作品タイトル不明
魔界の都市で⑧
トーレがアインとツヴァイに連行されるのを見送りながら、チェントは軽くため息を吐く。とりあえず、トーレを見つけたことで一息付けたといった感じだ。
そのままシエンに話しかけようとしたのだが……シエンは顎に手を当てて、なにやら思案顔だった。
「……シエン? どうかしたの?」
「えっと、トーレ姉様のことを連絡してくれた人……やっぱり、どこかで見たような……」
「あのカップルを? 女性の方はエルフだったね。男性の方は……ちょっと変わった魔力で、種族がよく分からなかった。見たところ人間ぽかったけど……」
異世界人は独特の魔力をしており、クロムエイナやアイシスが快人と初対面で異世界人であると気付いたように、見るものが見ればすぐにわかる。
しかし、すぐに異世界人であると気付くには、過去に異世界人と会ったことがないと難しい。チェントとシエンは、勇者祭に参加したことはあるが異世界人と話したことが無く、勇者役に関しても遠目に見た程度だったため、すぐには快人が異世界人であるという結論には至れなかった。
「……そういえば、チェント。前にクロム様から聞いたんだけど、異世界人って独特な魔力をしてるらしいね」
「あぁ、そういえばそんなことを聞いた覚えが……私は異世界人をあまり近くで見たことがないから、よくわからなかったけど……そうなると、あの男性は異世界人の可能性が高いってことかな?」
「……異世界人……男性で薄い茶の髪……魔水晶のネックレス……どこかで見覚えが……あ、あぁぁぁぁ!?」
ブツブツと呟いていたシエンは、なにかに気付いた様子で表情を変え、思わず叫ぶ。
「シ、シエン!?」
「お、おお、思い出した!? そうだ! 神界で遠目に一度見ただけだったから、すぐには思い出せなかった!?」
「……神界で遠目に一度……ま、まま、待って――あぁぁぁぁ!?」
焦った様子のシエンの言葉を聞き、チェントもシエンと同じことに気付いて絶叫する。
チェントとシエンは、冥王陣営でも相当上位の実力者であり、六王幹部級には少し劣るものの、伯爵級でも上位の実力者であり、ふたりがかりであれば六王幹部相手でも十分に勝機があるほどの強さを持つ。
故に当然、二年前の神界での戦いにも冥王陣営として参加していた。しかし、ふたりは快人とは知り合いではなく、快人のことも神域でかなり遠くからチラリと見た程度だった。
「……ミヤマカイト様だ、あの人……」
「クロム様の恋人の……あわわわ、ど、どど、どうしようシエン!? 私たち、ロクに挨拶もしてないどころか、むしろ迷惑かけちゃってる!?」
「おお、落ち着いてチェント……そ、そうだ!? ハミングバードで連絡をすれば……」
「そ、それが……こっちに連絡貰うために私の魔力は向こうの魔法具に登録しただけで、こっちにはミヤマカイト様の魔力波長は登録してない」
ハミングバードで連絡して改めて快人に挨拶をと考えたふたりだったが、皮肉なことに快人の魔力波長を登録していなかった。
「シ、シエンは、ミヤマカイト様の魔力波長、覚えてない?」
「……ごめん、覚えてない。トーレ姉様のことで頭がいっぱいで、ちゃんと見てなかった」
「私も思い出そうとしてるんだけど……そもそも連絡をくれたのは、エルフの女性の方だったし……エルフの女性の魔力波長は……駄目、私もトーレ姉様のことで頭がいっぱいでしっかり覚えてなかった」
ふたりの実力であれば、魔力を見るだけで魔力波長を読み取ることは容易い……あくまで読み取ろうとしていた場合に限る話ではあるが。
「……探す?」
「それがいいと思う。なによりも……トーレ姉様が変な粗相をしてないか、ものすごく不安」
「……ねぇ、チェント? トーレ姉様が変な粗相をしてないって、本当にそう思う?」
「……絶対してるね。最低でも妙なことは口走ってるはず」
ふたり共、トーレの性格は非常によく分かっており、さすがにそれが『恋してみる?』とかそんな内容とまでは思わないが、変なことを言っているのは確実だと認識していた。
ふたりは無言で頷き合ったあと、素早く城の中に移動して、トーレがアインとツヴァイから説教を受けている部屋に移動する。
「申し訳ありません。アイン姉様、ツヴァイ姉様、私とシエンは急用ができましたので、少し出かけてきます」
「トーレ姉様のことをよろしくお願いします……出来れば『三時間ぐらい』みっちり叱ってもらえると助かります」
三人に出かける旨を伝え、ついでに確実に快人に粗相をしていると予想されるトーレへの説教を割り増ししてもらえるように依頼したのち、慌てた様子で城から駆け出して行った。