軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クロに近付けていると……

収穫祭優勝者が行う精霊の森で一晩を過ごすと言う行事。

野宿などした事が無い俺は、不安を胸に秘めながら祠へとやって来た訳だが……そこへ何故か、偶然通りかかったかの様に軽い調子でクロが現れた。

「……本当にクロは毎回毎回突然現れるよな」

「あはは、カイトくんに会いたくなっちゃってさ、つい流れで来ちゃった」

「と言うか、どうやってここが分かったんだ?」

「え? それはカイトくんのネックレスに術式仕込ん……勘だね!」

「おい、ちょっと待て、何言おうとしたお前……」

術式仕込んでるって言いかけたよね今!? え? なに? このネックレスに、俺の居場所探知する様な魔法仕込んでるって事!?

何と言うか、聞き捨てならない発言が聞こえた気がするが、当のクロはニコニコと笑顔で口を開く。

「あっ! カイトくん、怪我したって聞いたけど、大丈夫?」

「え? あ、あぁ……もうすっかり」

「そっか~カイトくんが無事で良かった。あっ、そうだ! 収穫祭で、優勝したんだよね! 凄いねカイトくん! おめでとう!」

「え? あ、あぁ……ありがとう」

まるで機関銃の如く矢継ぎ早に告げてくるクロに圧倒され、俺は問い詰めようと思っていた事も忘れて頷く。

そして、何と言うか、うん……何だろうこれは……

優勝おめでとう、その言葉はさっきまでも耳にタコが出来る位聞いて来た。エルフのお偉方達に言われても、分不相応だと恐縮していた筈だ。

でもクロにその言葉を言われた時、俺の心に沸き上がって来たのは……嬉しさだった。

我ながら単純だと思うけど、頑張った事が結果に繋がった様な……俺はこの一言を聞く為に、今日一日頑張ったんではないかと、そう思える程充実感があった。

クロのそんな俺を見て、太陽の様に眩しい笑顔を浮かべながら、見慣れた紙袋を取り出す。

「そんなカイトくんに、はい、どうぞ!」

「……出たよ、ベビーカステラ」

「ふふふ、今回のは『カイトくん優勝おめでとうバージョン』だからね! いつもとは一味違うよ!」

「……なにそれ?」

もはや恒例となったベビーカステラの登場かと思ったが、クロが言うには今回のベビーカステラは特別らしい。

ドヤ顔でほぼ平らな胸を張るクロを見て、そのネーミングセンスはどうにかならなかったのかと言いたかったが、それをぐっと堪えてベビーカステラを一つ手に取る。

見た目はいつもと同じに見えるけど、中身が違うんだろうか? まさかシロさんの所で食べたわさび入りみたいなゲテモノ系じゃないだろうな?

「じ~じ~」

「それ口で言うの!?」

「じ~~~~~~~」

「い、いただきます」

期待を込める様な目で、擬音を口で言いながら俺を見つめてくるクロ。

食べないという選択は選べない様で、俺は覚悟を決めてベビーカステラを口に運ぶ。

「……あれ?」

「どう?」

「いや、普通に美味しいけど……何かいつもと違う様な?」

食べてみたベビーカステラは、特に何か変わった中身がある訳でもなく、ごくごく普通のベビーカステラに思えた。

ただ何と言うか、いつも食べてるベビーカステラと何かが違う気がした。

例えるのは難しいが、いつもより少し雑な味と言うか、手作り感が強い味で……正直いつもより俺の好きな味だ。

「う~ん。やっぱいつものより美味しくない?」

「え? いや、俺としてはこっちの方が好みの味なんだけど……」

「ホントッ!? 良かった~流石に料理じゃアインに敵わないから、駄目かと思ったよ」

「うん? それって、どういう事?」

「あ、いや……実はそのベビーカステラ、ボクが作ったんだよ。美味しく出来てて良かった~」

何とこのベビーカステラはクロが作ったらしい……と言うか、今までのもずっとクロが作ってると思ってたら、あれアインさんが作ってたのか!? わさび入りベビーカステラとか、なんてもん作らせてんだ!?

クロの発言に呆れながらも、このベビーカステラは本当に俺好みの味で、いつもより早いペースで次々とそれを口に運んでしまったので、何も言えなかった。

ベビーカステラを食べ終わり、畳の上でクロと並んで天井の穴から見える綺麗な月を眺める。

そう言えば、クロと出会ったばかりの頃も、こうやって一緒に月を眺めた事があったっけ? 何だろう、ほんの一ヶ月程度前の事なのに、随分昔みたいに感じる。

「あっ、そうだ。カイトくん、この前『シャルティア』がカイトくんの事褒めてたよ」

「シャルティア? 誰それ?」

「世間からは『幻王・ノーフェイス』って呼ばれてるね」

「は?」

「ボクと仲が良くて、時々ふらっと遊びに来るんだけど……この前来た時、カイトくんの事『見込みがある』って言って褒めてたよ。シャルティアが誰かを褒めるなんて珍しいし、凄い事だよ!」

「い、いや、ちょっと待って!? 俺、そのシャルティアさんって方と会ったことないんだけど?」

まさかここで幻王の名前が出て来るとは思わなかった。

けど、俺の事を褒めてたって……それらしい方に心当たりは、今思い返してみてもやっぱりない。

「いや、たぶん会った事はないんじゃない?」

「え?」

「シャルティアの配下は世界中にとんでもない数が居て、本当に何処にでも居るからね。シャルティアは世界一の情報通だよ。カイトくんの事は、たぶんこの世界に来た時から知ってると思うよ」

「なにそれ怖い」

どうも幻王は何でも知っていると言う感じの存在らしい。

つまるところ世界中に諜報員が潜んでいて、あらゆる情報が幻王の所に集まっていると言う事……正直、ある意味一番恐ろしい六王かもしれない。

「カイトくんに興味持ってる感じだったし、その内会いに来るかもしれないね」

「え? そ、それ大丈夫なの? なんか、リリウッドさんに幻王には気をつけろって言われたんだけど……」

「う~ん。確かにシャルティアはドライな所があるけど……メギドよりは話が通じるから大丈夫だよ」

「メギドって……戦王だったよな。え? そのメギドさんはもっとヤバいの?」

「たぶん出会ったら最初に『一戦交えよう』って言ってくると思うよ。戦うの大好きだからね」

「なにそれ怖い」

初対面の開口一番で戦いを挑んでくるとか、どこのバーサーカーだよ。てかそれと比較されるって事は、幻王の方もかなりやばいんじゃないのか!?

