軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

海水浴中編②

とりあえずちゃんとしたバナナボートも手に入ったので、クロとジークさんに遊び方を説明する。とはいっても、繰り返しになるが俺も実際に乗ったことは無いので、わりとフワッとした説明になってしまった。

拙い説明ではあったがクロとジークさんはある程度理解してくれたみたいで、微笑みながら頷いたあとでバナナボートに視線を動かしながら口を開いた。

「うん、なんとなくわかったよ。バナナボートで遊ぶのに必要な動力については、ボクが魔法で動かせばいいから、問題なく遊べそうだね」

「ただ、問題になるのはスピードですね。あまり速すぎても振り落とされてしまうでしょうし……」

「ですね。というか、身体能力的に考えて振り落とされる可能性があるのは俺ですかね」

まぁ、ある程度途中でバランスを崩して落ちたりするのも、楽しいと言えば楽しいのかもしれないが……それはあくまで常識的なスピードであればの話である。

クロやジークさん基準で加速されると、まず間違いなく途中で俺は掴まっていられなくなるだろう。とはいえ、これに関してはそこまで心配はしていない。

仮に操縦するのがシロさんであれば、本当に綿密にどのぐらいのスピードなら大丈夫かを話し合わなければ命の危険を感じるところだが、今回の操縦者はクロである。

時々天然気味になったりするが、こういう状況下で非常識なことをするやつじゃない。

いや、もちろんシロさんも悪気があってやってるわけではないというのは分かっているが……あの方は基礎スペックが高すぎる上に、誰かに合わせて調整するという経験が少ないため加減がいまいちわかっていない感じがする。

まぁ、どんどん幅広くのものに視線を広げているいまのシロさんなら、そう遠くないうちにそういった相手に合わせた細かな調整もできるようになりそうではある。

「うん、そうだね。だからカイトくんの感覚に合わせるのがいいかと思うんだ。カイトくんにはとりあえず一番揺れが少ない真ん中に乗ってもらうとして、スピードに関しては最初はゆっくりで徐々に上げていくことにするよ。それで、このぐらいのスピードが丁度いいってタイミングでカイトくんが一声かけてくれたら、そのスピードを維持するよ」

「なるほど、それならたしかに安心だ」

「それなら操縦者のクロム様は前で、私は後ろに乗るのがよさそうですね」

クロの提案に俺とジークさんが同意の言葉を返す。やはりなにも問題はなさそうだ。なんの心配もなく、初めてのバナナボートを楽しむことができそうだ。

そんなことを考えながら、バナナボートを海に移動させる。まぁ、もちろんというか運んだのはクロである。クロは片手でバナナボートを運んで海に浮かべたあとでバナナボートの先頭に乗った。

クロが前に乗ったあとでバナナボートに乗る。魔法で揺れないようにしてくれているのか、それほど苦戦することなくアッサリと乗ることができた。

けど…‥あれ? これ……思ったよりクロとの距離が近いな…‥い、いや、俺が知らないだけでこんなものなのか?

そんなことを考えていると、ボートが微かに揺れ後方にジークさんの気配を感じた。ジークさんものりこんできたんだろうけど……やっぱり、これ、距離が近いのでは?

というか、よくよく考えたらこれ、水着姿の美女ふたりに挟まれている……いわゆるサンドイッチ状態というやつなのでは? い、いや、身長的に考えても一番低いクロが前というのは理に適っているし、揺れが大きいであろう後方に身体能力が一番低い俺を配置するよりは真ん中が安全。この形になるのは必然と言える。

しかし、しかしである。そう言い聞かせても、ついつい水着姿で座るクロの綺麗な肌に視線が動いてしまうし、後ろにいるであろうジークさんのことも妙に気になってしまう。

……って、あっ、そっか!? なんでクロやジークさんのことが変に気になるかと思えば……ふたりとも、いや俺も含めてライフジャケット的なの着ていない。

むろんクロとジークさんのスペック的に考えて必要ないのは理解できるのだが……本来ならライフジャケットで隠れるであろう場所が露出していることで、変に緊張してしまう。

「よし、じゃあさっそく出発するよ~ゆっくり速度を上げていくから、カイトくんは、よさそうなタイミングで声をかけてね」

「あ、あぁ、わかった」

いや、落ち着け大丈夫だ。水着の恋人ふたりにサンドイッチされているという状況に混乱し過ぎだ。別に普通に乗っていればおかしなことが起こるわけでもないし、スピードも俺に合わせてくれるんだから、俺がしっかりしていればバランスを崩して接触とかそんなハプニングもないはずだ。

っと、そんな風にいろいろと考えていたのだが、バナナボートが動き出し、ある程度スピードが出てくると変な考えはすっかり頭から消えてしまった。

日差しはそこそこ強く暑さも感じるが、それ以上に肌を撫でる風や時折跳ねる水飛沫も気持ちいい。太陽の光を反射して輝く水面は、眩しくもとても美しい。

「綺麗ですね。それに風がとても心地よいです」

「えぇ、同感です」

もうバナナボートはかなりのスピードになっているが、それほど大きくないジークさんの声がハッキリと聞こえてくる。やはりジェットスキーで引っ張っているわけではないので、エンジン音などが無く会話もしやすいのかもしれない。

「カイトくん、スピード的にはどうかな?」

「うん、もう少し早くても大丈夫」

「おっけ~じゃ、もうちょっと加速するよ!」

クロも声だけで分かるほど楽しそうにしており、なにやら片手を離したりと大袈裟な動きもしていて、ソレを見ていると自然と俺のテンションも上がってくる気がした。

「あっ、さすがにこれ以上速くなると厳しいかも……」

そう、言うならば俺はこの時『はしゃいでいた』のだろう。だからこそ『気付かなかった』し『見逃してしまった』。

「うん、了解!」

いや、どちらにせよ三人の中で一番魔法関連に疎い俺では、それこそ感応魔法を全力で発動でもしていなければ、気付くのは難しかったかもしれない。

クロが大袈裟な動きをしながらこっそりと魔法を使い、ジークさんの目の前に文字を浮かび上がらせていたこと、そしてチラリと一瞬だけ俺の方を見て、意地の悪そうな笑顔を浮かべたことに……。

「え? ――っ!?」

思った以上にガクッと速度が落ち、前のめりになるような形でバランスを崩すのとほぼ同時に、なぜかしっかりボートの取っ手? を握っていたはずの手が離れた。

そうなるとバランスを崩した体で、咄嗟に目の前のものにしがみつこうとしてしまったのは致し方ないことだと思う。

ただこの場合においては、『目の前にあるのがなにか』というのが重要である。

そして、結構勢いよくバランスを崩したはずなのに、まるで『空気のクッションに優しく受け止められる』ように『衝撃もなく』、目の前にいたクロにしがみつくのとほぼ同時に、囁くような声が聞こえてきた気がした。

「……ボクだって、『シロだけズルい』って思うこともあるんだよ」