軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4.初めて会った日(ジェラルド)

ふと、教師の声に重なって悲鳴のような声が聞こえた気がした。

「どうかしましたか?」

「今、悲鳴のような声が聞こえませんでしたか?」

「悲鳴?」

後ろに控えていた侍従ケインを振り返ると、うなずいて様子を見に行く。

何があったのか調べてくるまで授業に戻ろうとしたら、

ケインは顔色を変えてすぐに戻って来た。

「何かあったのか?」

「イフリア公爵家に嫁がれたロズリーヌ様がお戻りです!」

「叔母上が!?本当なのか?」

「はい。今、旦那様と奥様がお会いになっています」

「……俺も行く。先生、申し訳ありませんが、授業は中断させてください」

「ええ、わかりました」

イフリア公爵家に嫁いだという父上の妹ロズリーヌ様は、

嫁いだ後は一度もレドアル公爵家に来たことがない。

里帰りどころか、両親が倒れた時ですら帰ることを許されなかったと聞いている。

その叔母が戻って来ているというのは何か重大なことが起きたのか。

応接間にいるのかと思えば、まだ玄関を入ったばかりのところで話し合っている。

正確に言えば、泣き叫ぶような叔母上を父上がなんとか落ち着かせようとしている。

銀色の髪に紫目、父上や俺と同じレドアル公爵家の色。

美しい女性が人目も気にせずに涙をこぼし、何かを訴えている。

「お願いよ、お兄様!早く、あの子を!」

「落ち着くんだ、ロザリーヌ!」

「ええ、落ち着いてちょうだい。応接室に行って話をしましょう?」

「そんなことをしている間にあの子が殺されてしまうかもしれないのに!」

殺される?いったい誰のことだ?

とにかく、興奮してしまっているのをなんとかしなければ。

するりと叔母上と父上の間に入り込み、ぺこりとお辞儀した。

「え?」

「叔母上ですね。はじめまして、ジェラルドと申します。

大事な話ほど、落ち着いて最初から話してもらうのが一番早いです。

さぁ、まずは冷たい水を飲んでから」

「え、ええ……」

少しは冷静になれたのか、手をひいて応接室まで連れて行き、

侍女に用意させた冷たい水を渡す。

叔母上はそれを飲み干すと、また泣き始めた。

「まず、殺されるというのは誰のことだ?」

「ジュリアンヌよ!昨日からいなくなったの!」

「いなくなった?ジュリアンヌはたしか十歳だったよな?」

「ええ、そうよ」

話だけは聞いていた。叔母上には息子のレイモンと娘のジュリアンヌがいると。

俺にとっては従兄弟になるが、一度も会ったことはない。

「昨日のいつからいなくなったんだ?」

「……昨日の昼、レイモンが熱を出したと言われ、母屋に侍女たちと行った時、

ジュリアンヌだけは離れに残っていたの」

「母屋?離れ?どういうことだ?」

「ヴィクトルは私や侍女たちのことを気持ち悪がって、

母屋ではなく離れで生活するようにって。

でも、レイモンは魔力なしで生まれたから私から引き離されて、母屋で生活していたのよ」

「……なんてことだ。そこまで虐げられていたとは」

叔母上がイフリア公爵家に嫁いだのは王命だった。

それなのに結婚後は一切の関りを許されず、

叔母上がどんな生活を送っているのかすらわからなかった。

夜会で会う時もそばに公爵がいるから挨拶だけしかできず、

叔母上を可愛がっていた父上と母上が心配していたのは聞いている。

「レイモンが体調を崩した時だけ私が呼ばれるの。

でも、母屋は敵ばかりだから……侍女たちが心配して皆ついてきてくれて。

ジュリアンヌを一人で離れに置いて行ってしまったの。

戻ってきた時にはもうどこにもいなくて。

ヴィクトルに探すようにお願いしたのに、今朝になって急に……。

行方不明になったのはお前のせいだから責任をとって出て行けと……」

「なんていうことだ。イフリア公爵家では捜索していないのか?」

「おそらくしていないんだと思うの。

私と離縁したかったのならそれはかまわないの!

あの子を探して!今、ひどい目にあっているかもしれないのよ!」

「わかった。すぐに探そう。心当たりはあるか?」

「ヴィクトルの愛人かもしれないと思って……。

それをヴィクトルに言ったらひどく怒られて。

そのせいで追い出されたのかもしれないわ」

「ヴィクトルの愛人……アジェ伯爵夫人か?」

「ええ、お兄様も知っていたのね。たまに母屋に招かれているのを見たわ。

昨日もマゼンタ様の馬車が来ているのを見た侍女がいるの」

「アジェ伯爵家ならすぐに調べられる。

手配してくるから、マーガレット、ロズリーヌを頼んだ」

「ええ、ロズリーヌ、あとはラファエルに任せましょう」

「お義姉様……」

また泣き崩れた叔母上を母上が背中をさすって慰める。

父上がああいうのならすぐに調査結果が出ると思うが、

十歳の従妹が大丈夫なのか気になる。

さらわれたのが昨日。

ひどい目にあわされていなければいいが……。

「ジェラルド様、部屋に戻りましょう。先生がお待ちですよ」

「ああ、そうだな」

授業を中断してきたのを忘れていた。

母上たちは挨拶どころではなさそうだったので、そっと応接室を出て部屋に戻る。

だが、授業はまったく頭に入って来ず、先生には申し訳ないが帰ってもらった。

夕方になっても父上は戻ってこなかった。

夕食の席に叔母上は現れず、母上に聞けば心労で倒れているという。

もともとあまり身体の強い人ではないらしく、

魔力はあっても治癒術しか使えないそうだ。

髪をととのえることもせず、泣いていたけれど美しい夫人だった。

母上は婚約者として幼いころからレドアル公爵家に来ていたので、

叔母上とは本当の姉妹のように仲が良かったという。

離縁されて追い出されたのなら、レドアル公爵家に戻って来るんだろう。

夜になっても心配で眠れなかった。

頭の中では小さくなった叔母上が悪者に殺されそうになって泣いている。

まだ見たこともない従妹ジュリアンヌが心配で、

屋敷から飛び出して探しに行きたいくらいだった。

落ち着かなくて廊下に出て、玄関から外を見る。

探しに行けるわけもないのに、そうしなくてはいけない気になる。

ふと、門のあたりで誰かが騒いでいるのに気がついた。

夜着姿のまま、玄関から出て門へと駆け寄る。

そこでは知らない男が門番と言い合いになっていた。

「お願いします!旦那様に!」

「お前のような不審な男のためにこんな時間に起こせるわけはないだろう!」

「一刻を争うのです!このままではお嬢様が死んでしまう!」

「この家にはお嬢様なんていない!」

「違うんです!ジュリアンヌ様はっ」

「ジュリアンヌだと!?」