軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9-25 砂の国ロウカク 地龍長姉カサンドラ

レンゲ達やシロが少し離れたところで戦闘を開始すると、今まで動かなかったカサンドラが動き出した。

クドゥロさんとコレン様にはもしも戦闘が始まってしまった場合に備えて退避していてもらいたいのだが、今はまだ回復が十分では無いようでクドゥロさんは横になったまま、コレン様もへたり込んだままなので少し難しそうだな。

「ご主人様……後ろへ」

「大丈夫。……まだやる気じゃないみたいだ」

ウェンディが俺を庇うように前に出るが、俺はそっと肩に手を置いて引き寄せて俺が前に出る。

「やあ。カサンドラこの前ぶりだな」

「……はあ……本当に君なんだね。出来れば人違いであって欲しかったんだけどね……。また会ったら運命……なんて言ったけど、運命ってのはどうしてこうも残酷なんだろうね」

大きくついたため息だけで、前髪が後ろへ上がり、足を踏ん張らせる。

気さくに話しかけたものの心臓はバクバクと鼓動を激しく鳴らし続け、服の中では冷や汗が止まらない。

後ろでコレン様がえ? え? 知り合い? と困惑しているようだが、視線を逸らす事など出来ない。

ここはもう、カサンドラの間合いの中なのだ。

「まだ襲われてないって事は……あの時の盟約はまだ効いてるのかな?」

「ああ。私は君を食べない。それは守るよ」

よし。まず第一段階、会話による時間稼ぎはうまくいきそうだ。

第一段階とか言ったけど、第二段階なんてその場の状況次第でどうにかするしかないんだけどな。

「……でもね、母様が君を食べるのも、弟達に君が食べられるのも止められないんだよ。それは明確な敵対になるからね」

「酷いな……止めてくれよ」

「盟友ではあっても君の味方って訳じゃないんだけど……。まあ、もし味方だったとしても弟達ならともかく、母様は無理だよ。私との力量差がまだまだ途方も無いほどにあるからね。力ずくじゃ無理。お願いしても、母様が長だから聞き入れてくれないよ」

長って自分の母親だったのか。

って言う事は、カサンドラの無くしたい盟約って言うのは……。

「なあ、カサンドラが無くしたい盟約って……」

「ん? そうだよ。この盟約の事」

「どうしてだ? まさか、盟約を無くしてロウカクを……」

「違う違う。見てよ母様を。あんなぶくぶく太って鈍足になってみっともないと思わない? 運動もせずに食っちゃ寝食っちゃ寝ばかりしてるから、どんどん太っていくの。そりゃあ力は上がっているみたいだけれど、同じ女性として見ていられないんだよ」

いや、確かにかなりでかいなあとは思ったけどあれって太ってたのか……?

鈍足って……確かに手足の動きは早いとは言えないのかもしれないけど、尻尾や噛み付きの速さは尋常じゃない上に、攻撃の範囲がとてつもないんだが……。

少なくとも、俺は防げないし避けれないと思う。

遠目に見ても、レンゲ達三人が悪戦苦闘を強いられているのはわかるしな。

「別にね、姫巫女の魔力を得なくても生きる事は出来るんだよ。私が地竜を食べるように自分で動いて獲物を捕らえて食事と運動のバランスを整えて欲しいのに、姫巫女の魔力が豊富で濃厚で数百年は満足できるからってそればっかり……。あの姿、他の龍種に見せたらいい笑いものってものさ」

それにとカサンドラは続ける。

「全盛期の母様ならもう全部終わってるよ。君達も含めてね……。でも、たった三人ですら母様はまだ倒せないでいる。最強種と名高き龍種が情けないったらないと思わないかい?」

