軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アニマと釣りに行こう①

よく晴れた日の午前中、俺はアニマと共に王都の外を歩いていた。目的は以前一緒に行こうと話した釣りに行くことで、恋人となってからの初めてのお出かけ……早い話がデートである。

アニマは非常に張り切って準備をしてくれたみたいで……釣竿を含めほとんどのものはアニマが用意して、自分のマジックボックスに入れてくれているらしい。

ちなみに余談ではあるが、アニマが持っているマジックボックスは俺のおさがり……クロ製のわけわからない容量のマジックボックスに切り替えたあと、使わないままでいるのももったいなかったのでアニマに引き継いだものである。

「今日は、いい天気だし釣り日和……かな?」

「はい。景色も綺麗に見えるかと思います。ただ、気温は高くありませんが適度に水分補給は必要だと思います」

歩きながら尋ねた俺の言葉に、アニマも笑顔で頷いてくれた。今日のアニマの服装は、いつもの軍服ではない。動きやすそうな黒色のジーンズに、少しラフな白いシャツを着て、薄手のジャケットを羽織っている。

何気に以前俺がアニマに買ってあげた服である。普段の軍服のイメージがあるからか、やっぱりアニマはパンツスタイルの方が似合うと思う。若干の自画自賛にもなってしまうが、いま着ている服はとてもアニマに似合っていてカッコよくも可愛らしい。

「そういえば今日行く川は、キャラウェイとよく行ってるの?」

普段キャラウェイと一緒に釣りに行く機会が多いという話だったので、今日の目的地もそうなのかとアニマに尋ねてみた。

ちなみに以前のアニマの相談を受けて、キャラウェイに対しては本人に許可を取った上でさん付けを止めた。やはりアニマの話通り、内心では気にしていたみたいで……その提案をした際には嬉しそうに尻尾を『ハートの形』にしていた。

あのハートの形になるのは割とよく見る。その際の状況的に考えて、キャラウェイが喜んでいる時にはハートの形になるみたいだ。

「あ、いえ、キャラと行く際は別の場所に行くことが多いですね。自分とキャラは……手前味噌な言い方ですが、それなりに力がありますし、大物狙いの釣りをすることが多いです。ただそういった大物がいる場所には、魔物も生息していることが多いので、今回は景色がよく安全な場所を選びました。無論、仮に魔物が出てたとしても、自分がご主人様をお守りしますが」

「なるほど、俺としてはその方がありがたいな……ただひとつ聞いていい? 手前味噌なんて言葉、どこで覚えたの?」

俺のことを考えて場所を選んでくれたアニマの気遣いは嬉しかったが、それ以上にアニマの口から手前味噌なんて言葉が出てきたことに驚いた。

「あぁ、イプシロン殿が異世界……ご主人様が居た世界の文化に詳しいらしく、いろいろ教えてもらいました」

「へぇ、たしかにイプシロンさんってそんなイメージがあるなぁ」

イプシロンさんは武器も長刀だし、最初に会ったときに正座もしていたし……なんとなく和風の武人ってイメージがある。

「イプシロンさんとはよく会ってるの?」

「それほど高頻度というわけではありませんが、時折訪ねてきて戦闘についてのアドバイスをしてくれますね。身になることも多く助かってはいるのですが……」

「うん?」

「その、自分がクロムエイナ殿の指導で武術を修めてからは……『千年は長すぎたか……』だとか『そろそろ手合わせをしてもいいのでは? いや、しかし己の言を違えるのは……』だとか、そんな発言が増えてきましたね」

「あはは、なんかソレを聞くとやっぱりイプシロンさんもメギドさんの配下なんだなぁって思うね」

クールなイメージの強いイプシロンさんだが、やはり戦王配下らしく戦闘は好きなのだろう。それでも自分で約束した千年後という言葉を守ろうと踏みとどまってるあたり、比較的冷静みたいだ。

「そういえば、クロに武術を教わったって言ってたけど……どんな感じなのかな? ちょっと、興味がある」

「爪と拳を主体にした武術で、クロムエイナ殿は『 爪撃術(そうげきじゅつ) 』と名付けられました」

「え? 名付けたってことは……オリジナル武術なの?」

「えぇ、元ブラックベアーである自分の特性に合わせて考えてくださったみたいです。実際習ってみると、驚くほどしっくりきて、器用とは言えない自分でも短期間で実戦レベルに使いこなせるようになりました」

「……すげぇな、クロ」

「はい。さすがは多くの実力者を育て上げただけあって、自分がどこで躓くかなども把握しており的確に導いてくださいました」

クロが指導者として超一流であるというのは、アリスからも聞いているので知っていたが、改めて聞くと本当にとんでもないな。

そんな風にアニマと他愛のない雑談をしながら歩いていると、ほどなくして大き目の川に辿り着いた。草原の川とでもいうべきか、周囲は開けているので見晴らしもいい。

「……おっ、ここかな?」

「はい、この川です。ただ、ここは街道に近いので、もう少し上流の方に向かったほうが魚は多いかと思います」

「ふむふむ、綺麗な川だね……ここにはどんな魚がいるのかな?」

「食用のものであれば、リバーフィッシュが多く生息しております」

リバーフィッシュは確か、鮎みたいな魚だったはずだ。それなら、塩焼きにすると美味しそう……実はちょっと、あの焚火で木に刺した魚を焼くのに憧れてるので、それができたら嬉しいなぁ。

「食用ではないものでは、クリスタルフィッシュも生息しております。ただこちらは、希少なのでそうそう目にすることはないでしょうが……」

「あ~たしか、鱗が特殊なレンズの素材になるとかで高値で取引される魚だったっけ?」

「おっしゃる通り、さすがご主人様! 博識ですね!」

そう言ってアニマはパァっと満面の笑顔を浮かべる。ものすごく嬉しそうというか、やっぱり熊なのに尻尾を全力で振る子犬の姿が見える気がする。

いろいろと成長して大人っぽくなっている部分も多いが、こういう変わってない部分もあって……なんとも可愛らしい限りだ。

「……あっ、そうだ。話は変わるけど、恋人同士なわけだし、ふたりきりの時は別に名前で呼んでくれてもいいよ?」

「はぇ!? あ、お、お名前で……で、ありますか?」

「うん。普段は従士って立場を意識してるんだろうけど、いまは普通に恋人同士でデートしてるわけだし、普通に快人って呼んでくれても大丈夫だよ」

「は、そ、そそ、そうですか……な、なるほど」

思い付きでの提案だったが、アニマは慌てた様子で顔を真っ赤にする。目が泳ぎまくってるので、相当動揺しているみたいだ。

そのまま数秒視線を動かしまくっていたアニマだが、覚悟を決めたのかこちらを見て赤い表情のままで口をひらいた。

「……カ、カカ、カイ、カ……も、申し訳ありません!? じ、自分には少々難易度が高すぎます!」

「難易度って……」

「い、一度持ち帰って検討させていただいてから、あ、改めて挑戦させていただきます!?」

滅茶苦茶慌ててる……というより恥ずかしがっているアニマの姿は可愛らしい。その様子に思わず苦笑を浮かべつつ、手を伸ばして軽くアニマの頭を撫でた。

「まぁ、別に焦ることはないよ。そのうちで大丈夫だから」

「は、はい! 不肖アニマ、全霊で努力いたします!!」

「いや、そんな気合を入れるものでもないんだけどなぁ……」

なんというか、やっぱりいろいろ変わってもアニマはアニマというべきか……なんとも、微笑ましいものである。