軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんな未来への一歩を踏み出したよ

途中にちょっとしたアクシデントはあったものの、六王祭三日目を十分に楽しんだ俺とアイシスさんは、三日目の締めに行われる花火を見にきていた。

主催者であるアイシスさんが特別に用意してくれた、花火を一望できる小高い丘へ移動し、アイシスさんと並んで座る。

この丘には一面に『ある花』が植えられているみたいで、薄暗くなりつつあってもその姿はハッキリと見ることが出来た。

青い結晶のように透き通った花びらを持つその花は、どこか懐かしく、どれで居てどんなものよりこの場に相応しいと感じられた。

「……カイト……この花……覚えてる?」

「ええ、アイシスさんと初めて会った時に貰った……ブルークリスタルフラワーですよね?」

「……うん……私とカイトの……思い出の花……」

「確かに、そうかもしれませんね」

アイシスさんから貰ったブルークリスタルフラワーは、俺の部屋に大切に飾ってある。アイシスさんの言う通り、あの花は俺とアイシスさんの一番初めの思い出の品だからだろう。

そこまで遠い日のことじゃないはずなのに、ずっと昔のように感じる。アイシスさんと、もう何年も一緒に居たかのようにさえ感じている自分がいる。

いつからだろう? アイシスさんと一緒に居ると、心が落ち着くようになったのは? 一つ一つの仕草が愛おしくてたまらなくなったのは……。

思い出を重ねる度、どんどん彼女の存在は大きく、そして愛おしくなっていく。まるで、限界なんてないんじゃないかってくらいに……。

「……私は……ずっと……この世界が……私自身が……嫌いだった」

「……え?」

そんなことを考えていると、アイシスさんがポツリと囁くように言葉を溢し、俺はアイシスさんの方に顔を向ける。

「……世界は……私に優しくなくて……私は……他人を怖がらせてばかり……ずっと……ずっと……大嫌いだった」

「……」

「……私は……なんのために生まれたんだろう? ……なんで……死の魔力なんてものが……私に宿っているんだろうって……何度も……何度も……考えた」

自分が嫌いだったという気持ちは、俺にも少しだけだが理解できる。自分に優しい言い訳ばかりして逃げてばかりで、変わることも出来ない自分が嫌いだった。

しかし、俺がそんな、理想と現実との差とでも言うのか? 自分自身の不甲斐なさに苦しんだのは、10年にも満たない年月でのことだ。

それでも、どうしようもなく苦しかった。自分なんて不要な存在なんじゃないかって考えるのは、苦しくて心が凍えるように寒かった覚えがある。

それと同じ、いや、俺のように逃げていたからではなく、生まれながらの特性として経験した苦しみはもっと大きなものだろう。

それを、アイシスさんはいったいどれだけの年月耐えてきた? 何千、何万年? 言葉にするだけなら簡単だが、その重みはただの人間である俺には理解できない。

「……でも……いまは……違う……私は……カイトと巡り合えたこの世界が……好き……カイトを愛おしく感じられる自分が……大好き」

「……アイシスさん」

「……私には……フェイトみたいに……運命を見ることはできない……でも……運命って言うものがあるなら……私はきっと……カイトに出会うために……生まれてきた」

言葉の一つ一つに表現しきれないほどの想いを込めて、アイシスさんはゆっくりと言葉を紡いでいく。

それはひとつの歌のようにも聞こえ、美しい声と共に心の奥底に染み込んでいくかのように感じることが出来た。

「……カイト」

「は、はい!」

「……私は……カイトが大好き……誰よりも……なによりも……愛おしい……だから……すぐにじゃなくていい……いつか……カイトの準備が出来たら……私と……結婚して欲しい」

それは、かつてアイシスさんが初めて出会った時に口にしたのと同じ内容。だが、それを受け取る俺の心には、あの時とは全く違う感情が宿っていた。

あの時は、会ったばかりの相手にいきなり求婚されて、戸惑いが大きく……失礼な話ではあるが、少し怖いと思ってしまった。

だけど、いまは……ただ、その言葉が、アイシスさんが向けてくれる好意が、嬉しくて仕方なかった。

だからこそ、俺は少し沈黙した後で、まっすぐアイシスさんの目を見つめながら口を開く。

「……まだ、少し時間がかかると思う。この世界でこれから先もずっと生きていく準備を終えて、お世話になった人達に別れを告げ終えたら……必ず、いま貰った言葉を、俺自身の言葉として告げる。だから、待っていて欲しい」

「……うん!」

「……ありがとう、アイシスさん。貴女と出会えて、本当に良かった」

「……うん? ……あれ? ……カイト……敬語じゃない?」

「え? あれ? す、すみません!? つ、つい……」

「……ううん……私は……そっちの方が……嬉しい……だから……カイトが良いなら……カイトの素の口調で……話して欲しい」

「分かりました……あっ、いや、分かった。な、なんか、まだちょっと混乱する」

「……ふふふ」

意識せずに素の口調になったことに少し混乱する俺を見て、アイシスさんが幸せそうな微笑みを浮かべる。

そして丁度そのタイミングで、まるで俺達を祝福するかのように……夜空に大輪の花が咲いた。

「……あっ……花火」

「……アイシスさん?」

「……うん?」

「改めて言わせてほしい。貴女が好きだ」

「……私も……カイトが大好き」

それ以上の言葉は必要無かった。夜空を照らす色とりどりの花の下で……俺とアイシスさんの影が重なった。

拝啓、母さん、父さん――初めて会った時は、戸惑いと同情が強かった。けど、一緒に居るうちに、それは安らぎと好意へ変わっていった。他人から友人へ、友人から恋人へ……そして、恋人から先へと、より多くの思い出を積み重ねて進んでいくような――そんな未来への一歩を踏み出したよ。