ま、まあ俺達はその情けなさのおかげでまだ生きているということなので何も答えられないんですけどね……。

っていうか、今以上に昔のレアガイアは凄かったのかよ……。

そしてカサンドラは声のトーンを落とし、悲しそうに続ける。

「母様は、昔は凄い龍だったんだよ。プロポーションも龍種の長の中でも1番だと思うし、近接では負け無しで、傷一つ負わない立派な鱗や、魔法も正面から打ち破る自慢の母様で尊敬できる龍だったんだ。だけど……見る影も無いのが悲しくてね……」

「なるほどな……。レアガイアに元の体型に戻って欲しいんだな……」

「うん。だから、私がいずれ長になって母様にはダイエットをしてもらうつもり。でも……今じゃないんだよ。今の私じゃ、あの姿の母様にも勝てないからね」

んんん……そうか。

カサンドラにやる気が無ければ、なんとかこっちの味方についてもらう事も出来ないかと思っていたんだけどな……。

いずれ……って龍の時間間隔と俺らの時間感覚は大分違うだろうし、何百年、何千年後って可能性もあるんだろうな……。

どうしたもんかと考えていると、耳にチリンっと澄んだ鈴の音が聞こえた。

「ん。ただいま」

「……へ?」

シロがいつの間にか俺の横に!?

っていうか、その両手に持っているでかいのはなんですか?

……尻尾?

「これは驚いた。まさか弟達がもう負けたのかい?」

「ん。楽勝。尻尾切ったら逃げた」

がばっと両手で切り取った尻尾を見せるシロ。

……これはあれだろう? 食べる用って事だろう?

「それはまた情けないねえ……。うん。紛れも無く君の勝ちだね」

「ん。お話し中? それとも……貴方もシロとやる?」

シロが俺に尻尾を渡そうとするのでそのまま魔法空間に収納しておく。

これなら後で返せと言われても返せるだろうしね。

「そうだね……話し合いが上手くいかなければやるかもしれないね……」

話し合い……?

俺からは勿論あるが、カサンドラが俺に何か言う事でもあるのか?

「ねえ、盟友」

「な、なんだ?」

「逃げてくれないかな? ここにいる人達を連れていってもいいよ。姫巫女さえ食べれば終わる話だし。今、逃げてくれれば、私は君達を見逃してあげるよ?」

カサンドラからしたら破格の提示なのだろう。

だが、レアガイアを倒すのは無理だからと、帰るような覚悟では来ていないのだ。

「悪いけど、それは出来ない」

「……どうしてかな? はっきり言って勝機は0だよ? 見ての通り、彼女達の攻撃は一つも効いちゃいない。そこの猫ちゃんでも難しいだろう。少しでもあるのなら、その可能性を信じたい人族の気持ちもわかるけど……どう足掻いたって、母様には勝てないよ」

