作品タイトル不明
六王幹部に会おう・七姫編②
魔力に導かれるという、不思議な感覚。なんとなくどちらに進めばいいかが分かるというような感じで、導かれるままにユグフレシスの街から森へ移動して、森の中を歩いていくと十数分ほどで開けた場所に辿り着いた。
視線を動かしてみると、両膝を突き祈りを捧げているリーリエさんの姿が見えた。
差し込む陽光に煌めく木々も相まって、とても神聖な雰囲気を感じた。その姿に少しだけ圧倒されながら近づくと、リーリエさんはゆっくり立ち上がりながらこちらを振り向いた。
「……改めまして、こんにちは、ミヤマカイトさん。こうしてお会いできたこと、嬉しく思います」
「こんにちは、リーリエさん……えっと」
「神界の一件でのお礼ですか? どうかお気になさらず……手土産もあるのですか、では拒否するのも逆に失礼かもしれませんね」
「あ、はい。その節にはありがとうございました」
「お役に立てたようなら幸いです。ふむ……そうですね、私は食事は行わないので、菓子折ではないものの方が」
なんというか、表層意識が読めるリーリエさんとの会話はすごく展開が早い。こちらの言いたいことをすぐに理解してくれるというのは、本当にテンポよく話が進む。
クロやアリスとはまた違った話しやすさを感じる。いうならば、シロさんとの会話に近い感じだ。
そんなことを考えていると、なにやらリーリエさんが驚いたような表情に変わって沈黙した。
「……」
「リーリエさん?」
「いえ、変わった考え方だなぁと思いまして……普通は不気味がるものなんですが……貴方の器の大きさ故、ですかね」
たしかに心を読まれるというのは忌避される要因になるかもしれないが、リーリエさんが読み取っているのはあくまで表層意識だけ。心の奥底まで覗かれるわけでもないのなら、むしろ話しやすいと思う。
あとなによりも……もう『慣れた』。遠隔でも余裕で心が読めるシロさんがいる以上、心を読まれるのなどいまさらである。
そんな俺の言葉を聞いて、リーリエさんは少し考えるような表情を浮かべたあと、真剣な顔で口を開く。
「……貴方の噂自体はずっとから聞いていました。もし、貴方にお会いすることがあったら、一度聞いてみたいと思っていたことがあります」
「聞いてみたいこと、ですか?」
よくはわからないが、雰囲気から察するにこれはリーリエさんにと取って大事な質問なのだろう。そう考えて、俺も背筋を伸ばしてリーリエさんの言葉を待つ。
「……辛くはありませんか?」
「……え?」
「他者の気持ちがわかる。それは決していいことばかりではありません。他者の悪意まで感じてしまうというのは、辛くはありませんか?」
「……」
その質問を聞いて、彼女が真剣な表情をしていた理由もよくわかった。
これは、おそらくリーリエさんの経験談に基づくものなのだろう。実際俺も心当たりがないと言えば嘘になる。
ハッキリ言ってしまえば、この異世界に来たばかりのころリリアさんの屋敷はひどく居心地が悪かった。なんとなく自分がイレギュラーな存在であるという気がしていた。
アレはおそらく、感応魔法の才能が有った俺が無意識のうちに周囲の人の感情を感じていたからじゃないかといまでは思っている。話しやすいと感じる人と、話しにくいと感じる人がいたのを覚えている。
例えば、専属に付いてくれたイルネスさんは話し方や表情こそ独特だったものの、すごく話しやすいと感じた。しかし、他のメイドの中には口調も丁寧で表情も柔らかいはずなのに、どうにも話しにくいと感じる相手もいた。
まぁ、いまとなってはそんな相手はほぼいないのだが……。
「たしかにそういう経験はあります。辛かったと感じたこともあります」
改めて思い返してみれば、リリアさんの屋敷に住む人で、一番最初……初対面の時から俺に対して好意的に接してくれた人は少ない。リリアさん、ルナマリアさん、ジークさん……そしてイルネスさんの四人だけだった。
ただそれは本当に最初だけだ。屋敷で過ごし多くの人と言葉を交わすうちに、徐々に屋敷の中は居心地のいい空間へと変わっていった。
「でも、俺は周りに恵まれました。数は少なくとも、心から俺を歓迎してくれていた人が確かにいました。だから、いまはまったく辛くありませんよ。むしろすごく幸せだと思っています」
「……そうですか」
俺の返答を聞いたリーリエさんは、どこか嬉しそうに微笑んだあと、ふたたび口を開いた。
「……もし貴方がその力のせいで不快な思いをしていたなら、似た力を持つ私なら、苦悩も理解でき相談に乗れるだろうと思っていましたが……ふふ、どうやら余計なお世話でしたね」
「いえ、気を使ってくださってありがとうございます」
「己は周囲に恵まれたと迷いなく口にできることはとても幸せなことです。できれば、この先も貴方がその思いを持ち続けてくれることを望みます」
「きっと大丈夫だと思います……本当に、俺の周りには優しい人ばかりいますから」
「ふふふ、それなら、心配はいりませんね」
なんだろう、まだ出会って少ししか経ってはいないが、リーリエさんもまたとても優しい方だということは伝わってきた。
似た力を持つ俺を心から心配してくれていたり、実際に困っていたなら助けてくれるつもりだったのだろう。
なんとなく仲良くなれそうな……そんな気がした。