軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔界の都市で⑦

先ほどチェントさんに会った際、別れ際に頼まれたこと……それは、俺たちが再びトーレさんに会うことがあったなら、可能であれば引き留めて連絡してほしいというものだった。

なのでこうしてトーレさんと会ったあとで、俺が話している間にジークさんがハミングバードでチェントさんに連絡をしてくれている。

そして、トーレさんが二回目のチャレンジを……2点で終え、どこか満足げな表情で戻ってきたタイミングで、声が聞こえてきた。

「「トーレ姉様!」」

連絡を受けたチェントさんとシエンさんが駆けつけてきて、俺たちは視線をそちらに動かす。無事に連絡できてよかったとは思うが……正直いまだにいまいち状況がよくわからない。

状況だけ見れば、フェイトさんとかのようにトーレさんがふたりの目を盗んで脱走したとか、そんなイメージだけど……その割には、トーレさんは別にふたりに見つかったら困るという様子もない。

いまもふたりが現れて、どんな反応をするのかと思っていたら……。

「あっ、チェントにシエン。ふたりもやってみる? これ、結構難しいよ」

焦りもなにもなく、非常に軽い感じで笑顔を浮かべている。

「トーレ姉様! また、勝手に居なくなって! 私たちがどれだけ心配したか!!」

「……あれ? 書置き残しておいたんだけど」

「書置きとかそういう問題じゃないんです! トーレ姉様は、私とチェントが護衛だって、分かってますか!?」

「もちろん分かってるし、ふたりともいつも頼りにしてるよ」

チェントさんとシエンさんが続けざまに詰め寄るが、トーレさんはのほほんとした感じで非常にマイペースな雰囲気だった。なんとなくではあるが、チェントさんとシエンさんが苦労しているのが伝わってきた気がする。

「じゃあ、なんで私たちを連れずに出かけてるんですか!」

「ちょっと、近場で遊ぶだけのつもりだったしね」

「やっぱり、全然わかってないじゃないですか!? 前もさんざん私たちを連れて行くようにって言ったのに……」

トーレさんをシエンさんが叱っていると、チェントさんの方が俺たちに視線を向けたあとで近付いてきて、深々と頭を下げた。

「……連絡していただいて、本当にありがとうございました」

「いえ、無事に合流できてよかったです」

頭を下げるチェントさんにそう告げると、チェントさんは財布らしきもの出して、そこから金貨を数枚取り出す。

「大した額ではありませんが、謝礼を……」

「いえ、謝礼とかは結構です。本当にたまたま会っただけなので、お礼の言葉を貰えただけで十分ですよ」

「お優しいのですね。重ねて感謝を……」

俺の言葉を聞いて、チェントさんはもう一度頭を下げたあと、懐から紙……名刺っぽいものを取り出して、俺とジークさんに渡してきた。

そこには住所だろうか? 街の名前のようなものが書かれており、セーディッチ魔法具商会の支部名とチェントさんの名前が記載されていた。

「もし、魔水晶が必要なことがあればお声がけください。魔水晶部門には顔が効きますので、よいものをご用意させていただきます」

「ありがとうございます」

「もし機会があれば、よろしくお願いします」

名刺を受け取って言葉を返すと、チェントさんは三度頭を下げたあとで、いまだにシエンさんに叱られているトーレさんの元に向かう。

「さぁ、姉様。戻りますよ」

「え? もうそんな時間だったっけ?」

「……いえ、ここで説教をしては周囲に迷惑ですので」

「えぇぇぇ……お説教があるの?」

「当然です。私もシエンも、まだまだ言いたいことは沢山あります」

「うへぇ」

そしてそのままトーレさんの首根っこを掴み、引きずるようにして連行していった。その際にチェントさんとシエンさんは俺たちに一礼し、トーレさんはどこか楽し気に俺たちに手を振りながら引きづられていった。

トーレを連れて、元々立ち寄る予定だったクロムエイナの居城に向かいつつ、チェントとシエンはトーレに対し説教を続けていた。

「……だから、距離とかは関係なく、外出する際には私たちに必ず声をかけてください」

「うんうん」

「……」

チェントの言葉にしっかり頷くトーレだが……この手のやり取りは過去に何度も行われているが、現状を見る限り改善は絶望的だった。

というのもトーレは基本的に楽観的な性格で、なおかつ面倒は後回しにしたあげく忘れるタイプなので、今後も『あとで連絡すればいいか』となるであろうことは、想像に難くなかった。

「……まぁ、私たちがいろいろ言ったところで、トーレ姉様があまり聞いて下さらないのは、私もシエンもよく分かっています」

「はい。なので、今回は『助っ人』を呼びました」

「……助っ人?」

ふたりの言葉に首を傾げていたトーレだが、居城の入り口が近づくと、そこに居た人物を見て青ざめた表情に変わった。

「……ア、アイ姉とツヴァ姉……このふたり呼ぶのは反則じゃないかな? 駄目だよ、反則しちゃ……」

門の前で待ち構えていたのは、アインとツヴァイだった。トーレは先ほどまでの余裕そうな顔はどこに行ったのか、明らかに焦った様子で滝のように汗を流しながら口を開く。

「ア、アイ姉……ツ、ツヴァ姉……い、いや~久しぶりだね。ツヴァ姉は家に帰ってきてたんだ……タイミングよかったなぁ~ふたりと会えて嬉しいよ」

「「……」」

「こ、怖い顔しちゃって、やだなぁ……せっかくの美人が台無しだよ。私は、優しいふたりが好きだなぁ……とか、だ、駄目かな?」

「「……」」

「……駄目そうだね。終わった……私、完全に終わった」

静かながら明確な怒りを宿したふたりを見て。トーレはすべてを諦めたような表情で天を仰いだ。少しして、透き通るような青空に、トーレの悲鳴が響き渡った。