軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

泣き出しそうなように聞こえた

六王祭六日目の夜。いろいろと濃かった六王祭も明日が最終日……いろいろ大変なこともあったが、いざ終わりが近づくと寂しくも感じる。だが、

まぁ、それはいい……おいておこう。目下、それ以上に重要なことがある。

「……一応、なんとなく予想は出来るんですが、聞いてもいいですか? なんで俺は、夕食が終わるなり『神域に拉致』されたんでしょうか?」

「今日は私の番です」

「は、はぁ……」

「クロたちは、翌日快人さんとデートをする存在が、前日の夜に一緒に入浴できるというルールを作りました。ならば、当然私にも権利はあるはずです」

最終日前夜の余韻に浸る暇もなく、俺はシロさんによって神界に拉致されていた。うん、まぁ、なんというか……予想通りというほかない。

「……まぁ、クロが阻止してないってことは話は通してるんでしょうし……どうせ、俺に拒否という選択肢はないんですよね?」

「はい。その通りです」

「わかりました……では『条件があります』」

「む?」

そう、俺はこの状況を予想していた。クロたちがああいうルールを定めた時点で、シロさんがそれを利用してこないはずはないと、そう思っていた。故に、その対策もしっかりと考えている。

まぁ、中央塔ではなく神域に連れてこられたのは想定外だったが……。

「シロさん、前に俺と海に行った時のこと、覚えてますか?」

「ええ、もちろん」

「では、あの時に着ていた『水着を着て入って』ください。それが俺の出す条件です」

「むむ……ですが、幻王以外で快人さんとの入浴時に水着を着用していた者はいませんでした。クロも、水着ではなかったはずです。それは、ズルいです」

相変わらずの抑揚のない声ながら、どこか不満げに抗議してくるシロさんだが……その返答も想定済みである。

「たしかに、そうかもしれません。でも、考えてみてほしいんです。シロさん自身がどう思っているかは分かりませんが、シロさんはものすごい美女なんですよ。水着を着ずに一緒に入ったとしたら、俺は緊張します」

「……」

「そうなると、俺にはシロさんとの会話を楽しむ余裕は無くなってしまうと思うんですよ。せっかくの機会なんですから、俺はシロさんとのふたりっきりの時間を楽しみたいんです」

「むむむ……」

俺が告げた言葉に対し、シロさんは珍しく言い淀む。なんというか、会話でシロさん相手に優位に立っているのは、ものすごく新鮮な気がする。

ともあれ、俺の言いたいことは伝わったみたいで、シロさんは無表情のままでしばらく沈黙する。

「……わかりました。水着を着用して入浴します」

「ありがとうございます! あっ、それと『入る時だけ水着で、湯に浸かったあとで水着を消す』とか、トンチじみたことはやめてくださいね」

「……」

念のために釘をさしておくと、どうやら本当にやる気だったみたいで、シロさんは短く瞬きを二回行っていた。これはシロさんが驚いている時の反応だ。

今回ばかりは俺の事前の想定と対策が実を結び、シロさんは大人しく水着を着用してくれた。

水着を着用したシロさんと一緒に、以前神界に訪れた際にも入った温泉に浸かる。しかし、う~ん。本当にシロさんはズルいと思う。本当に美人過ぎるというか、水着を着ていても油断したら顔に血が全部集まりそうだ。

「……なんだか負けた気がします。不満です」

「勝ち負けがどこにあるのかまったくわかりませんが……俺が勝ったというなら、シロさんに対する初勝利ですかね?」

「……いえ、二勝目です」

「あれ?」

はて? シロさんに勝ったのが二回目? いつも振り回されてばかりで、勝てた記憶なんて……あっ、もしかして、初めて会った時の?

「その通りです」

シロさんが言っているのは、俺とシロさんが初めて出会った時の会話……「貴方の欲しいものをあげましょう」と言うシロさんの言葉を、俺は拒否した。

正直俺としては勝ったという感じはしないが、シロさん的にはアレも負けらしい。

「……私は、貴方が本当に望むものを用意できませんでした。ならば、私の負けでしょう」

「そういうものですかね?」

「そういうものです」

そう告げたあと、シロさんはどこからともなくお猪口と徳利を出現させ、なにも告げず俺にお猪口を手渡してくる。そういえば、前に一緒に温泉に入った時も、こうしてお酌してくれたっけ……なんだか、それほど前のことじゃないはずなのに、不思議と懐かしい気がする。

「……美味しいです」

「そうですか、それは、よかったです」

「……ところで、シロさん?」

「なんですか?」

「勘違いだったらすみません……今日は、なんか、『少し落ち込んでいる』みたいに見えるんですけど……」

「なぜ、そう思うのですか?」

「なんとなく、ですかね」

「……」

クロから聞いた話ではあるが、シロさんは嘘を付くことはない。つまり、沈黙は肯定ということだろう。

正直、自身は無かったし、シロさんに言った通り根拠なんてのもない。いままで、シロさんが落ち込んでいる姿は見たことがないので、本当にただの勘だった。

「……快人さんは、私の感情の変化を表情から読み取ることができるんですか?」

「……へ? え、えぇ、まぁ……なんとなくは」

たしかに、シロさんはほとんど表情も変化しないし、声にも抑揚がない。ただ、それなりに言葉を交わしていることもあって、ある程度の変化は分かるようになってきた。

楽しんでいるときは口角が数ミリ上がる。驚いたときは瞬きを二回する。拗ねているときは口を数ミリ小さくしているし、困惑しているときは瞼が数ミリ落ちる。

ある程度コツを掴んだのか、いまでは感情の変化を表情から読み取れるようになった。

「……貴方は……本当に……」

「シロさん?」

「いえ、なんでもありません」

「……」

なにかを言いかけたシロさんだったが、その言葉を途中で止めて首を横に振る。

そして、視線を神界の空に移してから……ポツリと、小さな声で呟いた。

「……もし」

「うん?」

「……もし、私が貴方の……『大切なもの』を奪おうとしているとしたら……貴方は、私を……嫌いになりますか?」

拝啓、母さん、父さん――それは気のせいだったんだろうか? いつも通り抑揚のない声、ほとんど変わらない表情……だけど、俺にはなぜか、シロさんの声が、いまにも――泣き出しそうなように聞こえた。