俺がまだ会ってないのは戦王、竜王、幻王だけど……その内二体が危険って……い、いや、まぁでも、会うと決まった訳ではないし……本来六王と早々会える筈もないんだから、大丈夫、大丈夫だ。

「……カイトくんは、どんどん凄くなるね」

「……うん? どうしたんだ、急に……」

幻王と戦王の事で頭が混乱していると、そこに優しい声色でクロが呟いた。

「ボクが思ってた以上に、カイトくんは頑張って、成長してるって事……」

「……」

呟く様に話すクロはこちらを向かず、視線は空に浮かぶ月を見つめている。

元々可愛らしい外見をしている事もあってか、月明かりに照らされるその姿は幻想的で、芸術の様にさえ感じられた。

「……欲しいものがあるんだ」

「え?」

「ずっとずっと前から欲しくて欲しくて、でも、見つからなくて、手に入れられなくて……ボクはずっとそれを探してる。たぶん、この世界に生まれた瞬間から……」

静かに告げられたその言葉の答えは、まるで想像できなかった。

創造神と戦える程の力を持ち、世界一と言える程のお金を持っていて、多くの家族や慕う人達に囲まれ人望もあり、魔界の頂点と言って良い名声もある。

そんな何もかもを持っているクロが、生まれた時からずっと手に入れられていないもの……それは一体何だろう? とても貴重なものだろうか? はたまたこの世界に存在しない何かだろうか?

そんな俺の考えを察したのか、クロはこちらを向き微笑みを浮かべる。

「別に珍しいものじゃないよ。カイトくんも、他の皆も……きっと当り前に持ってるものなんだと思う。だけど、ボクはどうしてもそれが手に入れられないんだ……何度も、何度も挑戦してみても駄目だった。見つける事すら、出来なかった」

「……それは、一体……」

「……内緒。でも……そうだね。もし、それをさ、カイトくんが見つけてくれたら……ボクは……嬉しいかな」

「……」

月明かりに照らされながら、謎多き少女は微笑む。

それは降り注ぐ光の様に儚く、目が離せない程美しい笑みだった。

「まっ、それは置いといて、カイトくんそろそろ寝た方が良いんじゃない? 疲れてるでしょ」

「え? あ、いや……うん。そうだな」

急に話題を切り替えたクロの言葉は、はぐらかす……と言うよりは、これ以上は踏み込まないでくれと言う懇願の様に感じられた。

結局疑問は解決していない、相変わらずクロに関しては分からない事が多い。

だけど、一つだけ分かった事がある。彼女は何かを探している、心から望む何かを……それが分かれば、クロに大きく近づける様な気がした。

「……毛布と畳、流石に枕はないけど、十分寝れそう」

「何言ってるのカイトくん? 枕ならあるじゃん」

「え? どこに?」

「ほら、ここに」

そう言って笑いながら、クロは自分の膝をポンポンと叩く。

「い、いや、流石にそれは……」

「別に初めてって訳じゃないんだし、ほらほら遠慮しないで」

「……うっ、分かった」

「うんうん、素直が一番だよ!」

結局また押し切られ、俺は気恥ずかしさを感じながらクロの膝に頭を乗せる。

するとすぐに小さな手が俺の頭に添えられ、優しく髪を撫でてくれた。

たったそれだけで、俺の体から一気に力が抜け、心地良い眠気を感じて目を閉じる。

頭の後ろと前からクロの温もりを感じつつ、ゆっくりと意識がまどろみに沈んでいく。

「……おやすみ、カイトくん」

「……うん……おやすみ……クロ……」

拝啓、母さん、父さん――クロは相変わらず謎の多い存在だ。だけど、確かに感じる事がある。少しずつ、一歩ずつではあるけど――クロに近付けていると……

安心しきった表情で眠る快人の頭を撫でながら、クロムエイナは少しだけ寂しそうな笑顔を浮かべる。

「……ホントに、酷い子だよ、カイトくんは……もう、随分前に諦めちゃったのに……」

優しく、慈しむ様に快人の頭を撫で、クロムエイナは誰にでも無く呟きを浮かべる。

その表情は複雑な心が現れているかのようで、悲しんで良いのか喜んでいいのか分からないと言った感じだった。

「……1年で居なくなっちゃうくせに……何で、こんなにボクを困らせるのかな?」

静かな祠に美しい声が響く、それはどこか泣いている様にも聞こえる声。

とても深い思いの籠った、小さな嘆きと歓喜。

「……カイトくんは、何度ボクの予想を裏切ってくれたかな? シロとの会話……アイシスとの出会い……クロノアちゃんの話……」

そこでクロムエイナは撫でていた手を止め、快人を起こさない様にゆっくり、その頭を抱きしめた。

「……期待しちゃうよ……もしかしたらカイトくんならって……」

まるで宝物を扱うかの様な抱擁を続け、頬を少し朱に染め、クロムエイナは『今は』決して快人には直接告げない想いを口にした。

「……大好きだよ……カイトくん」