軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

価値あるものだと思う

ある程度オークションを楽しんだ後、俺とアイシスさんは落札した商品を受け取って別の場所に移動することにした。

オークション自体は三日目の最後まで続くので、また後で見に来るのもいいかもしれない。

「……アイシスさん、その……本当にいただいてもいいんですか?」

「……うん……私は……使わない」

アイシスさんが俺に手渡してきたのは、欲しかった小型収納可能の高級ペットハウス……白金貨201枚のペットハウスである。

流石に金額が金額なので、遠慮したかったが……アイシスさん本人は使わない上、断ればせっかくの厚意を無にしてしまう。

ならばここは受け取って、しっかり別の形でお礼をするのがいいだろう。

「……ありがとうございます。このお礼は、必ずします」

「……ふふ」

「……え?」

「……それじゃ……あべこべだよ? ……だって……これ……ブローチのお礼……だから」

そう言って優しく微笑むアイシスさんは、本当に気にしていない感じだった。しかし、まぁ、俺にもささやかながら男としてのプライドがある。

流石に金銭的な面でアイシスさんには敵わないが、なにかほかの方法でお礼をしたい。

そのことを伝えると、アイシスさんは考えるような表情を浮かべる。そして、少し経ってからなにかを思い付いた様子で微笑み、スッと俺の耳に顔を寄せてきた。

「……じゃあ……ひとつだけ……お願い……してもいい?」

「お願い? ええ、俺に出来ることなら」

「……ありがとう……それじゃあ……後で……たい」

「……へ?」

耳元で告げられたその内容は、正直予想の範囲外だった。というか以前別の方にも同じようなことを言われた覚えがある。

「……え、えっと、アイシスさん? そ、それは……」

「……駄目? ……カイトが嫌なら……無理は……言わない」

「い、いえ!? 嫌なわけではないんですが……そ、それがお礼になりますか?」

「……うん……私は……すごく……嬉しい」

「わ、分かりました。アイシスさんがいいなら……」

お願いを了承することを伝えると、アイシスさんは幸せそうな笑顔を浮かべる。

その表情と先程告げられた内容に顔が赤くなるのを感じる。その気恥ずかしさから逃れるために、やや顔を逸らしつつ話題を切り替える。

「……そ、そういえば、そろそろお昼時ですね」

「……あっ……お弁当……作った……一緒に……食べよう?」

「え? 今日も作ってくれたんですか? ありがとうございます!!」

「……カイトが……喜んでくれて……私も……嬉しい」

なんと今日もお弁当と作ってくれたというアイシスさんには、本当に頭が下がる思いだ。

「それじゃあ、どこか景色のいいところで……」

「……大丈夫……ちゃんと……考えてる」

「うん? どこかいいところがあるんですか?」

「……うん」

この六王祭は一日ごとに様相が大きく変わる上に、都市自体が桁違いに広いため良いスポットを探すのも一苦労だ。

しかし昨日のリリウッドさんに案内してもらった場所しかり、主催者側であるアイシスさんは景色のいい場所もしっかり把握しているらしい。

アイシスさんが軽く手を振ると、周囲に氷で出来た花が咲き、それが砕けると同時に景色が切り替わる。

「……あれ? なんかここ見覚えがあるような?」

転移魔法で移動したその場所は、眼下に会場である都市を一望できる高い位置にあり、非常に景色がいいのは確かだったが……どうもかなり高い場所みたいだ。

山の頂上にでもいるような景色で、足元は岩のような色合い……あれ? もしかしてここって……。

「……マグナウェル……ご飯……食べるから……場所……貸して」

『ああ、構わんぞ』

やっぱりここ、マグナウェルさんの上か!? 相変わらず規格外のサイズで、軽く視線を動かしただけじゃまったく分からなかった。

た、確かに景色はすごく良いだろう。なにせ5000メートル級の山の頂上で食事するようなものだ。開催式で作られた木と氷のアートもハッキリ見えるし、まさに絶景。

けど、うん……仮にも顔の上で食事とかいいのかな? ま、まぁ、マグナウェルさんがいいって言ってるんだし、問題無いのかな?

戸惑う俺の前で、アイシスさんはどこからともなく取り出したシートを敷き、その上にお弁当を広げて食事の用意をしてくれていた。

「……カイト……食べよう?」

「あ、はい。……うわっ、今日はまた一段と美味しそうですね」

「……頑張った」

昨日貰った持ち運びしやすい弁当箱ではなく、今日は重箱に沢山のおかずが詰め込まれていた。からあげ、卵焼き、ポテトサラダに、俺の好きなミニハンバーグまで……本当に美味しそうだ。

だが、しかし……『フォークはひとつ』しかない。

俺も馬鹿ではない。いままでの経験から、この先どういう状況になるのかは分かっている。そしてそれ絵から逃げられないであろうことも……。

「……カイト……どれから……食べたい?」

「で、では、卵焼きを……」

「……うん……はい……あ~ん」

「……あ、あ~ん」

手を添えながら差し出された卵焼きを食べる。甘めに味付けされた卵の味が、フワッと口の中に広がり十二分と言えるほどの美味しさを感じさせてくれる。

『仲睦まじいのぅ、よいことじゃ』

「……うん……カイト……大好き」

「……ありがとうございます。その、えっと……俺も好きですよ」

「……嬉しい……すごく……すごく……嬉しい」

拝啓、母さん、父さん――なんだかんだ気恥ずかしくもあるけど……こうして景色の綺麗な場所で、愛しい恋人と一緒に食事をする。この幸せな時間は、何物にも代えられないような……そんな――価値あるものだと思う。