軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『三つの戦い』

半年前に六王祭の会場となった魔界の島。そこには世界でも名だたる実力者を初め、人界と魔界で広く名の知れた者たちが集まっていた。

「さて、揃いましたね。では、事前に話した通り……決戦です。とはいえ、数点説明しておきましょう」

拡声魔法を使い全員に声が聞こえる状態にしてから、この人魔連合軍とも呼べる者たちの中心であるアリスが告げる。その表情は非常に真剣なものであり、いやがおうにも緊張感が伝わってくる。

「まず、戦う力がない方々、爵位級高位魔族に届かない方々……貴女たちの出番は、神域に到着してからになると思います。神族との戦いに関しては、基本的に六王とその配下、人界ではごく一部の実力者が行います。まぁ、神族側も明らかに戦闘要員ではない者たちに攻撃を仕掛けてきたりはしないでしょうし、リリウッドさんが結界もはります。まぁ、リラックスして待っておいてください」

今回集まった者たちの中には、快人の後輩である三人を初め、神界との戦いにおいて戦力としては数えられない者たちも存在している。

それは、アリスが快人から聞いた話を吟味し『快人が紡いできた絆』こそが、快人を救い出すうえで大きな役割を担うと判断したから……。

もちろん参加は強制ではない。だが、ここには快人がこの世界にきて知り合ったほとんどの存在が集合しており、その瞳には確かな意思を感じる。

それを見て、満足そうに頷いたあとで、アリスは話を進めていく。

「では、神界側の特筆すべき戦力と、それに対応する者を通達します。戦いには相性も重要ですからね。時間がないので、手短に一度だけ伝えます。ちゃんと覚えてくださいね」

そしてアリスは最高神など無策で挑むわけにはいかない相手について軽く触れ、最も適した者たちを割り振っていく。

その割り振りが終了し、完全に準備が整った状態になると……突如彼女たちの目の前に巨大な……マグナウェルでも余裕で通れそうなほどに巨大な門が現れた。

「……さて、皆さん。どうやら相手側の準備も万全みたいですね。『かかってこい』と、そう言ってます……それじゃ、まぁ、行きましょうか」

出撃の号令としてはあまりにも穏やかな、それでいて言いようのない重さの籠った声で告げたあと、アリスは連合軍の先頭に立ち門の中へと入っていく。

それに集まった者たちが続き、集まった者たちが皆門の中に入ると……門は初めから存在しなかったかのように消え失せ、あたりには静寂が訪れた。

門を潜り抜けた連合軍が目にしたのは、あちこちに巨大な浮き島が浮かぶ空間……神界ではなく、今回の戦いのために用意されたであろう舞台だった。

「……壮観ですね。当たり前ですが、シャローヴァナル様を除いた神族勢ぞろいですね」

連合軍の視線の先、ひとつの浮島の上には白い法衣に身を包んだ全神族が集結しており、明らかに普段とは違う桁違いの魔力を放っていた。

そして当然その中心、神族を率いているのは三体の最高神……。

「……よくぞ来た。と言っておくべきか?」

一歩前に出た時空神クロノアは、鋭い視線と共に連合軍へと言葉を投げかける。

「この状況において言葉は不要と言いたいところではあるが……三点ほど説明をしておく」

「おや? ずいぶん親切ですね」

「シャローヴァナル様の指示だ。では、心して聞け……まずは、安心せよ。この戦いにおいて発生した死者に関しては、戦いが終了したのち、シャローヴァナル様が全員蘇生する。無論、傷もすべて回復してくださる。貴様らの中には各界の権力者も多い、世界の混乱はシャローヴァナル様も望むところではない」

クロノアが告げた一つ目の内容は、この戦いにおいての死者は全てのちに蘇生されるということ。それはつまり、本当に死力を尽くしての決戦となることを示唆しているともいえる。

「ふたつ目は、我らは基本的に戦う力なき者には攻撃を行わない。ただし、こちらに刃を向けた場合は、いかな弱者とて容赦せず始末する。この場での戦いに参加せぬ者は、余計なことをせずに大人しくしていろ」

