軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『KILL THEM ALL』

死王・アイシス・レムナント……彼女は世間から認識されている程、残忍でもなければ冷徹でもない。

気に入らない相手は容赦なく殺す。抗えば待つのは死だけ、死を撒き散らす災厄……それが世間で噂される死王の姿。

しかし、その実、彼女が生物に対し殺意を向けた事など、長い歴史の中でも片手で数えるほどしか存在しない。

その理由としては彼女が本来寂しがり屋で物静かな性格だった事もあるが、何より最大の理由として彼女の纏う死の魔力は、その感情の影響を大きく受ける事があげられる。

アイシスにとって大半の生物は遥か格下の存在であり、彼女が殺意を抱かずとも容易にその命を摘む事が出来る。

人族にとって脅威的な魔物であるワイバーンでさえも、彼女にとっては『邪魔』と呟いて軽く死の魔力を放つだけで絶命させられる程度の存在でしかない。

意図せずとも生物を死に至らしめてしまう力があるからこそ、アイシスは普段極力死の魔力を抑えている。

完全に消す事は出来ずとも、少しでも怖がられないようにと常に気を使っていた。

しかし今、アイシスは未だかつてない程の殺意と、焼けつく程の怒りをその身に宿しその空間に君臨していた。

現在の彼女に、力を抑えるなどと言う生易しい感情は欠片も存在していない。

彼女の怒りに触れた愚かな獣達……その愚者達の未来を、王は宣告する。

「……『死ね』」

瞬間、アイシスの体から、死の魔力が……その本来の暴威を伴って放たれる。

明確な殺意がこもり、あまりにも強い言葉と共に放たれた死の魔力は、アイシスの凄まじい怒りに影響を受け、凶悪で残酷な死を対象に与える。

その言葉が放たれてから、ブラックベアー達の命が狩り取られるまでの時間はほんの1秒にさえ満たないだろう。

しかしその短い時間の間に、ブラックベアー達は幾万幾億もの死を味わう。

毛先が死に、皮膚が死に、肉が死に、血が死に、骨が死に、その細胞の一つ一つが死滅していく。

死の瞬間、極限に圧縮された時の中で味わう抗えない絶望的な死。

その死が己を完全に消滅させる瞬間、もしブラックベアーにまだ一欠片の感情が残っていたなら、獣達はこう思っただろう――ああ、やっと死ねたと……

強大な殺意を持って放たれた死の魔力は、ブラックベアー達の存在を完全に殺し尽くし、肉体はおろか魂までにも死を与える。

即ち――完全な『消滅』である。

アイシスの宣言通り、ブラックベアー達は血の一滴さえこの世に残る事は無く、彼女の目の前から消え失せた。

しかしアイシスの怒りは、目の前の獣達を消滅させただけでは収まらない。

死の魔力はエルフの森全域を覆い、彼女の怒りの対象であるブラックベアーを根こそぎ喰らい尽くす。

時間にしてほんの数秒、死王の発した言葉はたった一言……今日、この瞬間を持って、広大な森に生息し、害獣と恐れられたブラックベアーは、エルフの森から――絶滅した。

周囲に音は存在しない。

ブラックベアー達を討伐する為に集まった戦士達も、リリア達も、ラズリアとノインでさえ、誰も言葉を発する事が出来ない。

それほどまでにアイシスの力は、あまりにも圧倒的だった。

正しく世界の頂点の一角に君臨する……次元そのものが違う絶望的な程の強者。

集まった者達は、皆、心を恐怖一色に染めながら絶対者を見つめ続ける。その矛先が次に自分に向けられないようにと、張り裂ける程に祈りながら……

ブラックベアーを殺し終わったアイシスは、静寂の中で静かに快人の下に移動し、その体を宝物を扱う様に優しく抱き上げる。

「……リリア」

「はっ!? は、はは、はい!」

「……カイト……運ぶ……宿は……どこ?」

