軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アニマと釣りに行こう②

アニマに案内されてたどり着いた釣りのスポット。それほど経験はないとはいえ、釣りが初めてというわけでもないので教わることはそれほど多くなく、二人並んで釣りを始めた。

おそらくアニマのことだからいろいろと調べて本当にいいスポットに連れてきてくれたのだろう、森というほど木々が生い茂っているわけでもない開けたこの場所は、静かで居心地のいい空間だった。

それに俗にいう穴場というやつなのか、他に人は見当たらず魚の警戒心も薄いのか、割とサクサク釣ることができていた。

しかし、なにごとも万事問題なしとはいかず……釣りを始めて1時間弱、俺は少々困った事態に遭遇していた。

「……う、う~ん……アニマ、これはどうだろ?」

「えっと、その、さ、さすがご主人様です! あ、あの希少なクリスタルフィッシュをこんなに大量に釣るなんて……」

「あ、ありがとう。まぁ正しくは……『クリスタルフィッシュしか釣れない』というべきなんだけど……」

「……なるほど、ご主人様の類まれなる幸運は、こういった事態になることもあるのですね」

そう、ハッキリ言って釣果は中々のものだ。魔法具で作られた小さないけすの中を泳いでいる魚の数はそれなりにある……しかし、そう、俺が釣ったのはすべてクリスタルフィッシュである。

逆にアニマの方は、クリスタルフィッシュは一匹もつれておらずリバーフィッシュなので一般的な川魚を釣っていた。

「……クリスタルフィッシュって珍しいんだよね?」

「ええ、自分も数えるほどしか釣り上げたことはありません。少なくともクリスタルフィッシュを釣り上げた数であれば、この一時間で自分の記録はご主人様に抜かれています。素晴らしい釣果と言っていいかと……」

「けど……食べれないんだよね?」

「……はい」

クリスタルフィッシュは高価ではあるが食用ではない。つまり、焚火で魚を焼いて食べるという憧れのシチュエーションには適さないというわけだ。

「ご主人様、餌を変えてみるのはいかがでしょうか? クリスタルフィッシュは小型のものが多いので、大きい餌であれば食い付かないかもしれません」

「あっ、なるほど……ありがとう、アニマ。じゃあ、さっそく」

アニマの的確なアドバイスを受け、俺は先ほどまで使っていた餌……小さな団子のような餌を、いくつかこねて大きな塊に変えてから、改めて糸を垂らした。

「けど、この餌で釣れたらかなりの大物になりそうだね」

「えぇ、期待できますね。大物というと、いまの時期ですと……この川ではストライプフィッシュも釣れることがあるみたいです」

ストライプフィッシュ……たしか、鮭みたいな魚だった覚えがある。それはまた、美味しそうだ……けど、直接焼くよりホイル焼きとかにしたいところだ。まぁ、いま考えたところで獲らぬ狸のなんとやらだが……。

アニマと並んで川に糸を垂らす。ほのかな風が頬をくすぐり、心地よい陽気も相まって、なんともいい空気だ。

「……けど、こうやってのんびり釣りをするのも、いいものだなあ。心が穏やかになる気がする」

「はい。自分もこうしたゆっくりと時間が流れるような感じは嫌いではありません。かつての自分が聞いたら信じられないというかもしれませんが……のんびりというのも、よいものですね」

「だね」

アニマの言う通り、このゆっくりと時間が流れるような感じはすごくいい。なによりこうして隣にアニマが居てくれることで、穏やかに会話を楽しむこともできる。

そんなことを考えながら、ふと隣のアニマに視線を向けた。アニマは片手を釣竿を持って川を見ており、その横顔は本人が口にしていた通り、この時間を楽しんでいるように見えた。

自然の中で恋人とふたりっきりで穏やかな時間……だから、だろうか? つい無意識に、アニマの空いてる手に自分の手を重ねた。

「はひっ!? ご、ご主人様!?」

「あっ、ビックリさせてごめん……いや、その、恋人同士なわけだし……」

「そ、そそ、そうですね。こ、恋人なのですからこのぐらいは……」

ワタワタと慌てながらも、手を振りほどく様子はなく……それどころか掌を返して、いわゆる恋人繋ぎの形で手を握り返してくるアニマ。

恥ずかしがってはいるけど、行動する時は積極的というのはなんともアニマらしい。

アニマの反応に俺も一時恥ずかしくなってしまっていたが、少しすると互いに落ち着いてきて……掌に心地よい温もりを感じながら、釣竿に意識を戻していた。

互いに無言ではあるが、気まずさはない。むしろ言葉はなくても気持ちが通じ合っているような、そんな心安らぐ空気。ずっとこうしていたいと思えるような、そんな幸せな感覚に身を任せていると……俺の持っていた釣竿が大きくしなるのが見えた。

「ッ……来た! って、引き強っ!?」

「ご主人様!?」

どうやら相当の大物がかかったみたいで、かなりの力で竿が引っ張られたが、即座にアニマがフォローに入ってくれた。

「あ、ありがとう、助かったよ」

「い、いえ……しかし、この引きはかなりの大物ですね」

「ストライプフィッシュかな?」

「可能性は高いです! ご主人様、自分が支えますので、ゆっくりと竿を立てるように引いてください」

「わ、わかった」

アニマの腕力であれば、それこそ簡単に釣り上げることもできるのだろうが……彼女はあくまで俺のサポートに徹してくれるみたいで、釣竿を支えながら時折引き方のアドバイスをしてくれる。

アニマのアドバイスを聞きながら魚と格闘すること数分……魚の抵抗も弱まってきて、無事釣り上げることができた。

釣り上げた魚は、とても立派な1メートルを超えるであろう……『金色の魚』だった。

「……お、大物ですね」

「金色なんだけど……これ、ストライプフィッシュ……じゃないよね?」

「え、えぇ、ゴールドテール……通称『黄金魚』と呼ばれる魚です。まさか、この川に生息していたとは……自分も知りませんでした」

「……一応聞きたいんだけど、これ食べられたりとかは?」

「……か、観賞魚として……大変人気があり、希少です」

「……そっか」

なんで……ことごとく食用じゃない魚ばかり釣れるのか……俺の運、偏り過ぎでは?