軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

説教しておこう

キャラウェイさんと再会し、初対面であるアニマ達との自己紹介も終わる。なぜか分からないけど、アニマにしては珍しく、初対面のキャラウェイさんに好印象な感じだった。

同じ獣人系の魔族として、なにか通じるところでもあるんだろうか?

そんな疑問が頭に浮かぶのとほぼ同じタイミングで、どこからともなく声が聞こえてくる。

「……待たせたね、皆!」

力強く聞き覚えのある声……俺達は声のした方に振り向き、ジークさんは両手で頭を抱えた。

そして俺達の視線の先から、二つの影が走ってくる。

見覚えのある男女は、ジクザグに交差しながらこちらに向かって走ってきた。そして俺達の前で交差する時、空中で一回転して着地し、最後に揃ってバク宙を決めてポーズをとった。

「久しぶりだね、皆!」

「私達の登場よ~」

場を置き去りにしたテンションで現れたのは、もちろんジークさんの両親……レイさんとフィアさんである。

「決まったわね、レイ」

「ああ、この日に備えて練習したかいがあって、完璧な登場だった! 皆も感動で言葉もないみたいだ」

違います。むしろ呆れて言葉が出てこないんです。

あと、レイさんとフィアさん、誇らしげなのはいいですが……そろそろブレーキ踏まないと、ジークさんの目がどんどん据わってきてますよ?

しかし当然この二人がそう簡単に落ち着くはずもなく、恒例のジークさんによる折檻が開始されようとすると……なぜか『先ほどとは別の声』が聞こえてきた。

「……ふふふ、あはは、はーはっははは! その程度で完璧な登場? 甘い、ホイップクリームのように甘いですね!」

「な、何者だ!?」

……俺の知る限り、世界最高峰の馬鹿です。

「仕方ありませんね。大空の広大さも知らないヒヨコのために、真の登場とはいかなるものか、見せてあげましょう!」

頭の痛くなるような台詞と共に、遠方から馬鹿と馬鹿の分体が走ってくる……猫と犬の着ぐるみで……。

そして馬鹿犬と馬鹿猫は中盤辺りでジャンプし、横回転をしながら上下に交差する。

確かに凄い動きだとは思うけど、アイツならあの程度はできても……。

「そ、そんな馬鹿な!? あ、アレはまさか……『ディバインエクスチェンジ』!?」

「し、信じられないわ……アレはすでに失われた技ではないの!?」

しかし若干二名、もの凄い勢いで喰いついている。

そんな二人の視線の前で、馬鹿犬と馬鹿猫は着地して即座に切り返し、回転しながら空中で互いの足を蹴り、元の位置に戻っていく。

「なんだとっ!? ディバインエクスチェンジから『ダブルクレッセントムーン』への連携だって!?」

「そ、そんなの体が耐えられるわけがないわ!? なんなのあの二人、化け物……」

前々から気になってたんだけど、なに? そのやたらカッコいい名前はなんなの? 誰がつけてるの?

そして馬鹿犬と馬鹿猫の演出もラストに差し掛かったらしく、走りながら一列に並んだ後、馬鹿犬が馬鹿猫の肩を踏みくるくると回転しながら高く跳躍。馬鹿猫は体操選手のように地面を跳躍しながら接近し、馬鹿犬の着地ポイントで背中合わせにポーズを決めた。

「……あ、ぁぁ……『シューティングスター』……なんて……そんな」

「しかも、もう片方は『グラウンドコンビネーション』で……あ、あんなの人間わざじゃないわ!?」

……レイさんとフィアさんも人間じゃなくてエルフですけどね!?

