軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

さらに次元が違うみたいだ

欲望とはかくも深いものである。オークションという形式で競い合う様は、それをまざまざと見せつけた。

激しい競り合いの末に勝ち取った者が、なぜか絶望の表情を浮かべている姿も見た。

競り落とした者が勝者なのではない。競り落とした上で、使用した金銭以上の価値を見いだせてこその勝利である。

持ちうる金銭に限りがある以上、競り合いという一種の熱気に翻弄されてしまえば、後悔が待ち受けている。

しかし、世界には極一部、その条件に当てはまらない圧倒的強者も存在する。

『さて、カタログナンバー28『小型収納可能、最高級ペットハウス』は、現在白金貨10枚!』

「……う、う~ん」

思ったよりも高値になっている商品を見て、俺は顎に手を当てて考えていた。

日本円にして一億円……しかもまだ競っているし、さらに高くなりそうだ。

『985番白金貨11枚……643番白金貨11枚と金貨5枚! 7番白金貨12枚!』

「むぅ……」

現在競られているのは、マジックボックスの原理を応用したペットハウス。小型にして持ち歩ける上、大型の魔物ものんびりできる広さにしっかりとした作り……欲しい。

アレがあれば、ベルやリンと旅行するのも簡単に出来そうだから、なんとか手に入れたい。けど、どうやらかなり珍しい品みたいで、俺と同じく欲しがっている人は多い。

大型の魔物でものんびりできる……つまり豪邸並の大きさということを考えると、億という値段が付いても不思議ではない。

俺の手持ちの予算で競り落とせないということはないだろうが……結構高い買い物になりそうだ。

そんなことを考えつつ、俺は人差し指を立てて手の甲を見せるように上げる。

『985番白金貨13枚! 522番白金貨14枚!』

「……やっぱりまだ上がるか……」

「……カイト……あれ……欲しいの?」

「え? ええ、ペットと旅行がしたいなぁって……」

いまだ上がり続ける値段に唸りつつ、アイシスさんの質問に答える。するとアイシスさんは、納得した様子で一度頷いてから口を開いた。

「……分かった……任せて」

「……へ?」

そんなことを言いながら、アイシスさんは流れるように両手を上にして、いくつかのハンドサインを出した。

『……は? え? い、いえ、失礼いたしました! 986番……は、白金貨……『100枚』です!!』

「なっ!? あ、アイシスさん!?」

いきなり10億円!? い、一体なにを……ま、まさか俺のために競り落としてくれようとしてるの? い、いやいや、それにしてもいきなり100枚って……。

「……ブローチの……お返し」

いやいや、値段の差が凄まじすぎる!? で、でも、もうコールされてしまったわけだし、取り消すことはできない。

流石に白金貨100枚以上を出す人なんて……。

『おっと、643番! 白金貨100枚と金貨5枚!』

出した!? でも他は流石について来れないみたいだ。アイシスさんは……え? ちょっとまって、アイシスさん!? そのサムズアップみたいな手の形って確か……。

『……986番……さ、さらに『倍』……白金貨201枚……です』

「……」

その瞬間、会場から音が消えた。まさに、圧倒的な光景だった。なんの躊躇もなくアッサリと倍額を返すアイシスさんを見て、会場に居る誰もが圧倒された。

そして、それ以上誰も入札することはなく、アイシスさんの落札が決定した。

「……カイト……落札……できたよ」

「……い、いや、あの、アイシスさん? お、お気持ちは本当に嬉しいんですけど……だ、大丈夫なんですか?」

「……なにが?」

「で、ですから、お金……」

「……『たった』200枚だよ?」

「……」

こともなげに言ってのけるアイシスさんは、本当に大したお金ではないと思っているみたいだった。

「……あの、いまさらですけど……アイシスさんって、どのぐらいお金持ってるんですか?」

「……資産は……抜きで……お金だけ?」

「え、ええ……」

「……白金貨……『400万枚』……くらい……かな?」

「……は? え、えぇぇぇ!?」

白金貨400万枚!? え、えと、白金貨1枚が日本円で1000万……ってことは……『40兆円』!? 国家予算並みじゃないか!? え? しかも資産は抜きで現金のみ? この方、世界中に存在する白金貨の内の何%を所持してるんだろう?

「あ、アイシスさんって、そ、そんなにお金持ちだったんですね……」

「……え? ……でも……クロムエイナの方が……私より……何倍も……お金持ちだよ?」

「ま、マジですか? クロはいったいどれだけのお金を……」

「……分からないけど……たぶん……私とは……表現の仕方が……違う」

「表現の仕方?」

「……うん……クロムエイナの場合は……白金貨何枚とかじゃなくて……『世界経済の何%』とか……そういう表現に……なると思う」

「……」

クロが世界一の金持ちであるということは聞いていた。しかし、まさか俺の居た世界より遥かに広く、三界合わせると人口も桁違いであるこの世界において、個人で世界経済の一端レベルだとは……。

ま、まさに世界の王……アイシスさんやクロにとって、20億円なんてのは……はした金なのかもしれない。

拝啓、母さん、父さん――クロやアイシスさんが魔界の頂点であり、圧倒的な財産を所持しているというのは理解しているつもりだったが……実際は、俺の予想より遥か上だった。アイシスさんですら想像も出来ないほどに金持ちなのに、クロは――さらに次元が違うみたいだ。