作品タイトル不明
3の名を持つ太陽⑤
VRゲームでガッツリ遊んだためか、夕方と言っていい時間になっていた。するとそのタイミングで、イルネスさんによってリリアさんからの伝言が俺に届いた。
「トーレさん、チェントさん、シエンさん……リリアさん……えっと、隣の公爵家の当主が、よろしければ夕食を食べていかないかと」
今回のトーレさんの来訪はもちろんリリアさんに伝えてある……が、トーレさんだけでなくチェントさんとシエンさんも有名ではないみたいで、リリアさんもルナさんもまったく聞き覚えのない名前だという話だった。
ジークさんの見立てではチェントさんとシエンさんは、伯爵級でも上位レベルという話だが……あまり表立って動いたりはしていないのかもしれない。
「い、いえ、そんな……」
「そこまでお世話になるわけには……」
「すぐ食べれるの? いや~楽しみだなぁ」
「「……トーレ姉様、ちょっとこちらに」
「はえ?」
俺は普段基本的にリリアさんの屋敷で食事をしている。料理長ともそれなりに仲良くしているし、わざわざ隣り合っている家で、別々に料理人を雇う必要もない。食費を渡して俺の分も作ってもらっている。
まぁ、もちろん俺の家の方にも食堂や台所というのはある。今回はリリアさんの気遣いで、食事はイルネスさんに頼めばすぐに俺の家の方の食堂に持ってきてくれるらしい。
チェントさんとシエンさんは遠慮している様子だったが……もちろんトーレさんが遠慮などするわけもなく、一切の迷いなく食べていくことに決めたらしい。
チェントさんとシエンさんが叱っているみたいだが、トーレさんはメンタル強者なので、まず間違いなく最終的にふたりが押し切られるだろう。
少し眺めていると、やはりふたりが折れたみたいで、申し訳なさそうな表情でご馳走になると言ってきた。
もちろん俺としてはまったく問題は無いので、三人を食堂に案内することにした。
食事の席でも、明るいトーレさんのおかげで会話はとても弾んで、和やかな雰囲気で食事は進んでいく。
「……そういえば、トーレさんもセーディッチ魔法具商会で働いてるんですか?」
「働いていると言えば、働いてるけど……特に役職とかあるわけでもないんだよね」
「トーレ姉様は少々特殊な部署で、機密性の高い仕事を行っているんです」
「……なるほど」
トーレさんのどう取るべきか迷うような発言にシエンさんが捕捉を入れる。まぁ、世界最大と言っていい大商会であれば、機密のひとつやふたつあって当然だろう。
わざわざ、機密性の高い仕事という風にお茶を濁すあたり、深く聞くべきではないだろう。
「私は自分の魔力を注いで魔水晶の純度を変えられるから、高純度の魔水晶を作るのが仕事だね!」
「……トーレ姉様」
「え? 別にカイトになら話してもいいでしょ?」
「そうですが……いま、せっかくシエンとミヤマさんが気を使ったのに、即座に無にしましたね」
なるほど、いまの話でだいたい察した。魔水晶は純度が高いものの方が希少であり高価……それをトーレさんは作り出せる。
しかも、話の流れを見る限りそれは誰にでも出来るというわけでは無いのだろう。たぶん先程言っていた比率を変える魔法によるものだと思う。
それでいろいろ合点がいった。チェントさんとシエンさんが自分たちのことを護衛と言っていたのは、そういうことだったのか……。
トーレさん自身は戦闘力は皆無ではあるが、希少かつ相当の富を生むであろう特殊な能力を持っている。だからこその実力者の護衛……それによからぬことを考えるものが居ないとも限らないので、情報は機密になっているのだろう。
だから、リリアさんたちもトーレさんたちのことは知らなかったわけだ。
「……トーレさんって、実はすごい方なんですね」
「あれ? おかしいな、その言い方だと、いまの話聞くまではただ馬鹿だと思ってたって聞こえるんだけど?」
「その通りです」
「あ~酷いんだ、酷いだ~。私は深く傷ついたよ。というわけで、ハムいただき!」
「あっ、ちょっ!?」
たまたま隣の席に座っていたこともあって、トーレさんはサッと素早い動きで俺の皿からハムを強奪して口に運んだ。
それを大変美味しそうに食べながら、傷ついたとは口ばかりの笑顔で告げる。
「賠償としてハムをいただく!」
「もう食べてるじゃないですか……」
「賠償として、ハムをいただいた!」
律儀に言い直して、えっへんと胸を張るトーレさんを見て、思わず笑みがこぼれる。子供っぽさを感じる仕草ではあるが、この人はなんというか行動ひとつひとつが楽しそうだ。
その瞬間を全力で楽しんでいるというのか、会話しているときもニコニコしてるし、ゲームもこれでもかってぐらい全力で遊んでたし、いまの俺とのやり取りの心底楽しそうだ。
表現するのなら、太陽のような人というべきか……明るく陽気で、なにより一緒に居るとこちらまでつられて笑顔になるような……。
トーレさんは、そんな眩しささえ感じる魅力を持つ、ちょっと…‥いや、割と変わった女性である。
けれど、まぁ……こうして知り合えたのは、本当にいい出会いだと、そう感じた。