「こ、ここ、こちら、でで、です」

「……うん」

まともに喋れない程に震えながらも、リリアはアイシスに宿の位置を教え、それを聞いて頷いた後、アイシスはリリアに続いて移動していく。

もはや彼女の頭の中にブラックベアー等と言うゴミの存在は欠片も残っておらず、ただただ気を失っている快人の事だけを気にかけていた。

「どうやら、片付いた様ですね」

「え? なにが?」

飲んでいた紅茶を置きながら告げるシャローヴァナルの言葉を受け、クロムエイナはベビーカステラを食べながら首を傾げる。

「快人さんがブラックベアーに襲われた件で……」

「カイトくんがっ!? ッ!?」

「もう終わりましたよ」

「え?」

「ブラックベアーは死王に殺されました」

「え? アイシスが? え? じゃ、じゃあ、カイトくんは?」

クロムエイナはシャローヴァナルの言葉を聞いて、即座に立ちあがり転移魔法でエルフの森に飛ぼうとしたが、それより早くシャローヴァナルが、もう既に終わっている事を伝える。

「怪我はしましたが、無事です。今は怪我も癒えています」

「そ、そうなんだ……良かった。で、でも、それだと、今のこの、ボクの怒りはどうするの?」

「さあ?」

「さあって……と言うか、シロ! カイトくんが怪我するって知ってたんなら、何でボクに教えてくれなかったの!!」

クロムエイナはアイシスが片付けてしまったと言う事実に唖然とした表情を浮かべ、快人が無事である事に心から安堵の表情を浮かべた後、それを事前に知っていながら自分に話していなかったシャローヴァナルを問い詰める。

明らかに怒った様子で問い詰めてくるクロムエイナに対し、シャローヴァナルは特に気にした様子も無く淡々と言葉を返す。

「教えたら、クロはブラックベアーに対し怒るでしょう?」

「当り前だよ! カイトくんに怪我させるなんて、ボク本気で怒るよ!」

「怒るとクロは魔法を使わず『殴る』でしょう?」

「勿論ぶん殴るよ! 本気で殴る!」

「そうすると、エルフの森はおろか『大陸の半分近くが消し飛びます』」

「……うっ……」

淡々と告げるシャローヴァナルの言葉を受け、怒り心頭と言った表情だったクロムエイナは微かに言い淀む。

「なので死王が片付けた方が、被害が少ないと考えました」

「それは……そうかもしれないけどさ……もし、アイシスが間に合わなかったらどうする気だったの!?」

「私がブラックベアーを消しました」

「うぐっ……むぅぅぅぅ!」

アイシスが間に合わなければ、自分が手を下したと告げるシャローヴァナルの言葉。

それに反論する言葉が見つからないのか、クロムエイナは頬を膨らませ拗ねた様にそっぽを向く。

「むぅ、カイトくんが無事なのはよかったけどさ……ボクは不完全燃焼だよ。振り上げた拳の行き場が無いよ」

「では、久しぶりに戦いますか?」

「……いつ以来だっけ?」

「3465年ぶりですね」

ブラックベアーに対する怒りが溜まっている様子のクロムエイナに対し、シャローヴァナルは思い付いた様に告げて立ち上がり、軽く手を振るって自分とクロムエイナしか存在しない空間を作り出す。

クロムエイナもイライラした気持ちを発散させるには丁度いいと考えたのか、シャローヴァナルが造り出した空間を見て頷いた後で向い合う。

「今のボク、手加減とかできないよ?」

「クロが私との戦いで手加減した事なんてありましたっけ?」

「そういえば……無かったね」

「では、始めましょうか。久方ぶりの喧嘩を……」

快人がアイシスの手によって、宿に運びこまれた頃。

誰も知らず、誰も見る事が出来ない空間の中では……シャローヴァナルとクロムエイナ、白と黒の極星が、ストレスを発散する様に激しくぶつかりあっていた。