軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『戦場』

神界と人魔連合軍の戦いは、なおも激しさを増し数多の浮島で様々な戦いが繰り広げられていた。

そのうちのひとつ、非戦闘員たちが集まる結界が集まる浮島の近くでも戦いは繰り広げられていた。

「……ぐっ」

複数の下級神の攻撃を受け、片膝を付くのは十魔の一角であるリリム……彼女にとって、いや彼女を始めとした一部の者たちにはこの戦いは非常に不利なものだった。

神族は全員シャローヴァナルにより力を与えられている。それは言い換えれば、全員が略式で『シャローヴァナルの祝福』を受けている状態。つまり、現在の神族には状態異常の類は効果を及ぼさない。

つまり、リリムが持つ強力な『 魅了(テンプテーション) 』も、現在の神族には通用しない。故に彼女は苦戦していた。

「母上!?」

そんな彼女の元に、慌てて駆け寄ろうとするのは……リリムの一人娘であるクリス。そう、クリスは聡明だ。己の母親の正体が十魔の一角……リリムであることなど、とうの昔に気付いていた。

その存在を疎ましく思っていたのも昔の話。いまのクリスにとって、リリムはかけがえのない……大切な母親だ。だからこそ、普段の彼女からは想像もできないような動揺した表情で、リリムの元へ向かおうとした。

「くるんじゃないわよ!」

「ッ!?」

しかし、それはリリムの鋭い声で遮られる。

クリスもそれなりに戦闘能力はある。しかしそれは精々護身用程度のレベルであり、この戦いについていくのは不可能。下級神相手でもかすり傷すら負わせることはできないだろう。

「……しかし……でも……」

「貴女が来たところで足手まといにしかならないのよ! 結界の中に引っ込んでなさい!」

リリムの言葉は正しい。それはクリスにだってわかっている。しかし、それでもなにもできない己の無力さに唇を噛む。

そんなクリスを見て、リリムはふっと優し気な微笑みを浮かべて立ち上がり、クリスに背を向けて告げる。

「貴女は結界の中で、しっかり見て……その目に焼き付けて、理解しなさい」

「……母上」

「……貴女の母親が、 魅了(テンプテーション) が使えなきゃなにもできないような、凡百の淫魔とは一線を隔した強者だってことを!」

その言葉と共にリリムは地を蹴り、複数の下級神に向かっていく。振り下ろされる刃、突き出される槍……それらを流れるような動きで掻い潜り肉薄すると、握りしめた拳で次々と下級神を吹き飛ばしていく。

「油断してんじゃないわよ! 一芸だけで六王幹部が務まるわけがないでしょう……この立場に居れば、嫌でも純然たる戦闘力ってのは必要になってくるのよ!」

子を守る母は強い。先ほどまでの苦戦が嘘のように次々と下級神を葬っていくリリム。だがそれでも、数が多く封印までは手が回らない。

倒れた下級神たちは即座に復活し、再び襲い掛かってくる。それを見て一度舌打ちをしつつ、リリムが迎撃をしようと構えると……地面から突き出た巨大な槍が複数の下級神を串刺しにした。

「……なんだ、意外に泥臭い戦いもできるではないか。しかたない、少し手を貸してやろう」

「チッ……モロク。余計なお世話よ」

微かな笑みを浮かべながらリリムの隣に降り立ったのは、褐色肌の魔族……同じく十魔であるモロク。そんなモロクに憎まれ口をたたきながらも、リリムは彼女と連携して次々下級神を封印していく。

