軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一周年記念番外編「始まりの来訪者後編②・陽だまりの中で」

豪雨の如く降り注ぐ光弾をかわし、弾きながら、私は敵の姿を目に映す。

まるで美しい絵画からそのまま飛び出してきたみたいな、現実離れした美しい姿に二十枚羽……突如私とカイトさんの前に現れた謎の存在との攻防は、時間が経つにつれどんどん苛烈になっていきます。

この力、この魔力……何者かまでは分かりませんが、どこかの神である可能性が高いと感じました。ある程度推定にはなりますが、おそらくこの天使の実力は……クロさんと同等かそれ以上。この降り注ぐ光弾一発一発に、島を消し飛ばすほどの魔力が込められていることを考えても、人知を越えた化け物であることは間違いないでしょう。

仮にこの相手がクロさんに匹敵するのであれば……かつてクロさんになす術もなくやられた私では敵わないと、絶望するのが普通なのかもしれません。

ですが、いま私の心に湧きあがる感情はまったく違っていました。

……負ける気がしない。あぁ、いったいいつ以来でしょうか? この感覚は……。

私は確かにかつてアリシアとして過ごしていたころに比べ、身体能力も魔力も比べ物にならないぐらい強大になっていました。

けれど、私がこの世界にきて、クロさんに負けた時に感じたのは「私はいつの間にこんなに弱くなったんだろう?」というものでした。

矛盾しているのかもしれません。しかし、確かに、私はアリシアだったころより弱くなっていた。

あの頃の私は、どれだけの強敵が相手でも決して心が折れることはありませんでした。いまの自分で勝てないなら、勝てる自分に戦いの中で成長する……大切な人達を守るためなら、ソレが当り前に出来ていました。

精神論といえばそうかもしれません。しかし、私の力……心具は心が強く輝けば輝くほど強くなる特殊な力……心次第で、無敵の刃にもなまくらにも変わる力です。

私の心は一度壊れ、かつての強さを失った。ヘカトンケイル自体を失ったわけではありませんが、私の心が不完全である以上、ヘカトンケイルが真の力を発揮することはありませんでした。

クロさんに指導してもらって、己の魔力を十全に仕えるようにはなりました……でも、私はそれ以降少しも成長などしていません。

かつての、どこまでも強くなれるという感覚は……失って久しい。

『紡いだ絆が私の力』……かつてアリシアだったころの私は、そう口にしました。その言葉は紛れもない真実……心を、絆を失った私は……あまりにも弱くなっていました。

だけど、いまの私は違います。謎の天使から放たれる光弾はどんどん速度と威力を増していきますが、それに合わせて私のスピードもどんどん速くなっていました。

心が大きく脈打ち、体中から底無しに力が溢れてくる……ああ、そうだ。そうなんですね。

壊れていたはずの私の心は……いつの間にか、カイトさんが拾い集めて新しい形にしてくれた。アリスという新たな心に生まれ変わらせてくれていたんですね。

「……ふ、ふふふ……ははは……」

思わず口から笑みが零れる。帰って来た……私の力が、私の強さが!

「『皆を失って』から、ずっとずっと、チグハグで部品が足りないみたいに、私はずっと不完全だった」

「……魔力、急激、上昇?」

「目の前には倒さなくちゃいけない敵が居て、私の後ろには守りたい大切な存在が居る……あぁ、これだ……これが、本当の私……やっと、やっと、私は……『昔の自分に追いついた』……」

心が張り裂けそうなほどに脈動する。全身に焼けつくような熱が宿り、それに合わせるように周囲を舞うヘカトンケイルの光が脈動する。

「ここが――この瞬間こそ――我が心の極致――限界を越え――いま、世界を紡げ! ――ヘカトンケイル!!」

クロさんとの戦いでは不発に終わったヘカトンケイルの究極形態。積み重ねた全ての絆を私の体に取り込み、己の力に上乗せする。

かつて邪神を倒すため、世界中の人達の願いを、希望を紡いだ力……人の想いに果てが無いように、私の力にも限界なんて存在しない。

「イリス、ノエル……皆、私に力を貸して。カイトさんを奪わせない、失わない……私は、誰にも負けない! さあ……始めよう! 二度目の神殺しを!」

果てること無き無限の力を宿した私は、名も知らぬ神を殺すため刃を抜いた。

……まぁ、結局その戦いは中断という形になってしまったわけですが……。まぁ、それはいいでしょう。私にとって大問題は、そのあとでした。

私はかつての己に追いついた。それも全てカイトさんに出会い、恋をしたおかげだとそう気付いた瞬間……急に私は恐ろしくなってしまいました。

そもそも私が恋愛をしようとしていたのは、イリスのあとを追って死ぬため……私は、カイトさんとの恋が実ったら……死ぬつもりなんだろうか? と、そんな疑問が湧いて出た。

