軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

修復されたと思う

リリアさんへの説教も終わり、改めて現在の状況について気になる部分を尋ねてみる事にする。

「そう言えば、狩猟大会はどうなったんですか?」

「ブラックベアーの件があり、大会は中止となりました」

「まぁ、もし仮にポイント計算するのであれば……どう考えても死王様の優勝ですからね」

俺の疑問にリリアさんとルナマリアさんが答えてくれる。

そうか、大会は中止になったのか……まぁ、仕方が無い事ではあるが……

「そうなると、世界樹の果実は……」

「来年の宝樹祭に持ち越される事になったそうです。世界樹の果実は時間の経過で劣化する事が無い神秘の実なので、1年後でも全く問題無いらしいです」

「そう……ですか」

世界樹の果実は来年の賞品となるらしく、少なくとも今回リリアさん達がそれを手に出来る事は無い。

今のリリアさん達の気持ちを考えると、気軽に声をかける事は出来ない。

少し沈黙が流れ、リリアさんはジークさんの方を向いて口を開く。

「ジーク、ごめんなさい。期待させる様な事を言っておきながら、結局世界樹の果実を手に入れる事が出来なくて……」

「……」

リリアさんの言葉を受けてジークさんは、ポケットからメモとペンを取り出し、そこに何かを書き込んでこちらに向ける。

『私も先に謝ります。リリ、ごめんなさい』

「え? ちょ、ちょっと、ジーク……まさか……」

「……」

何か少し前に俺がリリアさんに言った内容とそっくりの文章。

それを見たリリアさんの顔がサアッと青く染まっていく。

そしてジークさんは拳を握って振りかぶり、躊躇なくそれをリリアさんに叩き込んだ。

「ぎゃぅっ!?」

ふ、吹っ飛んだ!?

先程の俺のゲンコツなんかとは比べ物にならない鉄拳により、リリアさんの体は物凄い勢いで後方に飛んでいく。

あれ、絶対魔力込めて殴ったよ……これ、リリアさん大丈夫なんだろうか?

「……いたぃ……」

と思っていたら、倒れていたリリアさんが顔を抑えながら起き上がる。

いやいや、空中で二回転ぐらいしてたんだけど!? そんな威力で殴られて『痛い』ですむって、魔力で防御したとしても、リリアさんも大概化け物だ。

ジークさんは涙目で顔を抑えるリリアさんを睨む様に見つめ、再びメモに文章を書き込んで見せる。

『勝手に私の気持ちを決めつけないで下さい。何度も伝えた筈です。私は貴女を恨んでなどいないと』

「……ジーク」

『私は声を失った事も、騎士団を辞した事も悔んで等いません。私の心にあるのは、大切な親友の部下を守る事が出来て良かったと、それだけです』

「……」

何となくそんな気はしていた。

リリアさんは必死にジークさんの体を治そうとしていたが、ジークさんの方はそれを望んでいると言うよりは、悲しそうな表情でリリアさん達を見ていた。

っと、そこでジークさんは俺の方を向き、微かに笑みを浮かべる。

『先程のカイトさんの話を聞いて、私も目が覚めました』

「え?」

『リリ、今まで伝える事は出来ませんでしたが……ハッキリ言って、私はこの傷を治したいなんて一度も考えた事はありません』

「なっ!?」

ジークさんが書いた文章を見て、リリアさんが顔を抑えるのも忘れて大きく目を見開く。

『でも、リリが私の事で罪悪感を抱いていたのは分かっていました。だから、私の声が戻る事で少しでもリリの気が楽になるのなら、何も言わず待つべきではないかと、そう思っていました。だから、リリが世界樹の果実を手に入れたのなら、素直に受け取るつもりでした』

