軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

絶対者の一日~深夜~

クロムエイナが帰り、快人も風呂へと向かったため、ネピュラはそろそろ庭の世界樹の元に戻ろうかと廊下を移動していた。

すると視線の先でなにやら悩まし気な表情を浮かべている存在を見かけて、首を傾げながら声をかけた。

「アニマさん、キャラウェイさん、こんばんは……どうしたんですか、こんなところで?」

「ああ、ネピュラか……いや、少し判断に迷うことがあってな」

「執務室に移動してから詳しく議論するつもりだったんだけど、ついつい立ち止まっちゃったんだよ」

声をかけたネピュラにアニマとキャラウェイが言葉を返す。ふたりの手にはデザイン画のようなものが握られており、それを見たネピュラは首を傾げながら尋ねる。

「そちらは……ドレスのデザイン画ですか? それが、悩み事でしょうか?」

「ああ、実は出資している店から相談を受けてな。そこはあまり大きな店ではないのだが、今回たまたま貴族からパーティー用のドレスの依頼を受けることになったみたいで、そのデザインについて相談されたんだ」

「その店はあんまり貴族向けのドレスは作ったことが無いみたいで、アニマが公爵家ともつながりが深いってことで助言を求めてきたみたいなんだけど……私もアニマも、そういうのはあんまり詳しくなくてね」

「イルネス殿やリリア殿に聞ければ話は早いのだろうが、時間も遅いのでとりあえずキャラとふたりで意見を出し合っていたのだが……やはり、どうにもな」

「なるほど……ちょっと見てもいいですか?」

ネピュラはアニマとキャラウェイが手に持っていたデザイン画を受け取り、それを一通り眺めたあとでふたりの方を向いて口を開く。

「……注文した貴族の爵位って分かりますか?」

「ああ、伯爵らしい」

「でしたら、この中では候補にできるのは、コレだけだと思います」

「え? ネピュラちゃん、分かるの?」

一枚のデザイン画を選んだネピュラに、キャラウェイが驚きながら聞き返す。

「妾もそこまで詳しいわけではありませんが、先日、主様と一緒に服などの流行が載った雑誌を読みました。このデザイン画はほとんどハイドラ王国で流行っている……言うならば流行最先端のデザインにしてありますが、高位貴族となると目新しさだけではなく、爵位に見合った格も必要になってくるかと……」

「それを満たしているのが、この一枚だけというわけか?」

キャラウェイと同じように驚いた表情を浮かべながら尋ねるアニマに、ネピュラは一度頷いてから言葉を続ける。

「これを考えたデザイナーは流行に敏感なのでしょうね。どれもよいデザインですし、ただ流行りに乗るだけではなく独自性も感じられますが……少し流行を意識し過ぎな印象がありますので、高位貴族に相応しい品や格を備えたのはそちらだけかと思います」

「な、なるほど……ネピュラちゃんは凄いね」

「お任せください、妾は絶対者ですからね!」

「本当に助かった。ではこのデザインを第一候補として、イルネス殿かリリア殿に少しだけ確認をしてもらって店に話を戻すとしよう」

デザインをすべて見てもらうより、候補が絞られている方がリリアやイルネスにも相談しやすく、アニマとキャラウェイはネピュラにお礼を言って執務室の方に移動していった。

そんなふたりを手を振って見送ってから、ネピュラも庭の世界樹の元へと移動する。

すっかり夜も更けた時刻、ネピュラは世界樹の枝に腰かけて夜空に浮かぶ月と星を眺めながら思考を巡らせていた。

(やれやれ、初めはどうなることかと思いもしたが、ずいぶんと馴染んだものだ。なかなかどうして、最初は不満も多かったが、ここの環境は悪くはない)

そんなことを考えていると、不意に快人の部屋の窓が開き、快人がベランダに出てくるのが見えた。ネピュラがそちらを向くと、快人は軽く微笑んだあとで手招きしたので、そちらに飛んで移動する。

「主様、どうしました?」

「いや、風呂に入って火照った体を少し冷まそうとベランダに出たら、たまたまネピュラの姿が見えたからね。ちょっと話でもと……どうかな? もう、ここでの生活には慣れた?」

「はい。皆さん良い方ばかりですし、それなりに仲良くも慣れたと思っています」

「そっか、ネピュラは本当にしっかりしてるから、そこまで心配はしてなかったけど……楽しそうでよかったよ」

そっと手を伸ばして頭を撫でる快人を見て、ネピュラも楽し気に微笑みを浮かべたあとで、快人と他愛のない雑談を交わす。

十分ほど雑談をして、丁度話が途切れたタイミングで快人は優しく微笑みながら告げる。

「……さて、俺はそろそろ寝ることにするよ。ネピュラは眠らないんだっけ?」

「はい。妾に睡眠は必要ありません」

「そっか、ネピュラなら大丈夫だとは思うけど……疲れたりしたら、遠慮せず相談してね」

「ありがとうございます」

「うん、それじゃ、おやすみ」

「はい。おやすみなさい、主様。よい夢を」

ネピュラの頭を一撫でしてから部屋に戻っていく快人に手を振り、快人が窓を閉めるのを確認したあとでネピュラは世界樹の枝に戻った。

そして枝に座りながら、先ほど快人に撫でられた頭にそっと手を当て、楽し気に微笑む。

(……やはり、そうだな……こういう日々も、悪くはないな)