だが、もちろんそれでは終わらない。ふたりの前に、明らかにそれまでの神族とは桁違いの魔力を纏った神族が現れる。

「……上級神のお出ましみたいよ」

「そのようだな。だが、そんな余裕があるのか?」

「なにが言いたい?」

油断なく構えながらリリムとモロクを見据えながら、上級神はモロクの言葉に微かに怪訝そうな表情を浮かべる。

「大したことではない。他にもっと全力で当たるべき相手がいるだろうと、そういう話だ」

「……問題はない。戦王、竜王の元には選りすぐりの上級神が居る。戦王五将や他の六王幹部相手にも、同様に上級神を割り当てている」

「ふふふ、神族ってのはどうしてこう頭が固いのかしらね? 同様、なんて言ってると手痛いしっぺ返しを食らうわよ」

「……なに?」

上級神にはモロクとリリムが言わんとすることがいまいち理解できなかった。故にすぐには戦いを仕掛けず、両者の言葉を待つ。

「貴様ら神族も、我ら幻王兵団と戦王配下の険悪な関係は知っていよう? そして、戦王配下筆頭のアグニ殿と、我ら十魔の長パンドラ様の仲の悪さも……」

「それがどうした?」

「いや、なに、こう言っているだけだ。そんな心底パンドラ様を嫌っているアグニ殿も、ある一点にだけは一度も文句を言ったことが無いと……」

そこまで言えば、上級神も理解できた。そう、公爵級の基準がアインであるため、そう呼ばれていないだけで、そう呼ばれていてもおかしくない存在のことを……。

そして、その考えを肯定するように上級審の首に巨大な鎖が巻き付いた。

「なっ!?」

「……そら、お呼びのようだぞ? しかと覚悟することだ。『伯爵級最強』の通り名は、そう安いものでは無いぞ……」

鎖によって引き寄せられていく上級神。その先には、複数の上級神を相手取りながら、凶悪な表情で戦いを繰り広げるパンドラの姿があった。

パンドラ……彼女は幻王幹部の頂点であり、同時に幻王配下の中で唯一『幻王の代理』を務めることを許された存在。

性格にこそ難があるのもの、幻王であるアリスからも大きな信頼を得ている腹心であり、最強の配下だ。

パンドラはアリスの手であり、足であり、目であり、耳でもある。その存在は全てアリスのために捧げられ……いまはまさに、アリスの障害を排除するため全力で敵を粉砕している。

いまのパンドラは、相手をいたぶったりはしない。迅速に、そして一切の容赦なく敵を葬る狂鬼と化していた。

別の浮島では、同じく十魔の一角であるパンデモニウム……イルネスが神族との戦いを繰り広げていた。病魔を操る彼女の力は、リリムと同様に現在の神族たちには通用しない。

だが、そもそもそんなものに意味などない。イルネスはたしかに病魔を操る力を持っており、それは彼女の代名詞ともいえる。

しかし、彼女は『その力をアテにしたことなど一度もない』。あくまでそれを使うのは、それを使ったほうが効率がいい場合にだけだ。

それ以上に彼女は武術の達人であり、魔力や身体能力が強化された神族相手でも十分に戦える。その上さらに、彼女にはもうひとつ『切り札』があった。

戦いに上級神が姿を現し始めると、イルネスは静かにそちらに視線を向け……『目の焦点を合わせた』。

普段は虚空を見つめているかのような彼女の目……その焦点が合った瞬間、イルネスの目に映る景色は凄まじく鮮明になる。

超速で振り下ろされる刃の小さな傷や汚れすらハッキリと見え、彼女は流れるような動きでそれを捌いていく。

そう、イルネスが普段目の焦点を合わせていない理由……それは彼女は生まれつき『目が良すぎる』からだった。遠距離も近距離も、鮮明に見渡せ、視野角も広い。さらには動体視力も凄まじく、いまのイルネスには上級神の一撃すら、スローモーションのように見えていた。

それは、もはやそれは魔眼と呼んでいいレベルであり、そのままでいると疲れてしまうため、イルネスは普段は目の焦点を合わせないようにしていた。

しかし、いまは疲労を気にしている場合ではない。愛する快人のため、彼女もまたすべての力を開放して戦いに臨んでいた。

戦いというのは不思議なものであり、まるでひとつの生き物であるかのように流れというものが存在する。戦いにおいて流れを掴むというのは非常に重要であり、それを掴みさえすれば格下が格上を打ち破ることもあるだろう。

そしてそれは個の戦いだけではなく、大規模な戦いにおいても存在する。その流れを掴むための要因はいくつかあり、戦力、志気、戦略、運……形も様々で、しかもその要因を押さえたからと言って必ずしも流れを得れるわけではない。

神界と人魔連合軍の戦いは、いまはその流れを奪い合う段階といってもいいだろう。

戦いの天秤はいままさに揺れている。これがどちらかに大きく傾けば、戦局は大きく変わっていくだろう。