「どうしてって……譲れないからな」

「……君は、嫌な事はやらない主義だろう? 今回の事は、どう考えても君の主義に反するものだと思うのだけれど? ……それ以上に、譲れないものがここにはあるのかな?」

前回ちょっと話しただけなのに、随分と理解されているな。

そうだな……本音で言えば、関わりたくない案件だ。

これが見知らぬ奴等におきた事なら、俺は英雄でも勇者でもないのでスルーするよ。

でもなあ……。

「ああ。譲れないものがある」

「主! 下!」

シロが下と叫んだと同時に、シロに連れられてウェンディと共に上空へ飛ぶ。

「ヒャッハー!! 奇襲だっー! まだ負けてねえぞおおおおおお!」

「よくも尻尾を――!」

どうやら狙いは俺達だったようで、クドゥロさんとコレン様は無事らしい。

足元に 不可視の牢獄(インビジブルジェイル) を張って足場を作りはするがそのせいでシロが迎撃をしにくくなってしまった。

だが、二体の地龍はその顎を俺達に届かせるよりも早く横からのびる二本の腕によって捕らえられた。

「なにしやがん――」

「ひっ、姉ちゃ――」

「……お姉ちゃんが話している最中なんだけど」

強烈なまでの殺気をこめて握り締めていくカサンドラ。

殺気に当てられたせいか、握られて圧迫されているせいかロッカスとロックズは泡を吹き始めている。

「負けたんだから、大人しくしていなさい。龍は力。力で負けた以上、見苦しい真似をしないで欲しいな」

それだけ言うとぽいっと後方へと捨ててしまうカサンドラ。

ロッカスとロックズは生きてはいるようだが口からは泡を吹き出してピクピクと痙攣している。

そして、カサンドラは威圧感をそのままに俺へと視線を向けた。

「……食べはしないって言ったけどね、殺すことはできるんだよ? 殺した者は食べるのが私の主義だけど……そうしない事もできるんだよ?」

圧倒的な威圧感を放つカサンドラの前に降り、俺はその瞳を睨み返す。

「……俺が幸せになるために、絶対にいなきゃいけない奴がいるんだ。これからも、そいつと一緒にいるために、逃げ出すわけにはいかないんだよ」

じぃっと見つめあい、お互いに目を背けない。

そばにはウェンディとシロが立ち、一緒にカサンドラを睨んでくれているのが心強い。

そして、幾ばくかの時間が過ぎた頃、カサンドラが息を吐くと、緊張の糸が解かれるように圧迫感が治まっていく。

「……はあ。そっか……あの姫巫女が君の譲れないものなんだね……。となると、どうやら君を諦めさせるのは無理のようだね」

「ならどうする? 戦うか?」

俺の言葉に反応してシロがナイフを抜き放ち、ウェンディが魔力を練っていく。

だが、カサンドラからはなんというか、何も感じない……。

「それも嫌なんだよね……。君と相対していると、どんどん君を殺したくなくなるんだよ……。せっかく龍らしく威圧してみたのにさ……。ねえ、どうすればいいかな?」

「……手を貸してくれてもいいんだぞ?」

「それは無理だね。地龍の長に自分から挑んだら、1度の敗けも許されないんだ。母様には私も勝てない。母様には盟約は嫌とは言ってあるし、何もせず日和見でもしていようかな」

そういうとカサンドラは体を伏せて横になってしまう。

その行動に対し、シロはどうすればいいのかと俺に視線を向けてきた。

「ん? ああ大丈夫。私の睨みに耐えた報酬に盟約として君達を私は襲わないし、弟達に君達を襲わせもしないと誓うよ。そこの寝転がっている二人も含めてね。それが私に出来る裏切りとまではいかない行為かな。まあ、見ているから頑張ってきなよ」

手をひらひらと振りつつ、悲しそうな眼差しでレアガイアの方を見つめるカサンドラ。

すると、なにかが俺達の近くへと着弾して砂を巻き上がらせる。

「がはっ……。はぁ……はぁ……」

「レンゲ!? 大丈夫か!?」

「あー……ご主人……。あれ? こっちは終わったんすか?」

「あ、ああ……。なんとかな。味方……じゃないけど、戦闘はしないでくれるみたいだ」

「流石ご主人……龍も誑すとは……」

誑かしたわけではないと思うけどな……。

それよりも、先に回復ポーションを飲めっての……。

俺が取り出して無理にでも飲ませるとぷはぁっと言って口元を拭う。

「よし……それじゃあご主人は自分の役割を全うしたっすし、自分もやってくるっすよ!」

赤き紋様を更に輝かせてもう一度レアガイアの元に行くレンゲ。

「シロも行ってくる」

「大丈夫か? 少し休んでからの方が……」

「大丈夫。そんなに消耗してない。まだいける」

それだけ言い残し笑顔を浮かべると一瞬でまじめな顔になりレアガイアの討伐に参加するシロ。

「……あの猫ちゃん強いね」

「ああ。シロも……皆も強いよ」

「……それでも、母様の龍鱗は破れない」

自信を持って言うカサンドラだが、俺はシロと皆を信じるしかないのであった。