作品タイトル不明
天空を舞う花④
地図を頼りに到着した店は、お洒落な外観の花屋だった。ログハウスのよう感じで、展示してある花の数こそそこまで多くは無いが、配置などはかなり考えているように思える。
エリアルさんと共に店の中に入ると、なるほど……壁に並んだ棚には様々な種が置かれていて、花がメインというよりはそちらに力を入れているイメージだ。
カウンターにいた店員がこちらに気付き「いらっしゃいませ」と口にして頭を下げたが、その直後にすぐ頭を上げて驚いたような顔でエリアルさんを二度見した。
うん、まぁ、こんな完璧に踊り子ですみたいな恰好の方が店に入ってきたら驚くのは無理もないと思う。
しかしそこは流石に接客慣れしているだけあって、すぐに気持ちを切り替えるように軽く首を振ったあと普通の表情に戻った。
「予約……つまりは、予約していた種を買いに来た。名前の提示……予約は――という名前で入れているはず」
「あ、はい。伺っております。少々お待ちを……」
エリアルさんが告げた言葉を聞いて、店員は種を取りに一度店の奥に入っていった。
「……いまの名前は?」
「ティルの友人……つまりは、ティルの知り合いでシンフォニア王都に住んでいる人らしい。予約の代行……つまりは、人気で品薄の種だから王都に住んでいる友達に予約してもらうように頼んだらしい」
「なるほど」
まぁ、それは当たり前といえば当たり前か、効力は低いとはいえ疲労回復効果のある新種の野菜の種となれば欲しがる人も多いだろう。
まだ流通し始めたばかりという話だし、数自体もそんなに多くないのではないかと思う。そうなると手に入れるのは困難だろう……う~ん、早期に手にいれるにはある程度のコネとかも必要だろうし、もしかするとティルさんが予約を代行してもらった相手というのはそれなりに力のある貴族かもしれない。
とはいえ、こればっかりは想像の域を出ない。ラズさんと仲がいいと聞いて、漠然とラズさんのように社交的でそういう立場の高い知り合いもいるんじゃないかという想像だ。
そんなことを考えていると、店員が小さな袋を持って戻ってきた。
「お待たせいたしました。ご確認を……」
「問題なし……つまりは、これで間違いないので会計を」
「はい、それでは一袋で500Rになります」
……小さな袋に入った種が日本円にして5万円、やはりかなり貴重な種のようだ……こうなると、完成品の野菜もかなり高値なのではないかと想像できる。
支払いはすぐに終わり、エリアルさんはマジックボックスを取り出して種の入った袋をしまったあとで、俺の方を向いて微笑みを浮かべた。
「改めての感謝……つまりは、ありがとう。カイトのおかげで、無事お使いを終えることができた」
「いえ、気にしないでください。これぐらいお安い御用ですよ」
「お礼を希望……つまりは、なにかお礼をしたいんだけど」
「いや、本当に気にしないでください。特に予定も無かったですし、俺もいままで行ったことが無い店に来れてよかったですから」
これは本心である。俺に園芸の趣味は無いので、こんなことでもなければこういう店に入る機会は無かっただろう。そう思うと、むしろ得をした気分である。
いまのところは家庭菜園とかを始める気はないが、もし不意にそう言うことに興味が湧くかもしれないと考えると、いい経験になった。
「気持ちを尊重……つまりは、カイトがそう言うなら無理にお礼もできないね。別の提案……つまりは、だけどなんのお礼もせずにってのは私の気が済まないからひとつ提案」
「提案? なんでしょうか?」
「至福のひと時への誘い……つまりは、一緒に『踊ろう』」
「ああ、いいですね。やっぱりお礼といえばダン――うん? いや、え? なんか話がとつぜん飛躍して……」
つい反射的に返してしまったが、いまこの人おかしいこと言ったよね? 一緒に踊ろうって……いやいや、なんでそう言うことになるんだ!?
「快諾に感謝……つまりは、喜んでくれて私も嬉しい」
「い、いや、いまのはつい反射的に……」
「善は急げ……つまりは、そうと決まればさっそく移動しよう。場所の提案……つまりは、私としては最初に会った公園がいいと思う」
「……」
どうしよう? エリアルさんは本当に踊りが好きみたいで、明らかにここまでで一番嬉しそうな感じであり、いまさらやっぱり遠慮しますとは言い出しづらい。
反射的にノリ突っ込みのような返しをしてしまった俺が悪いんだし、ここは素直に受け取るべきなのかもしれない。
「……けど俺、踊りとかはサッパリですよ?」
「任せてほしい……つまりは、大丈夫、私に任せて。得意分野……つまりは、踊りには自信があるから、私がしっかりリードする」
「……わ、わかりました。よろしくお願いします」
なんだろうこの気持ち、不用意な発言が招いた自業自得とはいえ、それでも一言だけ言わせてほしい……どうしてこうなった!?