軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

完敗だ

アリスとのレースゲーム対決。特殊走行による奇策でアリスを抜いた俺だが、まだレースは中盤……ここからが本番と言ってよかった。

コースマップを見る限り、次の難所は……大きな螺旋状のカーブ。これもゲーム用のデザインだろうが、なかなかに難しそうだ。

カーブ自体は緩やかに見えるが、螺旋状であるが故に長く、スピードが出しにくい。なんとか、上手く抜けたいものだ。

そうこう考えているうちに螺旋カーブの入り口が見え始める。さすがに全速力で突っ込むことはできないので、適度にスピードを落として……。

『甘いですよ! カイトさん!』

「なにっ!?」

しかし、減速した俺とは反対にアリスはフルスロットルで加速し、一気に俺を追い抜いて螺旋カーブへ向かう。だが、いくらなんでも無茶だ。あんな速度で曲がれるわけがない。

壁に突っ込んでも怪我はしないゲームだが、スピードが大幅に減速するペナルティがある。それを考えるとアリスの攻めはあまりにも無謀な……。

そこまで考えたタイミングで、俺の頭にはアリスが語った特殊走行が思い浮かんだ。しまった、そういうことか!? アリスのマシンの特殊走行はコーナリング……つまり……。

頭に浮かんだ考えを肯定するように、アリスのミニバギーは四つのタイヤをフルに使い、壁に貼りつくような四輪ドリフトでカーブを曲がっていく。

これ以上ないほどのインベタ……これはまずい、引き離される。

あの特殊走行は、どうやら俺が予想していた以上に厄介なようだ。あの特殊走行がある限り、アリスはカーブに対してまったく減速せずに突っ込むことができ、さらにインをとれる。

だが、決してあの特殊走行も無敵の能力ではないはずだ。必ず、なにか欠点がある。

そう考えながら俺はメニューを開き、マシンの詳細が乗っているページを確認する。そこには俺のBC96はもちろん、アリスのマシンの情報も載っており、特殊走行についても記されていた。

アリスのマシンの特殊走行は2km走る毎に一回使用可能になり、それは繰り越して貯めることもできる。一度の使用につき効果は3秒……連続使用も可能。

スタート地点からここまでは約10km、つまりアリスは最大で5つのストックがあるはずだが……先程の螺旋カーブはかなり大きいカーブだった。2つ、いや3つはストックを消費しているはずだ。

それ以外でここまでにアリスのマシンがインに吸いつくようなドリフトをしたのは、2回……となると、アリスの特殊走行のストックはこれで切れている。

ゴール地点までは残り8km半くらい……このコースは全長19km。つまり、アリスがあの特殊走行を使えるのは、ゴール直前まで貯めてもあと4回。しかし、ラスト1kmはほぼ直線……となると、4つ目の特殊走行は使いどころがないはずだ。

できればさらに1回分くらいは、不発に終わらせたい。その為の対策も考え付いた。

となると、勝負をかけるのは……14km地点にある大型S字カーブか、最後の難関と言える17km地点から18km地点に存在する5連続カーブ。

とりあえずいまはできるだけ差を縮めて、ピッタリ後ろについていこう。そして、次にアリスが特殊走行を使った時が……勝負の時だ。

それはそうと、NPC全然追ってこないな? 俺が初めてのプレイだから、弱めの設定にしてくれてたのかな?

そんなどうでもいいことを考えつつ、最高速度で勝る俺のBC96はカーブで開いた差を直線で詰め、アリスの50mほど後ろまで追いついた。

『……カイトさん』

「うん?」

『仕掛けてくるんですね。ふふふ、なにをするつもりか知りませんが……抜けるものなら、抜いてみてください!』

「ああ……勝負だ、アリス!」

勝負のS字カーブ。アリスは特殊走行を使ってくるのか? いや、使う。わざわざこちらを挑発するような台詞を口にしたんだ。ここで勝負を決めにくる!

そんな俺の考えを肯定するように、アリスは明らかなオーバースピードでカーブへ近付いていく。それに続いて俺もS字カーブに可能な限り減速せずに突っ込んでいく。

『いいですね。鋭い突っ込み……流石です。ですが、コレを破れますか!』

そう告げると共に、アリスのバギーは四輪を完璧に生かしたドリフトで内側の壁ギリギリを曲がりはじめる。

それを見て、俺は予め考えていた通りにハンドルを切る。

『カイトさんのバイクがアウトに膨らんでいく? ライン取りのミス? いや、これはっ!?』

そう、俺がずっと狙っていたのはこの位置取り……一つ目のカーブの終わりから、二つ目のカーブに差し掛かる僅かな直線……ここで、俺は二度目の特殊走行を発動させた。

狙うのは、そう……二つ目のカーブの『イン側の壁』だ!

