軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『始まりと終わりの激突』

神域の中心に置かれた巨大な繭。光り輝いているようにさえ見え、荘厳さを感じさせるその繭の前に立ち、シャローヴァナルは静かに中で眠る快人を見つめる。

そしてその姿勢のまま、後方に控える者たちに対し、一言だけ告げた。

「……あとは、任せます」

「「「はっ!」」」

首を垂れ返事をするのは、シャローヴァナルを除き神界の最高戦力……三体の最高神。クロノア、フェイト、ライフの三人。

シャローヴァナルに事前にこの戦いの説明を受け、さらには期間限定とはいえシャローヴァナルの魔力によるブーストを得て、桁外れの力を手に入れた最高神たちは、立ち上がり静かに繭に背を向けて歩き出す。

彼女たち三人も快人とは知り合いであり、良好といっていい関係だった……しかし、この場においてはもはや関係ない。絶対であるシャローヴァナルの言葉を受けた以上、最高神はその使命に従いシャローヴァナルの敵を排除する。

たとえそれが、宮間快人という存在を殺すことに繋がろうとも……躊躇はしない。

……はずだった。しかし、神域を出る直前、ひとりだけ……後方を振り返り、小さな、本当に小さな声で呟いた。

「……カイちゃん……本当に……私は……これでいいのかな?」

微かに迷いが感じられるその言葉に返事はなく、フェイトは一度首を横に振って神域をあとにした。

最高神たちが去り、一瞬の静寂に包まれた神域だったが……その静寂はすぐに、空間を歪ませるほどの魔力と共に消え失せる。

「シ、ロォォォォォ!!」

「……来ましたか」

冥王・クロムエイナ……彼女はどうしようもなく優しい心を持つ存在だ。甘すぎるとさえいえるほどに。だからきっと、彼女のその表情、憤怒に染まり切った顔は、いまだ誰も見たことがないものだろう。

神域の地を砕き、凄まじい魔力と共に飛来したクロムエイナは、怒りに染まった表情でシャローヴァナルに向けて叫ぶ。

「なんで! なんで! カイトくんに忘却のゆりかごを使った!! ソレがどういう意味か、分かってるのか!!」

「……」

クロムエイナは優しく、甘い。シャルティア……アリスから、シャローヴァナルが快人の記憶を奪おうとしている可能性があることを聞いてはいたが、それでも直前まで彼女はシャローヴァナルを信じたかった。

快人を大切に思っているシャローヴァナルが、その快人を殺すような手段を取るはずがないと……きっと思いとどまってくれると……儚い期待を心の片隅に抱いていた。

だが、それはすでに裏切られた。シャローヴァナルはアリスが想定していた中でも、最悪と言っていいものを奪おうとしている。許せるはずが、無かった。

「カイトくんの記憶を消す。それは、カイトくんを殺すのと同じだ!! どうして! シロだって、カイトくんのことが大切だったんじゃないの!! カイトくんだって、シロのことを信頼していたはずだ!!」

「……」

「なのにどうしてこんな酷いことを! なんで、カイトくんの信頼を裏切るような真似を!!」

「……たに……」

「答えろ! シロ!」

「貴女に!! 私のなにが分かるというのですか!!」

「ッ!?」

それは、怒り狂っていたはずのクロムエイナが思わず後ずさってしまうほどに衝撃的な光景だった。

いつも無表情で感情を表に出さないシャローヴァナルが……声を荒げ、叫んでいる。長い付き合いのクロムエイナですら、一度も見たことがない激情の浮かぶ表情で……。

「なぜ? それを聞きたいのは私の方です! なぜ、貴女なのですか! よりにもよって!!」

「……シ……ロ……?」

「私が! 求めたのは、私なのに! どうして、他ならぬ貴女が! どうして、私の欲しかったものを得て! 私の立ちたかった場所に立っているのですか!?」

表情を歪めて叫ぶシャローヴァナル。その姿は、いまにも泣き出しそうにも見えた。

「もとは同じ存在なのに! いったい! 貴女と私の!! なにが違うというのですか!?」

「……」

激情をあらわにするシャローヴァナルを見て、クロムエイナは茫然とした。シャローヴァナルはそのまま大きく肩を動かして息を吐いたあと……いつもの無表情に戻り、快人が眠る繭へと視線を向ける。

「……快人さんがこの世界で過ごした一年の記憶を失えば……貴女に救われる前の快人さんを私が救えば……私は、快人さんの特別に……無二に……なれるんです」

「……シロ、君は……」

その姿を見て少し冷静さを取り戻したのか、クロムエイナは一度目を伏せて思考をしたあとで、静かながら強い通しの籠った瞳でシャローヴァナルを見つめて口を開く。

「……やっぱり、正反対に見えてもボクたちは似てるんだね。なんだかんだで、ボクたちは同じものを求めた。うん、いまならボクにも少し、シロの気持ちはわかるよ」

「……」

「でも、駄目だよ。それでも、それだけはやっちゃいけない。それだけは、許すわけにはいかない」

「私が、貴女の大切なものを奪おうとしているからですか?」

「それもあるけど、それだけじゃない。カイトくんの記憶は、他の誰でもない……カイトくんだけのものだ。たとえ、そこにどんな事情があったとしても……それを奪うことは、ボクが許さない」

これは、分かり切っていた決裂だ。たしかにシャローヴァナルとクロムエイナは同じものを、同じ存在を求めた。しかし、いまこの場において……両者の求める結末は一致しない。

ならば、どうするか? 決まっている。互いに譲れないのであれば……あとは、戦うしかない。

「わかっていました。こうなることは……」

「……ボクは君を止める」

「ならば、私は貴女を退ける」

静かに交わされた言葉と共に、周囲の景色が一変する。神域も、快人の眠る繭も消え、無限に広がる宇宙のような光景だけが広がる。

『シャローヴァナルがいま新たに作り出した世界』……絶対者である両者の戦いの舞台。

今宵、いくつもの世界が生まれ、そして滅ぶだろう。二万年前のただの殴り合いでもない、時折行っていた息抜きの喧嘩でもない。

たったひとりの青年の物語を巡り、始まりの黒と終わりの白は今日、初めて互いに死力を尽くしてぶつかり合う。