軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勝負はこれからだ

夜の街を疾走するバイク。普通なら運転経験がない者に大型バイクなどコントロールはできないだろう。それこそ、少し間違えば壁に向かって一直線だ。

しかし、この仮想世界においてはそれを自動的にフォローしてくれる機能が存在している。そのため、人生で初めてバイクを運転した俺でも100kmを越えるスピードで走ることができていた。

さらに、本来であれば強烈であろう風も目が開けていられるぐらいの弱さ、ヘルメットが無しの状態でも問題は感じなかった。

たぶんヘルメットが実装されていないのは、角があったり体のサイズが人間と違う種族もいるからだろう。まぁ、そもそも、事故らない安全性があるので不要と言えば不要だ。

ともかく、問題なくスタートし、順調にスピードを上げていく俺のバイク。その少し前をアリスのミニバギーが走っている。

あんな小さなタイヤで100kmオーバーが出るとは思えないが、そこはゲームなので気にしないことにする。

他のNPCも流石と言うべきか、当然というべきか、順調に俺たちを追いかけて……う、うん? なんだアレ?

「アリス! アリス!!」

信じられないものを見た俺は、思わず前を走るアリスに呼びかけるが……流石に弱いとは言え前から風が吹いていて、なおかつマシンの音もある状態では、声は届かな……。

『なんすか?』

「うぉっ!? なにこれ!?」

そう思っていたら、突然俺の左斜め前に小さなモニターが表示され、アリスの顔が映った。

『メニュー画面のプレイヤーの項目から、話したい相手を長押しすれば個人回線が開けますよ~。ちなみに、個人回線中は互いのプレイヤーにしか声が聞こえないようになってます』

「何度目になるか分からないけど、マジで凄い」

プライベートチャット完備とは、本当に高性能なゲームである。マシンから伝わってくる感触も本当にリアルだし、景色も美しい。

これが完成したら、入り浸ってしまいそうな気がする。

「……って、あっ、そうじゃなくて、アリス! なにアレ、あの……レッドゴリラマークⅡ……『走ってる』んだけど!?」

『へ? そりゃ走りますよ。ゴリラですから、四足歩行ですね』

「……う、うん? そ、そうか……」

さも当然のように告げるアリスに対し、俺は次の言葉が続かなかった。チラリとミラーを確認すれば、こちらに向かって四足歩行で迫ってくる、背中にNPCを乗せた機械の赤ゴリラ……あまりにもシュールである。

ま、まぁ、いいか……とりあえずレースに集中することにしよう。

レッドゴリラマークⅡは、とりあえず『そういうマシン』だと無理やり納得して、俺は先行するアリスを追うためにスピードを上げた。

首都高がモデルとはいえ、そこはあくまでゲーム用のコース。右斜め前に表示されたマップを見る限り、高低や急なカーブと言ったレースを盛り上げるポイントもしっかり用意されている。できればその辺りで喰らいついていきたいが……流石は製作者と言うべきか、上手い。

アリスのミニバギーは小回りがきく軽いマシンであり、最高速度こそ俺のバイクのほうが上だが、インを滑るように攻めるテクニックを駆使しており、なかなか追いつけない。

どこかいい感じに逆転できるポイントはないかと、マップを見ながらマシンを操る。

そこでふと、スピード表示の下に赤い丸が三つ存在していることに気が付いた。なんだろうコレ? ガソリン残量とかじゃないし、赤だけだから信号機でもない。

「……アリス、このスピードメーターの下の赤い丸はなに?」

『おっと、うっかり説明を忘れていました。それは特殊走行のスイッチです』

「特殊走行?」

『ええ、押すことでマシンごとに設定された特殊かつ特別な走行を自動的に行ってくれます。カイトさんの乗っているベビーカステラ96号の特殊走行はシンプルに加速です。5秒間だけ最高速の限界が消えて超加速します。超スピードで走れますが、レース中に3回までしか使えません。使いどころに注意してください』

なるほど、そういう必殺技みたいなのもあるのか……男心がたいへん刺激される。しかし、それにしても……BC96って、やっぱりベビーカステラだったのか。

前々から少しは思ってたけど、クロのセンスって……。

『もちろん私の『超絶アリスちゃんスペシャルバギー』に特殊走行はあります!』

「……」

……まぁ、アリスよりはまともだよな。

『……あれ? なんかいま、いわれの無い中傷を受けたような……』

「気のせいだ」

『そうっすか……まぁ、ともかく私のマシンの特殊走行は、一定距離を走る毎にひとつずつ溜まりまして、それを使うとコーナーで減速せずにインベタを自動で走ってくれます』

「……なるほど」

つまり、アリスのあのカーブに吸いつくようなドリフトは、その特殊走行を使ったわけか……これは、使いどころさえ間違わなければ非常に大きな武器になる。

そう考えながら俺はジッとマップを見て戦略を固めていく……BC96の特殊走行は回数制限があるタイプだが、5秒間の凄まじいスピードで走れるというのは、非常に強力だ。

ただ、直線でしか使えないという欠点もある……それらを考えた上で、攻めるポイントは……。

ひとつはラストにある長い直線のために温存しておくとして、残る2回……よし、ここだ。

戦略を固めた俺の視線の先には、最初の勝負所……大きな上り坂が見えてきていた。

首都高風の場所に急傾斜の上り坂と下り坂というのもゲームならではだろう。ここで……アリスに追いつく。

現時点でアリスとの差はそれなりにあり、俺が坂に辿り着いた時には、アリスは坂の真ん中まで進んでいた。

そこで俺のBC96の特殊走行を発動、速度メーターが振りきれ、マシンは桁外れの速度で加速する。景色が一気に後方へ吹き飛んでいくのを感じながら、俺はジッとコースの先を睨んでいた。

こんなふざけた走り方は現実なら絶対にできない。怪我をしないという仮想世界だからこそできる走行。

限界を越えて加速したBC96は、アリスが坂を下りはじめるのとほぼ同時に上り坂をものともせずに上りきり……そして……。

『なっ!? と、跳んだ!?』

速度を維持したまま下り坂を飛び越える……あっ、これ怖っ!?

「うぉぉぉぉっ!?」

怪我をしないというのは分かっていても、跳躍したマシンが落下していくのには肝が冷えた。

しかし、そこは安心安全設計の仮想空間。かなり大きな跳躍だったが、ほとんど衝撃を感じることなくマシンはコースに着地して走り出す。

『なんて走りを……ぐぬぬ、まさか初心者のカイトさんに抜かれるとは……』

よし、このリードは大きい。最高速はアリスのマシンより俺のBC96のほうが上……このままリードを守り切れば勝てる!

拝啓、母さん、父さん――アリスとの白熱のレース対決。序盤リードしていたアリスを、中盤で抜くことができた。しかし、アリスだってこのままでは終わらないだろう。まだまだ――勝負はこれからだ。