俺達にとっては別にそうでもなかったが、レイさんとフィアさんにとって馬鹿の登場は衝撃的だったみたいで、二人同時に膝をついてうなだれた。

「……私達の負けだ」

「……まさか、世界にこんなパフォーマーがいたなんて……いったい貴方達は、何者なの!?」

……救いようの無い馬鹿です。

「ふふふ、よくぞ聞いてくれました。世界に煌く星……謎の超絶美少女アリスちゃんとは、私のことです!」

「「な、なんだってっ!?」」

レイさんとフィアさん、ノリが良過ぎる。なんか見てるこっちが疲れてくるよ。

「な、謎の超絶美少女アリスちゃん……い、いったい何者なんだ!?」

「ま、まるで正体が分からないわ……コレが、謎の超絶美少女アリスちゃんたるゆえんなのね!」

いや、名乗ってますからね!? 滅茶苦茶ハッキリ、アリスって名乗ったからね!

「ふっ、私の正体は明かせませんが……」

だから、自分で名乗ってたって!? なに一つ隠してない、完全にフルオープンだったからね!?

「貴方達も、中々見込みがあります。ただ、そこで慢心しないでほしかった。パフォーマーとしての頂点は、まだ遥かに高く険しい。それを忘れず、精進してください」

「な、謎の超絶美少女アリスちゃん……あ、ありがとうございます!」

「ええ、私達もいつか謎の超絶美少女アリスちゃんに追いつけるように、頑張ります!」

もう付いていけないな、このノリ……。

テンションに差があり過ぎてまったくついていけない俺の前で、レイさんとフィアさんは感極まったように涙を流し……その首元に、スッと剣が突き付けられた。

「……あ、あの、ジーク? こ、これは……」

「ジークちゃん、落ち着いて……」

「……」

二人に剣を突き付けたジークさんの目は、殺意に溢れていた。完全に自業自得である。

「……二人共、幻王様に無礼ですよ!」

「「……え? 幻王……様?」」

ジークさんから告げられた言葉に、二人は完全に硬直し……少ししてギギギっと音がするような動きでアリスの方を向く。

「……えと……幻王様……ですか?」

「ええ、私、謎の超絶美少女アリスちゃんの正体は……じゃ~ん! 幻王でした!」

大袈裟な動きで着ぐるみを脱ぐと、黒いフードを被った幻王の姿のアリスが登場する。

それを見たレイさんとフィアさんの顔からは、完全に色が消え失せ……流れるような動きで土下座に移行した。

「も、もも、申し訳ありません! ま、まま、まさか、幻王様とはつゆ知らず……」

「ご、ご無礼を……」

さっきのノリノリの会話を思い出したのか、二人共震えながら謝罪の言葉を口にする。

それを聞いたアリスは、満足そうに一度頷き、偉そうな口調で話し始める。

「まぁ、気付かないのも無理はありません。私は幻王であると同時に超一流のパフォーマー……動き一つ一つが、完璧に洗練されたビューティフォーな存在です。いまならそんな私が書いた『パフォーマー教本』を特別価格で――ふぎゃっ!?」

「……いい加減、自重しろよお前」

「か、カイトさん!? い、いや、私はパフォーマーとしての心構えを――みぎゃぁぁぁ!? ほ、ほっぺ引っぱ……取れる、取れりゅぅぅぅ!?」

「……ちょっとこっち来い」

「にゃぁぁぁぁ!? ほっぺ引っ張ったまま移動は……ご、ごめんなさいぃぃ!? 調子に乗りましたあぁぁぁ!?」

怯える二人に向けて商売を始めようとした馬鹿を殴り、強制的に連行する。

最近ちょっと甘やかしてたらコレだ……ちょっと久しぶりに説教しよう。そうしよう。

「……ねぇ、ジークちゃん? あの方、本当に幻王様?」

「そうです」

「……その、ミヤマくんに正座せられて、叱られてるけど……」

「……幻王様です」

拝啓、母さん、父さん――レイさんとフィアさんの二人と合流した。言葉にすれば一言だけど、どこかの馬鹿のせいで呆れるほどに時間がかかった。ちょっと、うん。久々にガッツリ――説教しておこう。