軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

愛しき従者の願い①

シンフォニア王国首都の大通り、そこで一際大きな存在感を放つ巨大な建物……世界最大の商会と言っていいセーディッチ魔法具商会の支部の前で、宮間明里、和也の両名は真剣な表情を浮かべていた。

今日はふたりが研修実習生として働く初日であり、一年は勉強とはいえ異世界にきて初めての仕事であり、ふたりは緊張していた。

「……いよいよね、あなた」

「あぁ、アレだけの好条件に好待遇……きっとそれだけ、学ぶことも多く厳しい指導が待っているだろう。だが、なんとしても付いていこう!」

「えぇ! 作業をする時の……えっと技術服? は支給されるみたいだし、筆記用具にイルネス様が作ってくれたお弁当もバッチリもってきてるわ」

「それは最高だ、昼休みに胃痛にならずに済みそうだ」

「……あなた?」

「あっ、いや、緊張でという意味だよ、あ、あはは……」

緊張を紛らわすように軽口を叩き合ったあと、明里と和也は覚悟を決め巨大な建物の中へと足を踏み入れた。

午前中の座学が終わり、昼休みに入ったタイミングで……明里は隣にいる和也にポツリと話しかけた。

「……感想は?」

「……異世界すげぇよ、レベルが違うよ」

明里が呟いた言葉に、和也は頭を抱えながら返事をする。それは座学の授業が難しすぎたから……ではない。

「……すごく、ゆっくり丁重に教えてくれたね」

「あぁ、しかも補助講師が複数人いて、理解が遅れている人に付いて教えてくれるというバックアップ体制……」

「教科書も絵が多くて分かりやすい上、一月に学ぶ範囲だけを詳しく書いてあって、次の月はまた新しい教科書がもらえるって……」

「人材教育にかけてるお金が尋常じゃない。人材こそが一番の宝……口にするのは簡単だけど、それをこうしてしっかり実行してるあたり、進んでるなぁと感じるよ」

そう、専門の技術職になるための勉強ともなれば相当に厳しいのだろうと、そう思っていたが……実際は、ものすごく丁重かつ分かりやすく教えてくれる上に、サポートも充実している。

内容も一気に詰め込んだりはせず、基礎的な部分をじっくり学んでいく丁重なつくり……それこそ、小学校の授業でもこれより厳しいのではないかと思うほど、楽しく学べた二時間だった。

「……まぁ、それはそれとして、快人に聞いてはいたけど……やっぱり女性が多いわね」

「あぁ、僕たちの知ってる範囲だけが基準とは言えないが、男女比は3:7ぐらいな気がするね」

この世界には男性より女性の方が多いというのは、事前にふたりも快人から話を聞いていた。事実、10人いる研修実習生のうち明かりを含めて7人が女性、講師も女性が多い。

こういった部分でも世界の違いというのが感じられると、そんな風に考えていると……ふたりの元に、長い耳が特徴のエルフ族の女性が近づいてきた。

「おふたりとも……えっと、たしか、アカリさんとカズヤさんでしたね」

「えと……レオノーラさん、でしたっけ?」

「はい、よろしくお願いします。せっかくなので、親睦を深める意味も込めて、新人皆で食堂に行こうかと思うんですか、いかがですか?」

優しく微笑みながら話しかけてくるレオノーラの言葉に、明里と和也は一度顔を見合わせたあとで笑顔を浮かべる。

「えぇ、是非ご一緒させてください」

「よろしくお願いします」

「はい、こちらこそ……では、行きましょう」

ふたりが立ち上がってレオノーラに続くと、他の新人たちも皆温かな雰囲気で迎えてくれる。その様子を見て、なんとなくこの楽しく過ごせそうだと感じつつ、明里と和也は食堂へと移動していった。

