軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3.連れて来られた屋敷

ああもう、本当に殺されるのかもしれない。

そう思ったところで馬車が止まる。

もう一度男性に担がれて降ろされた所は小さな屋敷だった。

「ここに住むのもあと少しね。本当に長かったわ」

ため息をつくような女性の言葉で、ここが女性の屋敷なのがわかる。

「お母様!おかえりなさい!」

はしゃいだ子どもの声が聞こえて、そちらに目を向ける。

そこには女性にそっくりな黒髪の子どもがいた。

綺麗な緑目の女の子が女性の足に抱き着く。

私と同じくらいの年に見える。

「ただいま、シュゼット。いい子にしていた?」

「ええ。今日はお父様は一緒じゃないの?」

「……ええ。今日の約束はダメになったの。

でも、安心していいわ。もう少ししたらお父様と一緒に暮らせるから」

「本当!?お父様と毎日一緒に居られるのね!」

「ええ、だから今日は我慢してね」

「わかったわ!……ねぇ、ジムが抱えている男の子はどうしたの?」

シュゼットという女の子は担がれている私に気がついたけれど、

髪の短さからか男の子だと思ったらしい。

じっと見つめられるのが恥ずかしくて目をそらす。

どうして女性はこの子の母親なのに、

私にこんなひどいことができるんだろう。

いっそのこと、この子に助けを求めたら……?

「……あれ?でも、ドレスを着てる?

この子は男の子なのにドレスを着るの?」

「シュゼット、この子はね、頭がおかしいの。

どうしようもない悪い子だから、これから罰を受けるのよ」

「ふうん。そうなんだ。早く良い子になるといいね」

悪い子だと聞いて興味がなくなったのか、女の子は走って屋敷に戻ってしまう。

女性はそれを見て満足そうに笑うと、男性に指示を出す。

「それは牢に入れておいて。あとで楽しむわ」

「わかりました」

逃げることもできず、屋敷の地下に連れて行かれると、

奥の部屋へと入れられる。

そこは格子がついた牢のようだった。

「可哀想だが、もう逃げることはできない。

あきらめるんだな」

「どうしてこんなことするの?

あの人は誰なの?」

「……そうだな。死ぬ前に教えておいてやるよ。

あの方はマゼンタ様だ。

イフリア公爵家のヴィクトル様と恋仲で婚約寸前だった。

それなのに王命で他の令嬢と結婚することになり、

マゼンタ様は伯爵家に嫁がれた」

「伯爵夫人ってこと……?」

「今は未亡人だ。そしてヴィクトル様の愛人でもある」

「愛人……?」

それって、結婚していないのにそばにいる女性のことよね。

貴族には結婚した後で本当に好きな人を愛人にすることもあるって聞いたけれど、

お父様もそうだったんだ。

本当に好きな人と結婚できなかったのは可哀そうだけど、

それはお母様もそうだったのに。

お母様にも結婚の約束をしていた人がいたって知っている。

お互いにつらい思いをしているのだから、

お母様と私が責められることじゃないはずなのに。

「マゼンタ様はもう愛人でいるのに疲れたんだろう。

公爵夫人をどうにかして追い出すつもりだ。

そのためにはあんたが邪魔になる」

「そんなの私たちに関係ないのに」

「まぁ、殺される方は文句も言いたくなるか」

「あ、ちょっと待って!まだ聞きたいことが!」

まだマゼンタとシュゼットについて聞きたかったのに。

ジムという大男の足音が遠ざかって行く。

うす暗い部屋にはベッドと机だけ。

奥の方に手洗い場があったけれど、窓はなかった。

殺されると言っていたけれど、あとでマゼンタが来るんだろうか。

ベッドの上に座り、ひざを抱える。

どうしよう……怖い。

それに寒いし、お腹が空いた。

お母様や侍女たちは私がいないことに気がついてくれただろうか。

もしかしたら、お兄様の治療に時間がかかって、

まだ離れに戻って来ていないかもしれない。

誰も助けに来てくれなかったらどうしよう。

不安で眠ることもできずに、ただ泣いていた。

それからしばらく誰も牢には来なかった。

もう半日以上は過ぎた気がするけれど、正確な時間はわからない。

空腹でお腹が痛くなるのを我慢して時間が過ぎるのを待つ。

どうして誰も来ないのか、

殺すと言ったのは餓死させるつもりだったのか。

そんなことをぼんやりと考えていると気が遠くなる。

水すらも飲めない状況ではいつまで生きていられるかわからない。

このまま死ぬのかなと思ったら、キィと音がした。

「あら、まだ生きていたわ」

「マゼンタ様、何もわざわざ自分で殺さなくても」

「だって、あの女にそっくりなんですもの。

それなのに、髪色はヴィクトルと同じなのよ。

許せるわけないじゃない……」

「はぁ……そうですか」

入って来たマゼンタの手にはこの前よりも大きなナイフ。

逃げなきゃと思うのに、身体が動かない。

切りつけられた頬が痛いのか熱いのかわからない。

そこから血が流れていくのを感じる。

これ以上、切りつけられないように手で守ろうとすると、

両腕を何度も切られていく。

痛みで転がったら腹を蹴り上げられ、血を吐いた。

……ああ、もう死んじゃうんだ。

痛いけれど逃げる力はない。

また蹴られても動くことすらできない。

「……マゼンタ様、もう止めた方がいいです。

このままここで死んだら魔力が残るかもしれませんよ」

「魔力が残るって何よ?」

「魔力持ちを殺すと魔力っていうものがその場に残るそうです。

血を水で洗い流しても魔力は流れずに残るそうで、

もしここが調べられたら一発でバレます。

さすがにそうなれば公爵様でも庇えなくなりますよ」

「じゃあ、どうしろっていうのよ」

「もうこのまま放っておけば死にます。

貧民街にでも捨ててきますよ。そうすれば安全ですから」

「貧民街ね……わかったわ。

でも、ジムが捨てに行ったのが知られたら私が怪しまれるじゃない。

他の者に捨てに行かせなさい」

「わかりました。最近雇ったばかりの者に行かせます。

顔を覚えられていないでしょうから」

あぁ、もう。耳も聞こえなくなってきた。

もうお母様に会えなくなるんだと思いながら目を閉じて、

そこからは何も覚えていない。