちゃった!」
「なっ……か、母様がこの前教えてくれたんじゃないですか! 加護を与えるときは唇を重ねて体内にある『龍気』を相手に与えると!」
さっきまで毅然としていたのだが、指摘されると恥ずかしかったのか焦り始めるカサンドラ。
実は照れていたのかと思うと……なんだか口元が緩んでしまう。
「「ヒュー! 姉ちゃんヒュー!」」
おい、やめとけ。
まずお前らは空気を読む事を覚えるべきだ。
カサンドラの背中から立ち昇る圧倒的なプレッシャーがわからないのか?
「当たり前だけど冗談だよ? 別に普通に胸に手を置くだけでも渡せるんだよ? それなのに……無理矢理異性の唇を奪うだなんて……。やらしい! カサンドラちゃんやらしい! ……って、あれ? カサンドラちゃん? どうして拳を握っているの? やめて! こないで! ぶたないで! お母さんまだお腹すいて、ギャアアー!」
「ひ、姉ちゃ……ごめ、ゴフェ!」
「シロの姉御! シロの姉御の旦那! 助けっアブアア!」
残念ながら自業自得である。
この親子……これからもこんな感じな気がするな。
ちなみに、この後レアガイアはボコボコにされた後に空腹のままもう一度走りに行かされ、弟達はぴくぴくとしか動かない。
レアガイアが死にそうな顔で帰ってくると、一応汗も龍の素材になりうるかもしれないということで、少量の魔力球と交換をしてもらった。
……恐ろしいのは、肝を手に入れられた事だ。
素材を何に使うのかと聞かれた際に『肝なんかも使えそう』と話題に出ると、ちょっと待っててという声と共に砂壁の陰に消え、戻ってきたときは笑顔で血をだらだらとお腹から流しながら手には肝を持っていたのは……ちょっとした恐怖体験であった。
すぐ治るからその代わり魔力球もっと頂戴! と明るく言っていたのだが、地龍の食い意地は半端ないなと思わざるを得なかった……。