道中で雑談と簡単な自己紹介をしてから食堂の席を確保し、新人は全員そろって昼食を開始する。

「たしか、アカリさんとカズヤさんはご夫婦なんですよね? アカリさんは、料理がお上手なのですね……美しいお弁当です」

「あっ、いや、えっと……」

「ぷっ……」

「あなた?」

「す、すみません」

明里と和也が取り出したお揃いの弁当を見て、その素晴らしい完成度にレオノーラが感動したような表情で話しかけてきた。

しかし、この弁当は明里が作ったものでは無い。料理が上手という言葉に思わず吹き出した和也を一睨みしてから、明里はバツの悪そうな表情で告げた。

「い、いやぁ、このお弁当はメイドさんが作ってくれて……」

「メイド!? あっ、そういえばおふたりって家名がありましたよね、もしかして貴族ですか?」

明里が告げた言葉を聞いて、他の新人の子も話に加わってきた。

「あ、いえ、私たちは貴族じゃないです。メイドさんも私たちが雇ってるわけじゃなくて……えっと、息子がですね」

「……息子……え? あっ、ちょ、ちょっと待ってください……か、勘違いであれば申し訳ありません。お、おふたりは自己紹介の際に『ミヤマ』と名乗られましたよね?」

「え? えぇ、その通りですけど?」

明里の言葉を聞いて、明らかに動揺した様子に変わったレオノーラを見て、和也も怪訝そうに首をかしげながら聞き返す。

するとレオノーラはしばらく戸惑ったように視線を動かしたあと、緊張した様子で口を開いた。

「……も、もしかして、おふたりの息子さんは……み、ミヤマ、カイト様とおっしゃるのでは?」

「はい、そうですけど……って、様?」

「~~~~!? や、やはり!」

明里が頷くとレオノーラは感極まったような表情を浮かべ、同時に新人たちの中でもうふたりいたエルフ族もプルプルと体を震わせていた。

そんな奇妙な空気の中で、レオノーラはガタっと椅子から立ち上がり祈るように両手を組んだ。

「……あぁ、創造神様、界王様、この幸運に感謝いたします。ま、まさか、偶然とはいえ、ミヤマカイト様のご両親と知り合うことができるなんて!」

「え、えと、レオノーラさん?」

「あっ、申し訳ありません。つい、興奮してしまいまして」

その様子に若干引きながら明里が話しかけると、レオノーラは少し恥ずかしそうな表情を浮かべたあとで席に着いた。

「……レオノーラさんは、快人と知り合いなんですか?」

「い、いえ、そんな!? 知り合いなどと恐れ多い……ミヤマカイト様は、我ら『エルフ族の英雄』なのです!」

「「英雄!?」」

そう、明里と和也は……というより、快人自身でさえそこまでは知らないが、快人はリグフォレシア出身のエルフ族にとってはとてつもないビックネームである。

当人が知れば頭を抱えそうではあるが……快人を主人公とした物語はすでに八巻まで出ており、劇や快人の活躍を元にした歌まで存在する始末。

特にエルフ族の若者の中には、熱狂的なファンも少なくはない。レオノーラもそのひとりである。

書籍は初版で全巻三冊ずつ所持しているし、劇も数えきれないほど見に行った。快人の活躍を元にした歌はソラで歌えるほどだ。

快人が異世界人ということもあり、最初に明里と和也のファミリーネームを聞いた時には偶然の一致だと思っていたが……実の両親だった。これで興奮するなという方が無理だろう。

「はい! ミヤマカイト様は、リグフォレシアでは界王様と並び称されるほどに偉大な人物です! その活躍を描いた本も大人気です!!」

「「本!?!?」」

「あ、あの、その、い、いきなり無礼かと思いますが……可能であれば……ミ、ミヤマカイト様のサインなど……い、いただけたりはしないでしょうか?」

「「サイン!?!?!?」」

自分たちの息子が、いつの間にか英雄と称えられており、本まで発行されている。青天の霹靂とすらいえるその言葉に、明里と和也はただただ驚愕していた。

なお、繰り返しになるが……快人本人にとっても、青天の霹靂である。