『なんっ……ですと!?』

このS字カーブの間にある直線では、BC96の特殊走行を使用するには距離が短すぎる。あまりの加速に曲がることができないという欠点があるので、必然的に壁にぶつかってしまうことになるが……それこそが俺の狙いであり、一種の賭けだった。

怪我をしないゲームだからこそ使える強引な手とも言える。

壁にぶつかると、ペナルティによって大幅な減速が起る。だが、その大幅な減速とは『現在の速度』を基準に課せられると予想した俺は、イン側の壁にぶつけることで……アリスを抜きつつ、特殊走行で加速した速度をカーブを曲がれるだけの速度に落とすという手を使った。

さらにこれにはもうひとつ、大きな狙いがある。それは『アリスの特殊走行を封じる』こと……。

『ぐっ、インを……』

悔しげなアリスの声……そう、アリスのマシンの特殊走行には『インベタを自動で攻める』という特性がある。となれば、インを閉めてしまえば……アリスは特殊走行を発動できない。

その目論見は大成功だったみたいで、アリスを抑えてS字カーブを抜けることができた。

そしてここにある長めの直線で、もう一度……最後の特殊走行を発動。アリスを一気に引き離す。

アリスはS字のひとつめで特殊走行を一度使った。となると残りの回数は2回……計6秒間。単純計算で、俺がアリスに6秒以上の差をつけてしまえば勝てる。

最後の特殊走行で、かなりの距離を引き離せた。10秒以上の差はあるはずだ。最高速度は俺のマシンのほうが上である以上、もうこれは覆せないだろう。

そして5連続カーブが見えてくる。勝った! あとは、5連続カーブでミスさえしなければ……。

『うへぇ、カイトさん、本当にすごいっすね。初めてで、ここまでやるとは、ビックリですよ』

「序盤で特殊走行を使いすぎたのは失敗だったな……」

『あはは……』

その瞬間、俺の背筋にゾクリと冷たい感覚が走った。あれ? なんだこの嫌な感じは……もう、ほぼ勝ちは決まったはずなのに……もう5連続カーブに入った。ここを抜ければ、もうゴールはすぐのはずなのに……。

『……私、言いませんでしたっけ? 私のマシンの特殊走行は『一切減速することなく』カーブのインベタを自動で攻めるものだって……』

「ッ!?」

……待て、どういうことだ? だって、アリスは特殊走行を……あのドリフトが特殊走行で……ドリフト?

ドリフトって……減速……してるんじゃ……。

『……使ってませんよ。私は、ここまで、一度も『特殊走行を使ってません』よ』

「なっ!?」

絶望的とすら感じられるその言葉が告げられるのと、5連続カーブの3つ目のカーブに差し掛かった俺のマシンのミラーに、アリスのマシンが映るのはほぼ同時だった。

100kmオーバーのスピードでまったく減速しないまま……まるでカーブのインにレールでも引いてあるような、常識では考えられない挙動で迫ってくるアリスのマシン。

これが、本当の特殊走行……まずい、インを塞が……。

『無駄ですよ』

「避け……た……」

インを塞いでアリスの特殊走行を妨害しようとした俺の考えを嘲笑うかのように、アリスのマシンは直角的な軌道で俺のマシンを避け、最高速のまま抜き去っていった。

完全に読み違えた。あの特殊走行は、前に車が居ても自動的に回避するのか……くそっ、駄目だ。残る2つのカーブで大きく差をつけられる!?

特殊走行を既に使いきってしまった俺には、もはやアリスに追いつく手段はない。どうやら、アリスにいったことはそっくりそのまま自分に返ってきたみたいだ。

もちろん、あのドリフトができるアリスに対し、俺のテクニックは遥かに劣っているが……それでも、最後の一回の特殊走行をここにとっておけば……いや、いまさらだな。

「……まいった」

『ふふふ、まぁ、第一戦目ですからね。私としては、特殊走行無しでも勝てるかなぁ~って思ってたんですが、予想外に早くて驚きましたよ。次は、もっといい勝負になるかもしれませんね』

「……むぅ、アリス。もう一戦」

『了解ですよ。ゴールしたら、ちょっと休憩して二戦目といきましょう!』

拝啓、父さん、母さん――なんというか、いろいろ策を練ったつもりではあったが、結局はアリスの掌の上だった。初心者という点を差し置いても、戦略面で圧倒されてしまった。ともあれ、今回は――完敗だ。