軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一周年記念番外編「二人の異世界旅行前編①・遊園地」

ガヤガヤと賑やかな音が聞こえてくるなか、俺は振り返って口を開く。

「ほら、クロ。いつまで改札機眺めてるんだ? ホームに行くよ」

「あっ、うん! う~ん、キカイってのは本当に面白いね。これから乗るシンカンセンって言うのも、すごく楽しみだよ」

平日の昼間とは言え、流石に大きい駅の新幹線乗り換え口ともなると、非常に多くの人達が行き来している。その中を、俺とクロは手を繋いで歩く。

白いキャミソールドレス風の服に黒色のジャケット、濃い茶色のハーフパンツに身を包んだクロは、贔屓目無しでも凄まじい美少女に見えるが、周囲を行き交う人達はクロを見ても特に振り返ったりはしない。

どうやらこっちの世界でも認識阻害魔法は有効みたいだ。

「見て見てカイトくん! お弁当のお店があるよ!」

「駅弁か……新幹線での移動時間も長いし、なにか買っていこうか」

「ホント!? う~ん、どれも美味しそうだね。迷っちゃうよ」

「気持ちは分かるけど、発車時間までそんなに余裕はないから早目にな」

現在のクロは大はしゃぎという言葉がしっくりくる様子で、見た目相応の子供っぽさが表れているように見えて、ちょっと新鮮な感じだ。

まぁ、この世界はクロにとって初めて見るものばかりだろうし、当然といえば当然の反応だ。なんだか、俺が向こうの世界に行ったばかりのころを思い出して、微笑ましい気持ちになってくる。俺にいろいろ教えてくれてたクロも、こんな気持ちだったんだろうな……。

そう、俺とクロはいま、地球の日本……かつて俺が住んでいた世界に旅行に来ていた。

ことの始まりは、クロの「カイトくんの世界に旅行に行こう!」という突然の発言からだ。クロが突拍子もないことを言い出すのはいつものことではあったが、流石に初めはものすごく驚いた。

というか、いくらクロでも……いや強大な力を持つクロだからこそ、俺が元居た世界に行くのは問題になるだろうと、そう思っていた。

しかし、どうもクロはエデンさんと『俺との一ヶ月間ペア旅行』を賭けて勝負して勝ったらしく、旅行はこの世界の神であるエデンさん公認である。

まぁ、なぜ勝手に俺との旅行が賭けられているのかとか、エデンさんと一ヶ月ふたりきりはあまりにも恐ろし過ぎるとか、いろいろ言いたいことはある。

けど、クロの楽しそうな笑顔を見ていると……こういうのもいいかなって思えてしまうから不思議だ。

この世界の創造主であるエデンさんの全面的なバックアップの恩恵はすさまじく……クロの戸籍も当然のように用意されていたし、旅行に使うお金もビックリするぐらい大量に貰った。お陰で気兼ねなくクロとの旅行を楽しめているのだから、俺の知らないところで俺を賞品にしたのはともかくとして、エデンさんにも感謝している。

クロは俺と一緒にこの世界で遊べれば、観光は適当でもいいと言っていたが、せっかくなのでいろいろな場所に連れていってあげたいと思っている。

というわけで、現在俺とクロは新幹線に乗って……『岡山』を目指していた。なぜ観光場所に岡山を選んだのかというと……俺が案内できる唯一の他県だからだ。

俺にだって見栄は有る。可愛い恋人との旅行なんだし、リードはしっかりしてあげたい。

岡山は母さんの出身地であり、子供のころに何度か連れて行ってもらったことがある。昔なので若干うろ覚えな部分はあるが、ある程度有名な観光地は覚えているので大丈夫だろう。

いざとなれば、エデンさんにこっそり用意してもらったこのスマホで……クロに気付かれないようにこっそり調べればなんとかなるだろう。

駅弁を買い終わった俺たちは、新幹線のホームに移動し……クリーン車に乗車する。新幹線には何度も乗ったことがあるが、グリーン席というのは初めてだ。

俺ひとりだけなら普通車でよかったんだけど……クロには出来るだけ快適に旅行してもらいたいし、エデンさんから目を疑うほどの金額が入った通帳をいただいたので奮発することにした。

まぁ、神様に金銭感覚なんてのを期待するのは間違っていると思うけど……。

それこそ飛行機のファーストクラスだろうと余裕だったが、移動中も景色が見えた方がいいだろうということで新幹線を選択した。

「おぉぉ! すごい、すごいよ、カイトくん! こんなおっきな鉄の塊が動いてる!」

「あはは、楽しんでもらえてるならなによりだよ。クロにはちょっと物足りないスピードかもしれないけどね」

「そんなことないよ、本当に楽しい! あっ、見て見て! 大きな塔がある!」

窓から見える景色を楽しそうに眺めるクロは、本当に可愛らしく、思わず俺の顔にも笑みが浮かぶ。幸いグリーン車はガラガラ、というかこの号車には俺とクロしかいないので、周りに迷惑がかかる心配もなさそうだ。

というか、グリーン車って初めて乗ったけど、椅子は大きくて柔らかいし、雑誌も置いてある上、足置きまである。さらに車内サービスでお手拭きも渡されたりと、サービスが本当に充実してて、本当にいい席だ。

「クロ、お昼ご飯まだだったし駅弁食べようか」

「うん!」

時間もいい感じだったので、買ってきた駅弁を食べることにする。

ちなみに俺が買ったのは『牛肉どまん中』という弁当で、米沢牛のそぼろがこれでもかというぐらいたっぷり入ったお弁当である。う~ん、そぼろがご飯とよく合って非常に美味しい。

クロが選んだのは『老舗の味 東京弁当』とにかくいろいろな具の入った豪華なお弁当で、これもまた非常に美味しそうだ。特に鮭の粕漬け……アレは絶対に美味しい。

そんなことを考えていると、俺の視線に気付いたクロがニッコリと笑顔を浮かべる。

「カイトくんも一口食べてみる? 美味しいよ」

「いいの? それなら、一口だけ……」

「うん、はい、あ~ん」

「……しっかり味が染みてて、本当に美味しい」

「でしょ!」

ニッコリと笑顔を浮かべるクロに、俺のそぼろ弁当も一口食べさせてあげて、そのまま一緒に弁当を食べながら雑談を続ける。

「というか、クロ……箸の使い方うまいな」

「あ~ほら、ボクの家の朝食は、ワショクってやつだからね。いつも使ってるよ」

「あぁ、なるほど……ノインさんか」

「うん、でもこのカスヅケってのは初めての味だね。覚えて帰って、ノインに教えてあげよう」

子供のようにはしゃいでいたかと思えば、家族を想う母親みたいな一面ものぞかせる。そういうところが、クロの一番の魅力だと思っている。

クロと一緒に居ると、とても楽しくて……同時に、すごく安心できる。

たぶん、いや、間違いなく……今回の旅行も、騒がしくて楽しいものになるだろう。