「……まぁ、それに関してはありがたいっすね」

「そして最後に……もうわかっているとは思うが、我らは全員シャローヴァナル様のお力により、この戦いが終わるまでの間限定ではあるが、強大な力を得ている。普段の我らとは思わぬことだ……さて以上を踏まえ、それでも戦うというなら……かかってこい! 神に抗う反逆者どもよ!!」

必要な説明を終え、膨大な魔力を放つクロノア……いまここに、神界と人魔連合軍の戦いが幕を上げる。

戦いが始まり、最後に動いたのはやはり速度に優れる者たち……時を操作する力を持つ、クロノアとアイン。両者は元々ライバル同士であり、普段の実力で言えばまったくの互角。

「ぐっ……」

「思えば貴様とも長い付き合いだな……安心しろ、此度の戦いは我の方が反則をしている。これで貴様に勝ったとは思わん」

一瞬の交差ののち、あまりにもアッサリと殴り飛ばされたのは……アインだった。同じ時を操る能力を持っているとしても、現在の両者の身体能力には大きな差がある。故にいまのアインでは、クロノアには絶対に勝つことはできない。

もっともそれは……初めから分かり切っていたことではあるが……。

「むっ……」

殴り飛ばされていたアインの動きが空中で不自然に止まり、ある一点へと引き寄せられる。引き寄せたのは、力場操作という力を持つ魔導人形ツヴァイ。彼女の力により、アインは早々に戦線を離脱することはなかった。

そして引き寄せられたアインのもとに、もうひとりが近づいて手をかざす。

「アインお姉ちゃん! すぐ、回復するから!」

「……助かります。ツヴァイ、フィーア」

「ふむ」

フィーアの治癒魔法により回復したアインは、即座に立ち上がりクロノアに視線を向ける。対してクロノアは悠然と構えたまま、特に攻撃を仕掛けたりはしない。

それもそのはずだろう。クロノア……神族たちは、別に連合軍を倒す必要はない。彼女たちの目的はシャローヴァナルが快人に与えた試練が終わるまでの時間稼ぎ。ならば、わざわざ攻めにまわる必要はない。

攻めるという行為には多少なりともリスクが潜む。攻めてくるなら迎え撃つが、そうでないなら待てばいい……戦いが長引いて得をするのは、神族側だ。

そんなクロノアの前にもうひとつ、巨大な影が舞い降りる。全長五十メートルを超える巨大な甲冑。

「……フュンフ、頼りにしていますよ」

「はい! アイン姉さん!」

クロムエイナの家族のひとりであり、『城門の巨兵』の通り名を持つ伯爵級高位魔族フュンフは、アインの言葉に力強い返事を返す。

すると直後にその巨大な甲冑がバラバラに弾け、ボディスーツのような肌に密着した服を着た少女が姿を現す。

「私は、大切な家族を守り抜く盾――イージス!」

その言葉をトリガーにして、バラバラになっていた甲冑が集まり姿を変える。それはもはや壁と表現するべき巨大な大盾となって、フュンフの前に出現する。フュンフはその盾の取っ手をしっかりと掴み、強く地面を踏みしめる。

突如出現した大盾にクロノアが目を向けたのを見逃さず、アインは時を加速させ、素早く踏み込んで拳を振るう。しかし、いまやアインを遥かに超える力を得ているクロノアは、アッサリとその拳を弾き、お返しとばかりにカウンターを放つ。

「なにっ!?」

「ぐっぅぅぅ」

しかしその拳は、突如クロノアとアインの間に割り込んだ大盾によって阻まれる。だが、いかに防御能力に特化していようと、所詮は伯爵級……クロノアの拳の凄まじい衝撃により、盾は砕けずともフュンフの体は大きく吹き飛ばされる。

