軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

知らぬが仏である

フォルスさんが「また今度研究所に遊びに来てくれ」と言って、ラグナさんと共に去って行き、やや遅れながら俺たち三人と二匹も改めて四日目の六王祭へ繰り出した。

「なんかさっき、私って影薄かったよね? まぁ、元の立場的にあの面子だと薄くなるのは仕方ないだろうけどね」

「え~と、はい。それは、いいんですが、フィーア先生?」

「うん?」

「なんで俺の腕を……」

となりを歩くフィーア先生は、ごく自然な動作で俺の腕にしがみ付いていた。俗に言う腕を組むという形なわけだが……大変豊かな膨らみが押し付けられており、どうも落ち着かない。

「デートだからね。デートだったらやっぱ、このぐらいはするよね」

「そ、そう……ですかね?」

「そうだよ! まぁ、私のことはいいとして……ノインはなんで離れて歩いてるの?」

フィーア先生の言葉通り、ノインさんは俺達の少し後ろ……三歩後ろを歩いている。大和撫子の慎ましさと言った感じではあるが、祭りというシチュエーションを考えるとあまり適切ではない。

というか、はぐれないか心配である。

「女性は殿方の三歩後ろを歩くものでは?」

「……初めて聞いたよ、そんなの。従者っていうなら分かるんだけどさ……」

「えっと、俺やノインさんがいた世界にはそういう風習? みたいなのもあったんですよ」

「へぇ~」

俺は日本に住んでいたのでノインさんの行動を見ても、古風だなぁとは感じるが大きな違和感を覚えることはない。しかし、フィーア先生にしてみれば、ノインさんの行動は不思議らしく首を傾げていた。

俺はそんなフィーア先生を見て苦笑しつつ、後ろを振り返りながらノインさんに声をかける。

「でも、ノインさん。はぐれるといけないですし、ベルも居ますから……」

「な、なるほど……言われてみれば、確かに……で、では、失礼して」

ノインさんが三歩下がって歩いていると、体の大きいベルが俺の後ろを歩きづらい。俺の言葉を聞いたノインさんは、チラリと後方を歩くベルを見たあと、納得したように頷いて俺達の隣に移動してきた。

桜色の髪に変わっているとはいえ、やはりノインさんは大和撫子って感じで、歩く姿もどこか品があるように感じる。

「……ノイン? 滅茶苦茶顔が赤いよ?」

「……と、殿方と並んで歩くのは初めてで……その、こ、これでは、まるで、こ、こい、恋人みたいじゃないですか……」

「う、う~ん?」

フィーア先生が腕を組んでいる逆側に来たノインさんは、恥ずかしいのか顔を赤くして俯き気味に歩いている。

仕草がいちいち可愛いというか、そういう反応をされると俺まで恥ずかしくなってきてしまう。

しかし、う~ん。現在の俺の状況はまさに両手に花、男が見たら非常に羨ましいであろうシチュエーションだ。

片やお淑やかな美人剣士、片や明るい美人女医……なかなかに勝ち組と言っていい状態で、普段の俺ならもう少し緊張していたかもしれない。

だが、いまの俺は割と落ち着いている。その最大の理由はノインさんである。

「ノインさん、その服凄く綺麗で似合ってますよ」

「ひゃっい!? え? あ、あり、ありがとうございます。か、かか、快人さんも、す、素敵、で、でで……」

人は自分より遥かに緊張している相手を見ると冷静になれるものだ。まだスタート間も無いにもかかわらず、このテンパり具合……らしいと言えば、非常にノインさんらしい。

「ミヤマくん、私は? 私は?」

「え? フィーア先生は、いつもの修道服に見えるんですけど?」

「うん……実はずっとこの格好だったから、修道服以外の服が無くってねぇ。最初は参加しないつもりだったから、買う時間も無かったよ」

「なるほど……でも、いつもの服も似合ってますよ。フィーア先生らしさって言うんですかね? そういうのが出ていて、いい感じだと思います」

「そう? なら、安心したよ。ありがとう」

ノインさんとは対照的に、フィーア先生は照れた感じではなく、むしろとても楽しげだ。そもそも、勇者祭にすらほぼ参加していなかったフィーア先生にとって、祭りの風景というのはとても新鮮みたいで、先程から興味深そうに視線を動かしていた。

するとノインさんがふとフィーア先生の服を見て、なにかを考えるような表情で告げる。

「……フィーアが正規の修道女ではないのは知っていますが、男性とで、デートするのが対外的に問題になったりはしないんですか? 修道女は神の花嫁と言いますし……」

「……花嫁? いや、でも、神族は全員女だよ?」

「……そうでしたね。う~ん、1000年以上たっても、昔の常識は簡単には抜けきらないものです」

確かに俺としても、シスターは恋愛厳禁みたいなイメージがある。たぶん宗派によっても違うだろうし、あくまで漠然としたイメージだ。

とはいえ、それはこの世界に置いてはまったく当てはまらない。何故ならこの世界には神が実在する上に、全員女性……こういう部分でも世界の違いってのを実感する。

まぁ、そもそも神々のトップはシロさんなわけだし、シスターの恋愛云々なんてまったく興味が無いだろう。

(……いま、私のことを褒めましたか?)

……び、微妙なところです。ある意味褒めたと言えなくもないかもしれません。

(もっと褒めてくれても構いませんよ。褒めると私が喜びます)

……考えておきます。

拝啓、母さん、父さん――やはり異世界と言うべきか、小さな常識の違いというのはどこにでも転がっているものだ。特に宗教感なんてのは最たるものだろう。けど、そういえば……俺達のいた世界の神様ってエデンさんだよね? う、う~ん――知らぬが仏である。