カイトさんと一緒に居たい、ずっとずっと一緒に笑い合いたい……それは、紛れもない私の願いでした。だけど、カイトさんはどう思うのだろうかと、急に不安になってしまいました。

親友の願いを叶えて死ぬために恋愛をしようとしていた私は、ハッキリ言って酷いやつです。そんな破滅願望を含んだ想いを向けられたら、カイトさんは私を軽蔑するんじゃないだろうか? 私の元から離れていってしまうんじゃないだろうか? そう考えると怖くてたまりませんでした。

カイトさんはそんなことをしない、きっと私を受け入れてくれると思う反面……もしかしたらという考えが消えませんでした。

それ以上に私は自分がどうしたいのかが分かりませんでした。私はいま、生きたいと思っているのか死にたいと思っているのか……自分の気持ちにすら自信が持てませんでした。

結局そのウジウジモードは、フェイトさんの腰の入ったストレートパンチにより粉砕されたわけですが……フェイトさんにあんな熱い面があったのは、正直結構予想外でした。

『二万年に一度』くらいは、フェイトさんも決めるべき時にビシッと決めることがあるんですね。

それからカイトさんに想いを伝えて、恋人になって……イリスと再会して……。

まどろみの中、閉じていた目をゆっくり開くと、心地良い温もりと共に愛しい人の顔が見えました。

あぁ、そういえば、今日はカイトさんと遊んだあと、並んで読書タイムと洒落こんでいたんでしたね。むむ、どうやら私は眠ってしまっていたようです。

まぁ、周囲の警戒用に分体は配置してますし、カイトさんの守護に関してはバッチリですが……。

「……私、どれぐらい寝てました?」

「1時間ちょっとくらいかな?」

「むむ、わりと不覚ですね……まぁ、それもこれもカイトさんの隣が陽だまりみたいにポカポカ温かいのが悪いんです。というわけで、私が居眠りしたのはカイトさんのせいですね!」

「理不尽にもほどがある……というか、なんで店主が居眠りして俺が店番してるんだか……」

「で、この1時間に客は?」

「来るわけないだろ?」

「ですよね~」

枕代わりにしていたカイトさんの肩からゆっくりと顔を離します。ぶっちゃけ、心まで温かくなるようなポカポカの温もりから離れるのは嫌でしたが……そのへんは夜になってからいっぱい甘えて、補充することにしましょう。

そういえば、本当に居眠りなんてしたのはずっごく久しぶりな気がしますね。それだけ私の心に余裕が生まれてきたということでしょうかね?

そんなことを考えていると、カイトさんが壁にかかった時計に目を動かし、思いついたように口を開きました。

「……いつの間にか、昼時だな」

「なにか作りましょうか?」

「う~ん、それもいいんだけど、せっかくだし外に食べに行くか……ほら、なんか中央通りに新しい店が出来たとか……」

「おっ、いいですね。あの店はアリスちゃん調べによると、結構評判いいみたいですよ」

私としては愛情たっぷりの手料理を振舞ってあげてもOKでしたが……それ以上に、カイトさんと出かけるというのが魅力的だったので、二つ返事で了承しました。うん? 店? 閉めときゃいいんですよ。客なんて来ねぇんすから……。

「よし、いくぞ『アリス』」

「……はい!」

私は、カイトさんにアリスと呼んでもらえるのが凄く好きです。アリシアでもなく、シャルティアでもなく、ノーフェイスでもなく……ただのアリスとして、貴方の傍に居るって実感できるから……。

胸いっぱいに広がる幸せを噛みしめながら、私はカイトさんが差し出してくれた手を握りました。

「……豪華なランチを所望します!」

「お前なぁ……」

「食べ放題ですか? ありがとうございます!」

「言ってねぇよ!! まったく……」

そう言ってカイトさんは、苦笑しました。「しょうがないなぁ」といった感じの、どこまでも優しく温かい……私の大好きな表情を見せてくれました。

本当に、人生なんてのは分からないものです。いまの私の姿は、かつての私には想像すらできなかったでしょうね。

大切な人を愛するというのは、こんなにも幸せで温かいものなのだと……何十万年も生きて、ようやく知ることが出来ました。

ありがとうございます、カイトさん。そして、これから先もずっとずっと、大好きな貴方の傍に居させてください……他の誰でもない、貴方を愛する……ただの『アリス』として……。