軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

やって来たよ

夜になり宝樹祭の本祭が始まった。

リグフォレシア中央の広場が綺麗に飾り付けられ、大勢の人達で賑わっている。

今年は狩猟大会が中止となった影響もあってか、本来は二人いる筈の優勝者が俺一人になった事もあってか、色々な人が俺の元に殺到した。

正直沢山人がいるし、俺を簡単には見つけれないだろうとタカをくくっていたが……胸元に付ける決まりの勲章によって、俺が優勝者である事は丸分かりだった。

「優勝おめでとう、素晴らしかったよ。ところで……丁度うちの娘も君と同じ位で……」

「いや、えと……」

壮年の男性エルフが何故か娘を必死に紹介しようとしてきたり……

「あの、私、近く王都に行くんですけど……良かったら、一緒に食事とか……」

「は? え?」

若い女性エルフが頬を染めながら、食事の誘いをしてきたり……

「ミヤマ様……私の様な芋虫が……貴方様に挑もうなど、愚かな真似をしました。申し訳ございませんでした」

「……ど、どちら様でしょうか?」

精霊魔導師と思わしき女性エルフに、何故か初対面で土下座されたり……

ともかく非常に大変な事態になって、俺は困惑して上手く対応が出来なかった。

しかし、そこで……思わぬ存在が、救世主となってくれた。

「無礼者! ご主人様に気安く話しかけるな、八つ裂きにするぞ!!」

「……」

そう、ここでまさかのアニマが大活躍。颯爽と現れ、俺に向け津波の様に迫ってくる人達を、防波堤の様に食い止めてくれた。

うん……時々何人か殴り飛ばされてるように見えるけど、質問攻めが止んだのは本当に助かる。

「ありがとう、アニマ。助かるよ。もうちょっと加減してあげて欲しいけど、その調子で頼む」

「ご主人様ぁ……はい! 不肖アニマ、全霊でまいります!!」

俺に褒められたのが嬉しかったのか、アニマは花が咲く様な笑顔をこちらに向けた後、より張り切って迫る人達を追い返していく……何か殴り飛ばされてる数が増えた気がするんだけど、加減する様にって指示聞こえてるよね? あっ、また一人吹っ飛んだ……

アニマの大活躍……いや、大暴走とも言える働きを見ながら、俺はエルフ族のお偉方に挨拶をしていく。

やはりリリウッドさんの事もあって、皆俺に対して好意的に接してくれ、挨拶回りは順調に進んでいった。

「カイトクンさん! 優勝おめでとうですよ~」

「ラズさん、ありがとうございます」

ラズさんが祝いの言葉を投げかけてくれ、それにお礼の言葉を返す。

そこでふと気が付いたが、ラズさんと一緒に宝樹祭に来てる筈のノインさんの姿が見当たらなかった。

「あの、ラズさん。ノインさんは?」

「……それが、ノインの様子がまた可笑しいんです」

「え? 何かあったんですか?」

「よく分からないんですけど、宝樹祭の初日に元気になってから、時々おかしくなってるですよ……ほら、ノイン! こっち来るですよ!」

何やらノインさんの様子がおかしいと言う話を聞き、心配になりながら尋ねると、ラズさんはどこかを向いて声をかける。

その声を聞いて俺もそちらを向くと、建物の影に隠れているノインさんの姿が見えた。

ノインさんはこちらを一度見ると、甲冑でよく分からないが何か慌てた様に体を動かし、少ししてこちらの方へゆっくり歩いてくる。

「ノインさん?」

「ッ!? か、かか、カイトさん、お、おお、おはようございまちゅ!」

「……今、夜ですけど?」

「ゆゆ、優勝、おお、おめ、おめでとうごじゃいます!」

「は、はい……ありがとうございます。えと、ノインさん大丈夫ですか?」

「ひゃい!?」

確かにノインさんの様子は、どこかいつもと違う。

と言うか何やらやたら慌ててるみたいで、発言も噛みまくってる。

本当にどうしたんだろう? もしかして、体調が悪いとか!?

「ノインさん、もしかして病気にでも……」

「あわわ、かい、カイトさん、顔、近……し、し……」

「し?」

「失礼します!!」

「えっ? ちょっ、ノインさん!?」

心配になり一歩近づくと、ノインさんは更に慌てた様子で……凄まじい速度で逃げて行ってしまった。

ノインさんが去っていき、残された俺とラズさんは首を傾げて合う。

「……ノインさん、本当にどうしたんですか?」

「さぁ、なんだか、前にカイトクンさんと会ってから、時々コンゼンコウサイだとか、シュウゲンだとか訳の分からない事呟いてるです」

シュウゲン? 祝言だろうか? いや、そこで結婚とかが出てくるのは意味不明だし、別の何かだろう。

う~ん、心配ではあるが……とりあえずそちらはラズさんに任せて、俺は挨拶回りを継続する事にして、ラズさんと一言二言交わして別れた。

騒がしくも楽しげな雰囲気のリグフォレシアから離れ、俺は一人精霊の森を歩いていた。

どうやら精霊族側にも作法がある様で、昼間の様に大量の精霊が寄ってきたりはせず、案内役らしき数体の精霊が俺を案内してくれる。

その案内に従って森を歩いて行くと、祠……と言うより洞窟の様なものが見えてきた。

「これは、想像以上に……」

思っていたよりずっと寝るのが大変そうな場所だった。

そのまま中に入ると……成程、天井部分に丸い穴が空いており、月明かりが差し込んで幻想的な光景になっており、祠の壁際に精霊達がずらりと並んでいる。

やはり何らかの作法があるみたいで、大量の精霊達は広い祠の中で綺麗に整列したままでジッとしている。

うん? どうすればいいんだろう……本当にこの中心で寝るだけ?

もしかしたら、本来は精霊達に対して優勝者の顔見せを行うという意味合いが強いのかもしれない。

俺はリリウッドさんが山の様に精霊を引きつれているのを見ていたのでアレだが、本来ならこれだけの数の精霊を見る事が出来ると言うのは、とても貴重な体験と言えるのかもしれない。

そんな事を考えながら、月明かりの降り注ぐ祠の中を眺めた後、俺は足元に視線を動かして溜息を吐く。

うん、それはそれとしても……やっぱここで寝るのは、現代っ子の俺としては大変辛いものがある。

地面は土だ……うん、当り前の事だけど紛う事無き砂のベットだ。

石とかじゃなくて良かったと安堵するべきか、何でこうなったんだと頭を抱えるべきか……

「体ガチガチになりそう……毛布だけじゃ厳しいよな……」

「じゃあ、タタミでも下に敷く?」

「ああ、そうだな、畳があればありがた……え?」

「うん?」

肩を落としながら独り言を呟いたと思ったが、何故か返事が聞こえて来た。

精霊達が喋った訳ではない……と言うか、物凄く聞き覚えがある。と言うか殆ど毎日聞いてる声だった。

「……何で居るの? クロ」

「えへへ、来ちゃった」

俺の言葉に、はにかむ様な笑顔を浮かべて答えるクロ。

その表情は、差し込む月明かりのお陰か、輝いている様に見えた。

拝啓、母さん、父さん――収穫祭の優勝者として、精霊の森で一晩過ごす事になったよ。そしてそこに、何故かクロが――やって来たよ。