すると、先ほどの焼き増しのように、ツヴァイがフュンフの体を引き寄せ、フィーアが素早く治療……そして再び接近したアインが拳を振るってくる。

その拳を防御しながら、クロノアは静かに告げる。

「なるほど、限定的な因果律の生成か……いい連携だ。厄介と評してもいい」

「大昔に、とある相手に連携の拙さを指摘されて以降、そちらに関しては磨き上げてきましたからね」

フュンフの持つ力は『家族を庇った』という結果を確定させる能力。いかなるタイミングで、どんな場所から攻撃を放ったとしても、フュンフは因果律を捻じ曲げその攻撃に割り込む。

アインが攻め、フュンフが守り、ツヴァイがサポートし、フィーアが治療する。家族としての絆を生かした連携を軸に、彼女たちは時空神へと挑んでいく。

ところ変わって別の浮島では、同じく最高神の一角である生命神ライフと、死王アイシス・界王リリウッドのコンビが対峙していた。

「……まぁ、当然そうですよね。最高神である私には、六王を最低でも二体は割り振ってきますね」

『おそらく、この戦いの要は貴女……貴女を倒さなければ、私たちに勝利はない』

「それに関しては、正しい判断です。私を倒さなければ、神族たちは何度でも復活する……が、認識は甘いと言えるでしょう。いまの私に、六王二体程度で対処できると……本当にそう思っているのですか?」

目を閉じたままライフが告げると、その後方に視界を埋め尽くすほどの空飛ぶ騎兵が生み出される。無限の兵力、しかも、その一体一体が爵位級と呼べるほどの力を持つ圧倒的戦力。

だからこそ、ライフにはアイシスとリリウッドが割り当てられた。

「……死ね」

殺すということに特化した力を持つアイシスが、死の魔力を放つ。それは大量の騎兵に与えられた命をまとめて奪い取る……はずだった。

「……ッ……なんで……死なない?」

「いえ、ちゃんと死んでいますよ。『死んだ瞬間に蘇生』しているだけです。いまの私には、その程度造作もないことです」

「……」

元々持っていた能力が桁外れに強化されているという点で考えれば、ライフは本当に厄介であり、神族側の要といえる存在だ。

無限の兵力を生み出し、傷ついた者を癒し、死した者を蘇生する。リリウッドの言葉通り、彼女を倒さなければ、連合軍に勝利は訪れない。

「……リリウッド……皆を近づけないで……『本気』……出す」

『アイシス……ええ、わかりました。リーリエ、他の者を連れてこの浮島から去りなさい』

ポツリと呟いたアイシスの言葉を聞き、リリウッドはサポートのために後方に控えていた眷属……七姫たちに離れるように指示を出す。

「リリウッド様!? し、しかし、我々は……」

『自分たちは伯爵級でも高位の力を持つから、アイシスの死の魔力にさらされても十分に戦闘をこなせる。そう思っているのなら、その認識は即刻改めなさい』

「ッ!?」

『貴女たちが耐えられているのは……『魔界最高峰の魔力制御技術を持つアイシスが、全力で抑えてなお抑えきれない死の魔力の欠片』でしかありません。直ちに去りなさい』

「……は、はい!」

そう、遥か昔より死の魔力を抑えようと苦心してきたアイシスの魔力制御技術は、魔界においても最高峰。しかし、そんなアイシスの技術でも……死の魔力を完全に制御することはできない。

それほどまでに、彼女が生まれもった死の魔力は大きすぎる。だからこそ彼女は、普段死の魔力をそのまま行使するのではなく、氷の魔法へと変換して戦う。

彼女が死の魔力を、死の魔力として全力行使するのは……まさに本気。

「……カイトを……助ける……邪魔するやつは……全員……死ね!」

普段は青白いアイシスの魔力が、どす黒い色へと変貌していく。その姿はまさに、死の化身。死を統べる王。

「死神の本領発揮ですね。禍々しいものです。では、貴女が殺すか、私が生かすか……観客は少ないですが、しばし、踊ってみることにしましょう」

シャローヴァナルとクロムエイナ。神族と人魔連合軍……。

ふたつの大きな戦いが進行していく中、もうひとつ……最も重要な戦いが、あまりにも静かに幕を上げていた。

――貴方の勝利条件は単純です。『この場に戻ってくること』それができたなら、貴方の勝利です。

――この場に戻ってくる? え? その、試練の詳細とか失うものとかの説明は?

