作品タイトル不明
城門の巨兵①
日課であるベルのブラッシングを終わらせたあと、着替えてから渡り廊下を通ってリリアさんの屋敷に向かう。
今日はジークさんと待ち合わせをしており、このあとに一緒に出かける予定だ。
以前海水浴の際にクロがジークさんに提案した一件、フュンフさんという方に指導をしてもらうという話になった。クロの方が話を通してくれているみたいで、ジークさん自身も乗り気でいろいろ教わりたいと思っているみたいで、一度挨拶に伺おうと考えていた。
そしてちょうど俺も、神界との戦いで協力してくれたフュンフさんにお礼を言いたいと思っていたので、せっかくなので一緒に行こうという話になり、クロを介して日程を調整して今日訪ねることになっている。
待ち合わせ場所である玄関前に辿り着くと、そこにはすでにジークさんの姿があった。
「すみません、待たせてしまいましたか?」
「いえ、私も丁度いま来たところなので」
ジークさんは待たせたことを謝罪する俺に微笑みながら気にしなくていいと言ってくれた。
今日のジークさんは、いつものノースリーブの上着ではなく、白いシャツにジャケット、紺色のジーンズの私服姿であり、ジークさんのトレードマークともいえるマフラーを巻いている。
まぁ、元々マフラーは首元の傷跡を隠すために巻いていて、世界樹の果実で傷跡が消えたいまとなっては特に必要ではないみたいだが……巻いてる状態に慣れてしまって、無いとどうにも落ち着かないらしい。
余談ではあるが、ジークさんの首の傷跡は消えたのに、俺の右から首への傷跡は世界樹の果実を食べても消えなかった。
それに関してリリウッドさんに尋ねてみたのだが、世界樹の果実による治癒では、本人が消したくないと強く思っている傷跡は消えないとのことだ。
たしかに俺が世界樹の果実を食べた時期は、両親のことを自身で気付かないまま強く引きずっていたので、おそらくはそれが原因だろう……となると、いま食べれば消えるかもしれない。
でもなぁ、傷跡ある状態で十年くらい生きてきたわけだし、消えたら消えたで鏡とか見た時に違和感が凄そうな気がする。
「そのジャケットは初めて見ましたけど、スマートなデザインでジークさんによく似合ってますね」
「ふふ、ありがとうございます。少し前に購入しまして、せっかくなので今回着てみました」
実は今日は挨拶が終わったあとは、せっかくの機会ということでクロの居城がある街をふたりで観光する約束になっている。俺もクロの家には何度も行ったが、街の方はあまり見て回った覚えが無いので、楽しみである。
そんなことを考えつつ、ジークさんと少し会話をしたあとで、転移魔法の魔法具を用いてクロの家へ向かって転移した。
クロの家にはもちろん転移阻害の結界もあるので、居城の入り口から少し離れた場所に転移する。ここからはシンフォニアの王城よりも巨大な城であるクロの家がよく見え、改めて外観には圧倒される。
ちなみにクロの家がある都市は、魔界の三大都市のひとつと呼ばれており、魔界でも屈指の大都市といえる。ちなみに他ふたつは、メギドさんの治める都市とリリウッドさんのユグフレシスとのことだ。
「そういえば、ここの街って魔界でも経済都市として有名なんでしたっけ?」
「ええ、ここにはセーディッチ魔法具商会だけでなく、複数の大商会の本部があるので」
「へぇ、やっぱりそういう本部的なのって密集するものなんですかね? ……あれ? でも、たしかこの都市に住む人のほとんどは、クロの家族やその関係者ばかりだって聞いたような……」
日本で言うところの東京や大阪みたいに、栄えている都市にはそういう企業も集まるのかと思ったが……以前クロに聞いた話では、この都市に住む人の多くはクロの家族やその関係者、いわゆる世間的には冥王陣営と認識されている人ばかりと聞いた覚えがある。
「う、う~ん、私もそこまで詳しいわけでは無いのですが……」
「でしたら私が説明しましょう」
「げ、幻王様!?」
俺の質問にジークさんが困ったように首を傾げると、アリスが姿を現した。
「まぁ、あれです……端的に言えば、その大商会のほとんどが『クロさんの商会』なので」
「……マジで?」
「はい。魔界において大抵の分野のトップクラスの商会は、ほぼクロさんが作ったものです。なので、クロさんは経済の頂点と呼ばれてるわけですよ。ちなみにそんな風に複数の商会を所持しているから、基本的に会長は別の人に任せて、本人は少し特殊な位置づけなんですよ」
なるほど、セーディッチ魔法具商会の会長がセイさんであるのは、その辺りの要因なのか……。
「ちなみに、クロさんの総資産は世界経済のおおよそ13%、その上パイプやネームバリューもえげつないので……マジでその気になったら国の一つや二つの経済を壊滅させられますからね、あの人」
「……とんでもないな」
改めて文字通り桁違いなクロの財力に驚愕する……もしかしたらいままで何の気なしに利用していた店とかも、元を辿ればクロの傘下だったりするのかもしれない。