軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

海水浴中編①

いまさらと言えばいまさらではあるが、普段の雰囲気は正反対といっていいクロとシロさんだが、ところどころで似ていると感じる部分もある。

異世界の話題をところどころ間違って覚えているのもそうだが、なにより……『テンションが上がっていると天然度が増す』という点がよく似ていると思う。

シロさんは言わずもがなだが、普段はむしろ周りの暴走を諫めるクロもテンションが上がっている時は「え?」と思うような行動をとることも多い。特にベビーカステラ関係に顕著ではあるが、それ以外でも天然をかましてくるときはかましてくるので心配だ。

「なんでも異世界には『バナナボート』っていうのがあるらしいんだ」

「……うん、あるな」

「で、せっかくだしそれで遊ぼうと思って用意してきたんだよ!」

ふむ、正直……思っていたよりまともなことを提案してきた。要するに三人でバナナボートに乗って遊ぼうってことだ。

まぁ、ジェットスキーだとか引っ張る要因も必要なんじゃないかとは思うが、その辺りはクロなら魔法でなんとかできそうな気がする。

そんなことを考えていると、ジークさんがチラリと俺の方を見ながら尋ねてきた。

「それは、普通のボートとは違うもの、という想像でいいんでしょうか?」

「え、えぇ、けっこう乗った感覚とかは違うと思います」

ジークさんの気持ちはよく分かる。未知の単語が出てきて、近くにはソレがある世界出身の俺が居る。ここで俺に尋ねようとする気持ちはすごく分かるし、頼られて少し嬉しいという思いもある。

しかし、残念ながら……俺も乗ったことないので、100%イメージでしか説明できない。なにせ俺は元ぼっちであり、当然中高大のころに友達と~などと言う経験はない。それどころか海水浴でさえ、小学生の頃に両親と一緒に行ったのが最後である。

なのでほぼテレビや本で見た知識しかない。なんか取っ手の付いたバナナ型のボートに乗って、ジェットスキーとか船で引っ張られるという、その程度だ。

注意点とかも分からないので、その辺はクロの知識だよりに……。

「というわけで、じゃ~ん! これだよ!」

「……『バナナ』じゃねぇか!?」

「え? うん、そりゃバナナボートなんだし……バナナだよ?」

不思議そうに首をかしげるクロを見て、俺は混乱する頭を軽く手で押さえる。クロが出現させたのは、本人の言葉通りバナナ……それも一本一本が数メートルはあろうかという超巨大サイズのもの……違う、そうじゃない。

「……お、大きいですね」

「うん。今日のために探してきたんだけど、さすがに魔界でもこれだけのサイズのはなかなか見つからなくて大変だったよ」

まぁ、それはそうだろう。いくら異世界とはいえ、こんな家かと思うようなサイズのバナナがそこら辺に生えててたまるか。

いや、いま突っ込むべきところはそこじゃないな……。

「……いや、あの、クロ……これ違う」

「え? 違うって?」

「バナナボートってのは、『バナナをボートにする』ってことじゃなくて『バナナに似た形のボート』だから……」

「そうなのっ!?」

なんとなくそんな気はしていたが、ボケとかではなく本気でバナナを使うものだと思っていたらしい。いや、それにしても人が数人余裕で乗れるサイズのバナナとか、むしろよく見つけてきたなと言いたい。

「え? じゃあ、このバナナどうすればいいの?」

「……それはまぁ、あとで皆で食べるとして、先に本物のバナナボートを用意しないと」

と、ともかくいま先にするべきなのは、この状況のフォローだろう。こういう場面で頼りになるのは……。

「ごめん、アリス。ちょっといいか」

「はいはい、なんすか?」

「バナナボートとか持ってない?」

そう、アリスである。準備がよく商売熱心な彼女のことだから、海水浴で使う用品は用意しているだろうと考えての問いかけだ。

なお、ここに至ってアリスがバナナボートを知らないとか、そんな心配は一切ない。コイツは、絶対知ってる。

そんな確信に似た心を肯定するかのように、アリスはなにもない空間に手を突っ込み、当然の如くバナナボートを取り出した。

「三人乗りなら、このぐらいのサイズでいいですか?」

「うん、助かる。えっと……いくら?」

「う~ん、私としてはいつものように吹っ掛けてもいいんですが……」

俺の言葉を聞いたアリスは微妙そうな顔で視線を動かし、クロが持ってきた巨大バナナをチラ見して俺に視線を戻す。

「……なんかアレ見て大体の事情は察しましたので、まぁ、今回は無料ということで」

「……うん、ありがとう」

「クロさんって時々すごく馬鹿になりますよね……それじゃ、私は戻りますので、またのちほど~」

軽く手を振って姿を消し、アニマのところに戻るアリスを見送ったあとで、俺はクロとジークさんに視線を戻す。

「というわけで、これが本物のバナナボートだよ」

「へぇぇぇ、これがそうなんだ……たしかに言われてみれば、バナナっぽいね」

「幻王様は三人乗りと言っていましたが……これは、どうやって乗るのですか?」

「えっと、俺もそこまで詳しいわけじゃありませんが……」

片手でバナナボートを持ち上げ、いろんな角度から見ているクロと、初めて見るであろうバナナボートを不思議そうに見ているジークさん。

そのふたりにバナナボートでの遊び方? などを説明しつつ、俺はふとあることを考えていた。

動力はクロがどうにかするとして――これって、割と密着するやつなのでは?

「――くっ、しまった!」

「どうした、クロ?」

「そういう遊具なら……別に『ベビーカステラ型』でもよかったよね? 作ってくるべきだった!」

「……」

たしかにアリスの言う通り、基本的に頼りがいがあるんだけど、時々すごく馬鹿になるよな……クロ。