軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『イコールではない』

次元間を休むことなく転移しながら、シャローヴァナルは創造を破壊を繰り返す。この方法でクロムエイナを完全に倒し切ることは難しくても、時間稼ぎは十分に行える。

そう考えながら一方的な攻撃を繰り返していたシャローヴァナルは、微かに煌めいた閃光を見て顔を逸らす。

閃光はシャローヴァナルの頬にかすり、小さな傷を残すが、当然そんなものは即座に回復する。だが、シャローヴァナルは内心で驚愕しながら、動きを止めた。

いまの一撃によるダメージは皆無ではある……だが、それが『届いたこと』が驚愕だった。

シャローヴァナルはずっと、クロムエイナが反撃を行えない場所から攻撃を行っていた。だからこそ。反撃が届くはずがないのだ……少なくとも、シャローヴァナルの知るクロムエイナの能力では。

しかし、現実に反撃はきた。だからこそ、シャローヴァナルは動きを止めた。そして、直後に目の前に出現したクロムエイナの拳を受け止める。

その余波でいくつもの次元が崩壊していくのを横目に、クロムエイナは微かに笑みを浮かべる。

「やっと見つけたよ、シロ!」

「……やはり、そうそう思い通りにはいかせてくれませんか」

なぜ、クロムエイナがシャローヴァナルの下に辿り着けたか、その理由は彼女が発動させた固有の能力『 物語の始まり(プロローグ) 』にある。

いってみれば、その力の本質は……『可能性の生成』。彼女がその力を使った瞬間がプロローグであり、そこから先、物語はいかようにも姿を変える。未来は無限の可能性に満ちている。

先ほどまでのクロムエイナには、世界間、次元間の瞬間転移は不可能だった。しかし、いまのクロムエイナにはそれができる。

『不可能を可能に変える力』……それが 物語の始まり(プロローグ) 。幾人もの雛鳥たちを育て、多くの者たちの物語の始端に立った彼女だからこそ持ちえた力。

その力によりクロムエイナは瞬間転移の能力を獲得し、シャローヴァナルの下へたどり着いた。こうなってしまえば、有利なのは直接戦闘力で上回るクロムエイナ。

もっとも、それでもシャローヴァナルを真の意味で倒すことはできない。シャローヴァナルという存在が持つふたつの力、 物語の終わり(エピローグ) と 最後の物語(ラストストーリー) は、そもそも論外のものだ。

仮にクロムエイナが 物語の始まり(プロローグ) の力で、 物語の終わり(エピローグ) を防ぐことを不可能ではなく可能にしたとしたら……。

クロムエイナは『 物語の終わり(エピローグ) を防ぐことを可能にした存在として終わりを迎える』だけ……その力は……戦いや、能力の比べ合いなどという土俵にはないのだ。

誰も、何者も、その終わりに抗うことはできない。どんな手段を使っても、どんな能力を用いても……全ての物語が終わらない限り、シャローヴァナルという存在に終わりは訪れない。

だが、いま、この時においてその論外の要因はなんの意味も持たない。

物語の終わり(エピローグ) は現在クロムエイナの中にあり、シャローヴァナルはそれを取り戻す気はない。そして、クロムエイナの目的はシャローヴァナルを止めることであり、倒すことではない。

であれば、クロムエイナが戦いに勝つことは可能だ。そして、この戦いの天秤はそちらに傾いている。

「――――」

「なっ……シロ……君は……」

「――――」

「……くっ!?」

ただし、クロムエイナがシャローヴァナルに勝利できたとしても……。

「――――」

「シロォォォォ!!」

それが『快人を救うことに繋がる』とは限らない。

……クロムエイナは見誤っていた。シャローヴァナルが、己の敗北を予め予想していたころを……。

『シャローヴァナルに勝っても快人は救い出せない』という条件を整えた上で戦いに応じ、己すら『時間稼ぎのための捨て駒』として動いていたことを……。

そう、この戦いにクロムエイナが応じたこと自体が……『シャローヴァナルにとって望み通りの展開だった』のだから。

有紗と共に大学の門の前に辿り着くと、丁度タイミングよく見知った人物が見えた。

「おや? 『アイリス』さんじゃねぇっすか、奇遇ですねぇ~」

「……快人……有紗……おはよう」

「おはようございます、アイリスさん」

彼女はアイリス・リアフィードさんといって、名前からもわかる通り留学生である。雪のような白い髪に、ルビーのような赤い瞳を持つもの凄い美人である。

ただ、控えめな性格が災いして、あまり周囲に馴染めていなかったという過去がある。

俺と有紗は、大学の一番初めの講義で席がすぐ近くだったという縁で知り合い、それからすっかり仲良くなって、現在は同じ研究室に所属している。

「あぁ、そうだ。はい、アイリスさんにもお土産ですよ」

「……ありがとう……なにこれ?」

「どこの観光地にもだいたい置いてある、木彫りの置物です」

「……そうなの? ……えっと……大事にするね」

なんらかの動物が模されているであろう木彫りの置物を有紗が手渡し、アイシスさんが首をかしげながらもお礼を言って受け取る。

そんな微笑ましい光景を眺めていると、再び俺の頭に頭痛が走った。

「ぐっ……」

「……快人? だ、大丈夫?」

「え、えぇ、すみません。ちょっと頭痛が……」

「きゅ、救急車、呼ばないと……」

「あぁ、いや、もう収まりましたから大丈夫ですよ!」

「……そう? ……無理……しないでね」

アイリスさんは本当に優しい方で、ついでにかなり心配性でもある。俺が前にノートで指を切ったときにも、大慌てで救急車を呼ぼうとしたりしていた。

まぁ、それだけ心配してもらえるのは、嬉しくもあるが……。

「でも、快人さん。マジで大丈夫ですか? なんなら、講義休んで寝ときます? 出席なら私がジャーナリスト秘技のひとつ『完全声帯模倣』でなんとかしますよ」

「いや、本当に大丈夫。というか、一回、お前の中でジャーナリストがどんな超人なのか聞いてみたい気がする」

心配はしてくれているんだろうけど、一ヶ所は必ず冗談を入れてくるあたり有紗らしい……いや、コイツの場合、本当にできてもおかしくないのが恐ろしいところではあるが……。

突発的な頭痛に首を少し疑問に思いつつも、俺は有紗とアイリスさんと共に大学へと向かっていった。