作品タイトル不明
海水浴後編⑦
ビーチバレーが終わったあとも、俺たちは楽しく海を満喫した。定番のスイカ割りをしたり、午前とは組み合わせを変更して遊んだりといろんなことをした。
なんというか、本当に丸一日遊びつくしたみたいな感じで、海が夕暮れに染まるころには体にはなんとも言えない心地よい疲労感があった。
そしてさすがラグナさんが拘ったというだけあって、このビーチは夕焼けも美しい。なんというか水平線に沈んでいく太陽がよく見えて、手元にカメラのようなものがないのが悔やまれる美しさだった。
「たっぷり遊びましたね」
「……うん……すごく……楽しかった」
俺が呟いた言葉にアイシスさんが笑顔で頷き、他の皆も同様に明るい表情を浮かべているのが見えた。なんというか、穏やかで……それでいてちょっとだけ、この楽しい時間が終わることへの寂しさもあるいい雰囲気だ。
「お開きにするには、ちょうどいい感じだね~」
「締めが夕日ってのもなかなかいいもんっすね。まぁ、これが夜だったりしたら花火のひとつでも上がってほしいところですが……」
夕日を眺めながらのんびり告げるフェイトさんに、アリスが軽い口調で答えた。すると、その言葉を聞いてシロさんが軽く顎に手を当てて呟く。
「……ふむ、花火、ですか。なるほど、それも締めにはいいかもしれませんね」
「うん? シロ、花火上げるの? まぁ、たしかにいいかもね。まだちょっと明るいけど、遮蔽物とかはないから綺麗に見えそうだしね」
「では、さっそく……」
クロの賛成の言葉を聞いたシロさんは、海の方向に向けて軽く手を振った。すると海の上に大砲のような……話の流れからして、花火を打ち上げる筒が出現した……『とてもたくさん』。
「花火、ですか……自分はあまり目にしたことがありませんでしたが、ずいぶん壮観な光景ですね」
「……いえ、これは……」
「……え、ええ……さすがにちょっと……多すぎるのでは?」
海の上にずらりと並ぶ大筒を見てアニマが感心したような声を上げるが、ジークさんとリリアさんは戸惑ったような表情を浮かべている。二人の気持ちはよく分かる……というか、おそらく俺もいま同じような表情を浮かべているだろう。
しかし、残酷なことに現実は思考が落ち着くまで待ってはくれず、大筒から延びる導火線に『一斉に火が付く』のが見えた。
「……シャローヴァナル様、これ、何発あるんすか?」
「快人さんの世界の花火大会を参考に『五千発』です」
「へぇ、ソレは大規模ですねぇ。けど、これ、見える限りすべての導火線に火がついてますけど……まさか『全部同時』に打ち上ったりしません?」
「うん? 『同時では駄目なのですか?』」
「……」
おそらく全員が気になっていたであろうことをシロさんに確認したアリスは、どこか呆れたような表情で溜息を吐き、一瞬で俺の前に移動して俺を守るような位置に立つ。
そして同時に、視界の端でジークさんの前にも分体らしきアリスが経っているのが見えた直後……空気が打ち震えるような轟音と共に、空が凄まじい光に包まれた。
まさに大爆発といえる光景ではあったが、衝撃や轟音も感じず光の割に眩しさもあまり感じなかったのは、しっかりとアリスが守ってくれたからなのだろう。本当に気が利くし行動も速い頼れる奴である。
「……せっかく、今日はずっとマトモな感じだったのに、なんで最後の最後にこんな天然行動しちゃうかなぁ。まぁ、ある意味この抜けてる感じがシロらしいって言えばシロらしいけど……締まらないなぁ」
「むむっ……アリスに邪魔されて、結局今日は一度もアイデンティティたるベビーカステラを取り出せてない、没個性状態のクロがなにか言ってますね」
「……は?」
「まぁまぁ、ふたりとも落ち着いて」
とりあえず衝撃から回復してすぐに、喧嘩を始めそうなシロさんとクロが見えたので間に入って喧嘩を止めておく。
ちなみに以前の神界での一件以降、クロとシロさんはいままで以上に仲良く……互いにより遠慮なく本音で語り合えるようになった。ただそれに比例して、喧嘩する回数も増えたらしい。
今日もすでに水着の件で一度やり合ってるので、二回目はちゃんと阻止しておかなければならない。まぁ、エデンさんとかとは違って、こうして間に入れば素直に止まってくれるので問題はない。
「……すごい音……だったけど……ハイドラ王国軍とか……神族とか……びっくりしてないかな?」
「う~ん。さすがにシャローヴァナル様が居るここに踏み込んでくるような無礼者はいないだろうけど、気にはなってるだろうし、私の方から時空神と生命神に連絡しておくよ」
そもそもこの場にいる人たちの能力はすさまじいので、アレだけの大爆発でも特に混乱している感じはない。それどころか落ち着いた感じで事後対応してくれている。
「アリス様、ありがとうございました」
「いえいえ、まぁ必要ないかとも思ったんですが、念のためってやつですね」
「……あの、私にはなにもなかったのですが……」
「貴女は私の中で守る必要がある相手にはカテゴライズされてません。貴女とアニマさんに関しての取り扱いは、伯爵級高位魔族に準じます。まぁ、早い話が……自分でなんとかできるでしょ? ってことです」
「あ、はい」
視線を動かしてみると、ジークさんとアリス、リリアさんにアニマの四人が集まっているのが見え、会話も聞こえてきた。
「アリス様もリリの力を認めてくださっているということですよ。私としては、少し羨ましいです」
「まぁ、それはたしかに……しかしですね。私も、そ、その、か、『か弱い乙女』なわけですし……」
「「「……」」」
おっと気のせいかな? どちらかといえば温かいはずの浜辺が、少し肌寒くなった気がしたけど……。
「……いいですか、アニマさん。普段ボケない人が、場の空気に流されて『たまにはユニークなことを言ってみようか』とか考えると、こういう『大事故』を引き起こすんですよ。貴女も真面目寄りのキャラですが、いざというときにこういう『大怪我』をしないように、多少はユーモアな会話をできるようにしておいた方がいいですよ」
「……はい。肝に銘じます。とても、恐ろしいものを見た気分です」
「……リリ」
「……お願いですジーク、もうこれ以上なにも言わないでください」
……さて、どうも少し肌寒さを感じた隙に、リリアさんが精神に大怪我を負ってしまったらしい。これは迅速なフォローが必要だろう。
なんというか、クロの言う通り……いまいち締まらない展開ではあるが、ある意味このメンバーらしいともいえる。
そんなことを考えて苦笑を浮かべつつ、顔を真っ赤にして半泣きになっているリリアさんに出来るだけ優しく声をかけた。