軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

海水浴後編⑤

クロとジークさん対俺とアリスのビーチバレー対決。最初はクロのサーブからスタートした。斜め先に居るアリスに向けて放たれたサーブは、かなり鋭く勢いもある。しかし、速いことは速いが俺でもちゃんと目視できていると言うことは、しっかり加減をしてくれているのだろう。

そのサーブに対し、アリスもどこか余裕ある動きで綺麗にレシーブを行い、完全に勢いを消されたボールがフワリと俺の居る方向に上がる。

「アリス!」

「まかせてください!」

ここで2タッチ返しの奇策を打ったところで意味は無いので、セオリー通りに俺はアリスがスパイクを打ちやすいように高めのトスを上げる。

流石に完璧なトスとは言い難かったが高さは十分で、自画自賛にはなるがなかなかいいトスが上がった。

スパイクを打つために跳躍するアリスに対し、クロとジークさんはブロックには出てこず、軽く腰を落として待ち構える姿勢になる。

たぶん、アリスのテクニックを警戒したのだと思う。ブロックに飛んだとしても、アリスならソレを見てから、掻い潜ってスパイクを打つことも可能、迂闊にブロックに飛ぶと逆に利用される。

ゆっくりと思考して判断したわけではないが、パッと見た感じでは体の向きなどから、アリスの狙いはジークさん側……それもかなりきつめの角度に感じられた。

同じことをクロとジークさんも感じたらしく、ジークさんは少し集中するように表情を引き締め、クロも咄嗟のフォローのために一歩だけジークさん側に足を動かした。

しかし、そこはさすがアリスというべきか……彼女は完全にジークさんの方を向いたままで、まったくの逆……クロの方へスパイクを放って見せた。

「くッ!?」

不意打ちと言えるその攻撃にクロは見事に反応してみせた。しかし、いくらクロでもコーナーギリギリに向けて放たれたスパイクを、加減した身体能力かつ初動が遅れた状態では完璧なレシーブはできない。

横っ飛びしながら片手を伸ばし、強引にレシーブをしたボールは絶妙ともいえる高さで俺の方に飛んできた。

「快人さん! チャンスです!」

「ああ!」

クロが体勢を崩している絶好のチャンスを突くため、アリスの声を受けながら跳躍する。俺の身体強化魔法は大したものでは無く、陽菜ちゃんなんかと比べるとハッキリ言ってしょぼいレベルだ。

しかし全くなんの効果もないわけではない。陽菜ちゃんみたいに人間の限界を超えているような力は発揮できなくとも、アスリート並みの身体能力を得ることは可能だ。

十分な高さに跳躍してダイレクトでスパイクを放つ……生憎と俺に狙った場所へ打ち分ける技術はない。なのでとりあえず力いっぱい腕を振った。

俺が放ったスパイクは、運がいいことに急いで体勢を立て直したクロとジークさんのちょうど中間に向かい、クロとジークさんがお見合いのような形になって一瞬動きを止めた隙にコートに落ちた。

「快人さん、ナイススパイク!」

「ありがとう、アリスも一発目のスパイク凄かったな、さすがだ」

一点を先取し、駆け寄ってきたアリスと軽くハイタッチを交わす。まだ一点とはいえ、かなり綺麗に決めることができたのでとても気持ちがいい。

「あちゃ~先制されちゃったね」

「すみません、クロム様。つい動きが止まってしまって……」

「いやいや、ボクの方も固まっちゃったしね。気にせず次取り返そう!」

「はい!」

クロとジークさんのペアもいい雰囲気であり、なんとなく4人とも心から楽しめている気がしていい雰囲気だ。

その後は点を取ったり取られたりという展開になりつつも、先制したことによる勢いとアリスの冴えわたるサポートのおかげで5対3で俺たちのペアが勝利する結果となった。

勝利して喜び合う快人と着ぐるみのペアを遠目に見ながら、シャローヴァナルとアリスは再び言葉を交わす。

「……この条件ではやや不利かと思っていましたが、予想以上に快人さんが点を取っていましたね」

「ですね。カイトさんが打つタイミングで、クロさんやジークさんが体勢を崩してたり、打った球が偶然絶妙な位置に飛ぶことがよくありましたしね」

「しかし、因果律への干渉などといった操作は感じませんでしたし、それ以外にも怪しい部分はありませんでしたよね? あればクロが止めているはずですし……気にし過ぎなのでしょうか?」

ルールである程度差を埋めているとはいえ、やはり身体能力的に一番劣るのは快人であり、どうしてもこのビーチバレーではやや不利になる……筈だった。

しかし、予想に反して快人は大活躍で、着ぐるみのフォローがあったとはいえ5点中4点を決めていた。

着ぐるみの中身を知っているからこそ懐疑的になってしまっているのだろうかと首をかしげるシャローヴァナルに対し、アリスは数秒考えたあとで口を開いた。

「たしかに一切不正をしてる感じは無いですし、偶然という可能性がまったく無いわけでは無いですけど……あの人の性格、今回の目的を考えると……」

「考えると?」

「……『全知』使ってやがりますねアイツ。どのタイミングでどう動いたら、どういう結果になるかを予め全部知ってるんですよ。未来を変えたりしてるわけじゃないので、クロさんも気付いてないんでしょうね」

「なるほど、どうします? 追求しますか?」

「う~ん、やめときましょう。別に優勝したらなにか賞品があるわけでもない遊びですし、さっきの見る限り全知で調べたのは圧勝するパターンとかではなく、『接戦になりつつもカイトさんが活躍して勝利するパターン』っぽいので一応ちゃんと周りにも配慮してるっぽいです。なら、変に文句言ってゴネられるより、気持ちよく勝って帰ってもらいましょう」

あくまで確信ではなく予想ではあるが、着ぐるみの中身をよく知るアリスとしては、まず間違いなく全知を使っていると結論付けた。

その上で現状ではかなりマトモなレベルであることを考え、下手に刺激しないという選択は当然の帰結ともいえた。

シャローヴァナルもアリスの言葉に納得するように頷いたあと、ふと思いついたように口を開いた。

「そういえば、彼女……ずいぶんと貴女の真似が上手いですね? あらかじめ知っていなければ、私も気付かなかったかもしれません」

「……たぶんそれも全知で予習済みなんじゃねぇっすか? 私は感応魔法が影響してるんじゃないかって思ってますが、カイトさんって他人の変装とかに滅茶苦茶鋭いんですよ。私の変装も『なんとなく』で見破りますし、あのぐらい完璧に真似ないと気付かれるんでしょうね」

事実として快人は六王たちですら見破るのが困難なアリスの変装を、理由も根拠もなくなんとなくで見破っている。アリスも気になってのちに尋ねてみたが、快人本人が『なんとなく違和感を覚えた』程度の認識のため詳細は分かっていない。

ともあれそういった他者の変装に異常なほど鋭い快人が、いまだに着ぐるみの中身をアリスだと思っているのは、間違いなく全知全能たる彼女が何らかの対策をしているからだろう。

(けど、ソレを抜きにしても……意外なほどに大人しいですね。今回参加したのは、カイトさんの活躍を身近で見たいからって理由でしょうし、いつもみたいに暴走してもおかしくない筈なんですが……まったく兆候はないですね。う~ん……まさか、あのポンコツ……初めてのビーチバレーで、『すでに当初の目的はサッパリ忘れて』普通に楽しんでるんじゃ……)