――その話は、貴方がこの場に戻ってきてから語るとしましょう。

――いや、それじゃ意味がな……。

目覚まし時計の音が聞こえ、目を覚ます。なんか、変な夢を見ていた気がするが……得てしてそういうものは思い出せないものだ。

というか、今日何日だっけ?

若干寝ぼけていて回転の悪い頭を動かしつつ、壁にかけてあるカレンダーを見る。あぁ、そうか、今日は『12月1日』か……ってあれ? なんだこのカレンダー……『12月30日までしかない』? 印刷ミスかなにかかな? まぁ、どうせ12月が終わったら新しいカレンダーに変えるんだし、気にしなくていいか。

気にはなったが、それ以上考える気にもならず、俺は部屋を出て階段を降り、キッチンへと向かう。

「あっ、快人。おはよう」

「おはよう、『母さん』」

「朝ごはん、もう少しでできるから」

「うん……父さんは?」

「今日は早出らしくて、もう仕事に行ったよ」

「ふ~ん」

明るい笑顔で話す母さんと軽く挨拶をしたあと、洗面所で顔を洗って、着替えて鞄を用意してからリビングに移動して椅子に座る。

「快人、今日はいつごろ帰ってくるの?」

「えっと……今日は午前中の講義しかとってないけど、午後からは研究室に顔出すから……夕方ぐらいかな?」

「じゃあ、帰りにちょっとお買い物頼んでいいかな?」

「うん、大丈夫。なに買うかは、あとでメールしておいて」

「了解! はい、できたよ~」

「……母さん、卵焦げてる」

「……ちょ、ちょっとだけだから、大丈夫だよ。たぶん……」

まったく、本当にいつまでたっても料理の腕が上達しない母さんである。まぁ、なんだかんだで、母さんの料理は嫌いじゃないけど……。

そんなことを考えながら、あまり時間に余裕もなかったので急ぎ目にご飯を食べ、鞄を掴んで立ち上がる。

「ごちそうさま……じゃ、行ってきます」

「うん、いってらっしゃい! 気を付けてね」

「いってきます」

いままで何度も繰り返したやり取りのはずだけど、今日は少し新鮮に感じる気がする。本当に小さな違和感を感じつつも家を出ると、ちょうどそのタイミングで隣の家の扉が開き、小柄な女性が姿を現す。

「あれ? 快人くん。おはよう……いまから大学?」

「おはよう。『絵里奈』も、いまから?」

「うん……というか、いまは絵里奈でいいけど、大学ではちゃんと『黒須教授』って呼ばなきゃダメだからね」

「はいはい」

「……もぅ、ちゃんと分かってるのかな?」

黒須絵里奈(くろすえりな) ……お隣さんで年の離れた幼馴染でもある彼女は、同時に若くして教授の地位を得た才女であり、俺が所属している大学の研究室の室長でもある。

高校生どころか中学生や小学生に間違われそうなほどに小柄であり、幼いころはずっと同じぐらいの年だと思っていたほど……白衣がこれでもかというほどアンバランスで、大学ではマスコット的な存在として非常に人気がある。

家が隣だったこともあって、遊んでもらったり勉強を教えてもらったりと、かなりお世話になっている存在でもあり、そのころの癖で現在もタメ口で話している。それをアッサリと許してくれる包容力のある優しいお姉さんって感じだが、ところどころに子供っぽい面もある可愛らしい人だ。

