軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

こんな関係も悪くはないと思う

アイシスさんとのデートが終わり、本来ならそのまま中央塔へ帰って夕食となる。しかし、今日はリリアさん達と一緒に食べる約束をしているので、クロたちに断りを入れてからそちらへ向かうことにする。

中央塔から外に出ると、迎えに来てくれたのか、見慣れた人物の姿があった。

「……あれ? ルナマリアさん。わざわざ迎えに来てくれたんですか?」

「ええ、人気のある店は混み合いますので、お嬢様たちには先に向かってもらっています」

「そうなんですね。ありがとうございます」

「いえ……ところで、ミヤマ様?」

「はい?」

お礼の言葉を伝えると、ルナマリアさんは気にするなと言いたげに微笑んだ後、なにやら真剣な表情に変わって口を開いた。

「……前々から、聞こう聞こうとは、思っていたのですが……」

「なんでしょう?」

「……なぜ、いまだに『ルナマリアさん』と呼ぶんですか?」

「……は?」

真剣な表情で告げられた言葉は、予想していなかったものだった。俺はキョトンとした表情を浮かべながら、続くルナマリアさんの言葉を待つ。

「ミヤマ様がこの世界に来て半年、私は大事なお客様としてミヤマ様に『献身的に接してきた』つもりです」

「……いや、俺にそんな記憶はないですね」

「そのかいもあって、私とミヤマ様の仲も親密になったはずです!」

「……」

……おい、無視するな、駄メイド。親密になったかどうかはさておき、献身的に接してもらった覚えはないんだけど!? どっちかって言うと、隙あらばからかおうとしてたよね!? ていうか、何度かしっかり嵌めてくれたよね!!

「なのに……私は、いまだにミヤマ様との間に心の壁を感じています!」

「……いままさに、俺の心にさらなる壁が形成されていってますよ? より大きくなってますよ?」

「自分で言うのもなんですが、私は『数々の場面でミヤマ様をサポート』し、共に困難に挑み、もはや戦友と言っていい間柄であると自負しています」

「いや、だから、なに図々しいポジションに居座ろうとしてるんですか……本当にそれ自称ですからね」

「しかし! それでも! 私達の間には、いまだに大きな壁があります」

「……」

全然話聞いてくれないんだけど!? さっきから一切会話のキャッチボールが成立してない!? こっちが投げた球、全部回避してるんだけどこの駄メイド!?

呆れ果てたものだが、この様子だと否定したところで聞いてはくれないだろう。

俺は大きな溜息を吐いてから、ルナマリアさんが望んでいるであろう言葉を告げる。

「……で、結局、なにが言いたいんですか?」

「よくぞ聞いてくださいました! 私とミヤマ様に足りないもの……それはズバリ、呼び方です!」

「……はぁ」

「クスノキ様やユズキ様は、私のことを親しみを込めて『ルナさん』と呼んでくださるのに、ミヤマ様だけいまだに『ルナマリアさん』呼び……これは早急に訂正すべき案件ではないでしょうか?」

「……いや、だって……愛称で呼ぶほど親しみを感じないですし……」

「ちょっと、ミヤマ様? さっきからスルーしてましたけど、ちょくちょくとんでもない毒を吐いてますよ? 私なら、なにを言っても傷つかないわけじゃないんですよ!?」

要するにルナマリアさんが言いたいのは、ルナさんって呼んで欲しいってことか? いや、まぁ、反射的に文句は言ったけど……別にルナマリアさんのことが嫌いなわけではない。

人をからかうことに全力を尽くすような、どうしようもない人ではあるが……頼りになる部分もあるし、真剣に悩んでいる時は親身になって相談にも乗ってくれる。

「分かりました。じゃあ、これからはルナさんとお呼びしますね」

「……え、ええ、望むところです」

「……なんで目を逸らすんですか?」

「い、いえ、実際言われてみると……しょ、少々気恥ずかしいですね」

自分から要求してきた癖に、いざ呼ばれると恥ずかしかったみたいで、ルナさんは頬を微かに染めてそっぽを向いた。

ふむ、前々から思ってたけど……ルナさんって、意外と恥ずかしがり屋なのかな?

「……まぁ、いろいろ酷いことも言っちゃいましたけど……ルナさんのことは信頼してます」

「そ、そうですか……」

「つい、親しみやすくて遠慮が無くなってしまって、申し訳ない。これからも、仲良くしてもらえると嬉しいです」

「……い、いや、まぁ、冗談だと分かっていますので、謝罪する必要はありませんよ。わ、私もミヤマ様のことを嫌っているわけではありませんし……いえ、その、人物的にはむしろ高評価というか……そ、それなりに好意的にも感じていますし……」

「……」

「……なんで笑ってるんですか?」

ストレートに好意を伝えて見ると、予想通りというか、予想以上というか……ルナさんは慌てた様子で、俺のことを嫌っているわけではないと返してくれた。

その反応が面白くて、俺の口元に笑みが浮かぶと、ルナさんはジト目に変わる。

「……まさか……ワザとですか?」

「いえ、まぁ、なんというか……ルナさんって、結構可愛いところありますよね」

「こ、このっ……弄びましたね!? 私の純情を弄びましたね!? いつの間にそんな悪い男になったんですか!!」

「いつもの仕返しですよ……まぁ、ルナさんを信頼してるってのは、本当ですけどね」

「ぐ、ぐぬぬ……」

珍しく悔しそうな表情を浮かべるルナさんを見てもう一度笑ったあと、俺はゆっくりと歩きはじめる。

「……さぁ、リリアさんたちが待ってるんですよね? 急いで向かいましょう」

「くっ……こ、この屈辱は……絶対にいつか返しますからね」

「楽しみにしてますよ」

「くぅぅぅぅ」

真っ赤な顔で唇を噛みながら、俺に続いて歩きだすルナさん。なんだか普段とは違う一面が見れて楽しかった。

まぁ、後に控えている逆襲が怖いけど……。

拝啓、母さん、父さん――悪戯好きで、駄目な部分も多い人だけど……なんだかんだで、ルナさんは大切で頼りになる友人だと思っている。まぁ、今回のことでいつかくるであろう報復は不安だけど、まぁ――こんな関係も悪くはないと思う。