軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宮間快人の長い一日③

エデンさんに最初に連れてこられたのは、少し前の話に出ていた無人島だった。あまり広くはなく、海の真ん中にポツンとあるような感じだ。

生物はほとんど住んでいないとの言葉の通り、森のようなものがあるわけでもなく草や花がまばらに生え、ところどころ土の地面が見えている。

観光地などの絶景とは違い、目を引くような美しい光景が映るわけでは無い……だが、それでも、俺はこの景色が結構好きだった。

昔……小学生の時に母さんの実家に遊びに行ったことがある。母さんの実家は結構な田舎で、最寄りのコンビニでも数キロ先といった、特になにもない場所だったが、都会とはまた違ったその景色が物珍しかった。

その際に、母さんの実家の裏手にある小さな山に登ったことがある。いや、山というか丘程度の小ささで、ただ草を刈ってあるだけのデコボコの道を歩いて上った先で景色を眺めた。

見えるのは民家と田んぼ、他の山とかそんな程度で、思い返せば高さも大したことは無かった。観光地のような美しい景色でもなく、特に目を引くなにかがあるわけでもないが……その景色を眺めていると、なんだか言いようのない安心感があって好きだった。

美しい絶景を見るのも素晴らしいが、美しい景色を眺めるというのも……なんだかんだで少し疲れてしまう。

だからこそ、なんでもない景色をぼんやりと眺めるような、ひどくリラックスできる雰囲気が……結構好きだった。

「……エデンさん、静かでいいところですね」

「ええ、本当にいい雰囲気です。特に他の肉塊どもが居ないのがいいですね。愛しい我が子と自然しか視界に映らないというのは、とても素晴らしいことです。もちろん愛しい我が子と並べてしまえば、他の景色など目に入るとは思えませんが、愛しい我が子を彩る背景としては悪くはないと評価を下せますね。個人的にこういった小さな島というものにも思い入れはありますし、そこに我が子と共に居ると思うと溢れる愛を止められません。いまこの瞬間を永久に保存できたらと、そう思いますし、実行も可能ですが……移り変わる愛しい我が子の姿を見れないというのも大きなマイナスなので、なかなか判断に迷う部分ではあります。そもそも……」

……うっそだろ……ほんの十数秒目を離しただけだぞ? ついさっきまでフェイズ2だったんだぞ? 全部すっ飛ばして暴走のスイッチが入ってやがる!?

な、なんてことだ……早すぎる。これはもう完全に駄目だ、クロに助けを求めてお開きに……。

「……え?」

エデンさんが暴走してしまったので、これで終わりだとそう思った直後、不意に景色が切り替わった。まるで宇宙のような空間になり、突如飛来した『極太レーザーがエデンさんを跡形も無く消し飛ばした』。

「え、えぇぇぇぇ……」

突然の異常事態に視線を動かすと、遥か遠方にレーザーを放ったであろう巨大な鉄の星みたいなものが見えた。

アレは一体何だろうと、そう思うより先に目の前に再びエデンさんが現れ、なにも言わずに姿を消し、少しして景色が元の無人島に戻る。

そして、数秒の後に再びエデンさんが戻ってきた。

「……危ないところでした。驚かせて申し訳ありません、愛しい我が子」

フェイズ1に戻ってる? なんだこれ、今度はなにをしたんだ?

「えっと、エデンさん……いまのは?」

「対策のひとつです。愛しい我が子への愛が一定の基準まで高まった場合に、問答無用で一度この体を消し飛ばすように設定していました。確実とは言えませんが、再生までの僅かな時間思考をシャットアウトすることで、ほんの微かに理性を取り戻せました。そして、即座に別空間に移動して、クールダウンしてきました」

「……そ、そうなんですか、そんな対策までしてきたんですね」

「正直、何度も使える手ではありません。いちおうもうひとつ『最後の対策』を用意してはいますが、ギリギリだったと言っていいでしょう」

「……」

なんだろうこの気持ち、なんて言葉を返せばいいか分からない。他の対策も用意していた本気度に感心するべきか、危機的状況だったみたいな空気出しつつも……要するに内容は自分が暴走するかどうかであることに呆れればいいのか、そこまでしなければ止められない重すぎる愛に戦慄するべきか……非常に迷う。

「……その、気を取り直して歩きながら景色でも見ましょうか?」

「ええ、そうしましょう。愛しい我が子といると、つい母性が高ぶって爆発しそうになりますね」

「た、大変ですね」

「母としては幸福なことですが……」

……母性って、高ぶるとか爆発するそういう表現をするようなものだったかな? あと、アレを果たして母性と言っていいのだろうか……まぁ、ツッコミを入れても疲れるだけだと思うので、気にしないでおこう。

しかし、他にも最後の対策があるって言ってたけど……体を消し飛ばすような方法より、さらに上の対策って、一体なんだろうか?

なんだか恐ろしいが……確実に、今後その段階まで進むであろうことは予想できていた。