「せっかくだし、大学まで送っていこうか?」

「いや、今日は『有紗』と待ち合わせしてるから……」

「んっ、了解。じゃあ、また研究室で、だね」

「ああ、午後には顔出すよ」

「じゃ、またあとでね~」

可愛らしく手を振って車に乗り込む絵里奈を見送ったあと、俺は改めて大学への道を歩きはじめる。

しばらく進んで、親友との待ち合わせ場所である公園に到着するが……姿が見えない。まだ来ていないという可能性もあるが、アイツの性格上……。

「……そこだ!」

「むっ!? やりますねぇ、快人さん。正解です」

「お前は普通に登場できないのか……」

近くの茂みを指さしながら宣言すると、サングラスをかけた少女が顔出し明るい笑顔を浮かべる。彼女の名前は 幻中有紗(まもなかありさ) ……高校時代からの親友であり、ついでに変人である。

「なんか、いわれない中傷を受けた気がするんすけど?」

「気のせいだ……それで、この連休はどこか行ってたのか?」

「ええ、ちょっと『紛争地帯でハイキング』してきました。これ、お土産です」

「……意味が分からない」

有紗は将来『世界を股にかけるスーパージャーナリスト』とになるとかで、連休になるとあちこちの国に足を運んでいる。まぁ、どうもチョイスというか……コイツの語るジャーナリストは、一般的なものとはなにか違う気がするんだが……。

「というか、そんなとこ行って大丈夫だったのか?」

「問題ありませんよ! 私の『八十八のジャーナリスト秘技』のひとつ、隠密術でサクサク観光できました!」

「違う、やっぱりお前のジャーナリスト像は、なんか違う」

「あはは、まぁそれは置いておいて……大物政治家の汚職ネタ仕入れたんですけど、聞きます?」

「やめろ、ことあるごとに俺に世界の深淵を覗かせようとするな」

なんというか、こんなふざけた奴ではあるが……有紗は高校時代から、全国模試三年連続一位、スポーツ万能、その他大抵のことは万能と掛け値なしに天才と呼べる活躍をしている。

馬鹿と天才は紙一重というか、こいつはまさにそれを体現した奴だろう。まぁ、そんな色々ぶっ飛んだ奴ではあるが……なぜか、俺と妙に馬が合い。いまや親友同士である。

ちなみに有紗なら、難関大学でも余裕で入れたはずだが、「必要な勉強は自分ですればいいですし、大学なんてどこでもいいです」と言って、俺と同じ大学を受験した変わり者だ。

まぁ、その際に大学入試の勉強を……有料ではあるが分かりやすく教えてくれたので、感謝はしている。ちなみに講義とかも、俺とまったく同じコマ割りで取っている。

「ところで快人さん! 今日のお昼はなに食べましょうか?」

「はえぇよ。まだ大学に着いてすらいないのに、昼飯の相談とか……」

「いやいや、とても重要な要素ですよ! なにせ、『快人さんの懐事情』と相談しなければならないので――あいたっ!?」

「なんで、俺が奢る前提なんだよ……」

相変わらず馬鹿な発言をする有紗の頭に軽く拳骨を落とし、そのまま他愛のない雑談を交わしながら、大学へ向かって歩き始めた。

「ぐっ!?」

「快人さん? どうしました?」

「いや、いまなんか、一瞬、頭痛が」

「……大丈夫ですか?」

「うん、もう収まってる」

「う~ん、念のため病院行きます? 腕のいい闇医者紹介しますよ」

「普通の医者にしてくれ……じゃなくて、特に問題はなさそうだから……」

「そうですか、違和感があったら、ちゃんと言ってくださいね」

「うん、ありがとう」

なんだったんだ? いまのは……どうも、なにか喉の奥に小骨がひっかかっているような、奇妙な違和感があるけど、答えは出てこなかった。

それは、甘く優しく……困難な試練。なるほど、たしかに彼の心は強いだろう。数多の圧にも苦難にも屈せず、立ち続けるだろう。

だが、彼は果たして……『望むものが全てある優しい世界』を振り切ることができるのだろうか? 両親が居て、愛しき者たちがいる。そんな、どうしようもなく温かな世界を否定できるのだろうか?

それは、静かな毒……この優しい世界こそが、創造神シャローヴァナルが快人に与えた試練だった。