「……ジーク」

筆談による、あまり音の無い会話。しかし、ジークさんの伝えたい気持ちは強く響いてくる。

ああ、そうか、だからジークさんはあんなにも悲しそうにリリアさんを見ていたんだ……この人にとって、本当に辛かったのは、声を失った事じゃなくて……

『リリ、私も貴女と一緒です。私もあの一件以来、ずっと貴女に対して罪悪感を抱いていた』

「……え?」

『私がもっと強ければ、もっと上手く立ち回れていれば、大切な貴女に重い枷を背負わせる事など無かったのにと……リリが私の声を戻したかったのと同じ様に、私も貴女の背負った物を少しでも軽くしてあげたかった。その為には、黙って貴女の贖罪を受け入れるのが最善だと思っていました。でも、それが勘違いだったと、先程ようやく気付く事が出来ました』

リリアさんがジークさんが声を失った事に責任を感じていた様に、ジークさんも自分が弱いせいでリリアさんに辛い思いをさせてしまったと、責任を感じていたんだ。

だからジークさんは、リリアさんが必死になるのを辛く感じながら、それでも止める事が出来なかったんだと思う……それが自分の責任で、それを償うにはリリアさんの贖罪を受け入れないといけないと思い込んでいたから……

結局の所、リリアさんとジークさんは似た者同士なのかもしれない。どちらも責任感が強くて、自分を許す事が出来なかったから、長くすれ違ってしまっていたんだと思う。

『私は逃げていただけでした。自分の不甲斐なさを恥じ、貴女と向かい合う事を避けていた。それがリリの為だと自分に言い訳をしながら……でも、本当に貴女の事を想うのであれば、逃げずに自分の意思をはっきり伝えるべきだった。だから……』

そこでジークさんはペンを止め、首に巻いていたマフラーを外す。

少し変色した深い傷跡、リリアさんを追い詰めない為にずっとマフラーで隠していたそれを晒し、ジークさんは真っ直ぐリリアさんを見つめる。

そして自分の首に手を添え、そこに薄く赤い魔力の光が灯る。

「……リ゛リ……」

「ッ!?!?」

「ワ゛ダ……シハ……ゴウ゛……カ……イ゛……シテ……ナ゛イ」

必死に絞り出す様な、酷くかすれ途切れ途切れな声……おそらく魔力を使って、無理やり喉を震わせ、『声の様な音』を出しているのだろう。

聞きとる事すら難しく感じるその音は……それでも、なによりも美しい声のように感じた。

「ゴ……ノ゛……キズ……ハ……ワ゛ダジ……ノ……ホ……コリ……デス゛」

「……ジーク、貴女は……」

一番伝えたかったであろう言葉。ジークさんにとって首に残った大きな傷跡は、恥ずべきもの等ではなく、リリアさんの大切なものを守り抜いた証であり……誇り。

あの話し方は余程疲労するのか、ジークさんは肩で大きく息をしながら、それでも優しげな笑顔を浮かべ、再びペンとメモを取る。

『ほら、声なんて簡単に出せるんですよ。だから、リリも、もうこれ以上自分を責めないで下さい。私の大切な誇りを消そうだなんて、思わないで下さい』

「……ジークぅ、私は……私は……」

『リリは、昔っから優しくて……幼い頃はとても、泣き虫でしたね』

「いつの、話しですか……そんなの、知ってるの……ジーク……だけじゃ、ないですか」

今まで背負い続けた重い何かから解放される様に、リリアさんの瞳からは大粒の涙が零れ落ち、それを見たジークさんは優しくリリアさんを抱きしめる。

その光景はまるで、姉妹の様に見えた。

かつてあった事件以降、知らず知らずに互いに距離を取り合っていた関係を、修復するかのように……

「ミヤマ様……外しましょうか?」

「そうですね」

ジークさんの胸に顔を埋め、リリアさんは子供の様に泣きじゃくる。

その光景を見たルナマリアさんがそっと声をかけてきて、俺もその言葉に頷いてこの場を離れる。

拝啓、母さん、父さん――心ってのは難しいものだって改めて思ったよ。お互いに相手の事を想い合って、気を使っていた筈なのに……それが逆に互いを追い込む結果になってしまっていた。だけど、今日、すれ違ってしまっていたリリアさんとジークさんの関係は、本当の意味で――修復されたと思う。