軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

結構女の子らしい気がする

光の月15日目。たまには部屋でのんびりするのもいいかと思い、俺は自分の部屋で読書にいそしんでいた。

ちなみに現在読んでいる本は、クロ作『まるごと食べ歩きガイド~シンフォニア王国屋台編~』だ。

どうもこの食べ歩きガイドは、シンフォニア王国だけでも数種類あるみたいで、順番に読んでいる。

当然俺の知らない店もいっぱいのっており、クロの主観入りまくりの感想や評価が面白い。行ってみたい店に目星をつけておいて、今度食べに行ってみよう。

そんなことを考えながらのんびりしていると、部屋の扉がノックされた。

「はい? 開いてますよ」

「失礼します」

「……ルナマリアさん?」

入っても構わないと返答すると、扉が開きルナマリアさんが紅茶のポットが乗ったカートを押しながら入ってきた。

紅茶持ってきてくれたんだろうか? 珍しい……。

「お嬢様が、よい茶葉が手に入ったので皆さんにもと……淹れても構いませんか?」

「あっ、そうなんですね。ありがとうございます。じゃあ、お願いします」

「畏まりました」

紅茶のお裾わけを持ってきてくれたルナマリアさんは、俺がお願いすると慣れた手つきで紅茶を淹れる。

う~ん。ルナマリアさんって、仕事してる姿は本当に出来る女って感じなんだけどなぁ……悪ふざけが入ると、途端に駄メイドになる困った方だ。

まぁ、それでもいざという時は頼りになったりするし、仕事も真面目そのもので、悪いところばかりではない。

「……どうぞ」

「ありがとうございます……うん、美味しいです」

「お口に合ったようならなによりです。ミヤマ様は読書ちゅ……え?」

「うん?」

紅茶の感想を告げる俺に微笑みかけた後、ルナマリアさんは軽く雑談をするように口を開き……テーブルに置かれた本を見て硬直した。

「み、みや、ミヤマ様!? そ、そそ、それは、まさか……冥王様の……まるごと食べ歩きガイドでは!?」

「え? えぇ、そうですよ。知ってるんですか?」

「勿論です!!」

「うぉっ!?」

もの凄い勢いで喰いついてきたルナマリアさん……あ~そういえば、ルナマリアさんってクロの狂信者だったな。なるほど、アリスが言っていた冥王愛好会のメンバーなら、喉から手が出るほど欲しいってのは本当らしい。

「わ、私も実物は初めて見ました……こ、これが、伝説の……」

「……は、はぁ」

「私も名誉ある冥王愛好会の『7桁ナンバー』として、一度は見てみたいと思っていました!」

「め、冥王愛好会って、そんなに人数居るんですか……」

冥王愛好会のメンバーってどれだけいるんだ? ルナマリアさんが7桁ナンバーってことは、最低でも100万人はいるの? マジで?

ちなみに説明しながらも、ルナマリアさんの視線は本から離れない。凝視である。

「……あの、よかったら、読みますか?」

「よろしいのですか!?」

「ひっ……え、ええ、どの巻がいいですか?」

「どの巻? も、もしや、ミヤマ様は……まるごと食べ歩きガイドを、複数所持していらっしゃるのですか?」

「あ、はい……全巻あります」

「全巻!?」

クロはこの本を俺にくれる時、全巻セットと言っていたので、たぶん全巻揃っていると思う。

そのことをルナマリアさんに伝えると、ルナマリアさんは目を大きく見開く。

「……ま、まさか、全巻所持とは……さ、流石、ミヤマ様です。噂では会長しか全巻所持はしていないと、最終面接の際に会長から聞きいていたのに……」

「最終面接? え? 冥王愛好会って、入るのに試験があるんですか?」

「ええ、筆記、適正、実技の三試験に、面接が三種ですね」

「なにそれ怖い」

どういう組織なんだ冥王愛好会!? 筆記? 実技? なにそれ?

「……ちなみに、参考程度に……どんな試験があるんですか?」

「筆記は一般教養や魔法学等複数の内からランダムに500問です。ただ、毎年かならず100問は『メイド学』というものがあります」

「……あ~なるほど……」

そう言えばそうだった。冥王愛好会の会長は、あの化け物メイド……うん、なんか滅茶苦茶な試験とかも、アインさんだと思えば納得できる不思議。

「ま、まぁ、それは置いておいて……み、ミヤマ様? ほ、本当に、読ませていただいてよろしいのですか?」

「ええ、クロからは自由にしていいって言われてますし……何冊か貸しましょうか?」

「……ミヤマ様、貴方が私の 救世主(メシア) でしたか……」

「違います」

ルナマリアさんのテンションがおかしなことになりかけていたので、黙らせる意味も込めて一冊のまるごと食べ歩きガイドを手渡す。

するとルナマリアさんは、即座に喰いつくように読み始めた。目が怖い……読書するような目じゃないよアレ、決戦に赴くとかそんな感じのやつだよ……。

「……あ、あぁ……なんて、素晴らしい……なんて、崇高な……」

「……」

リアクションがいちいち大袈裟すぎる。まぁ、それだけルナマリアさんにとっては貴重な本ということだろう。

実際は料理店のレポート本みたいな感じなんだけど……狂信者にとっては聖書みたいなものか。

もはや当初の目的も忘れ、俺の部屋のソファーに座って読書するルナマリアさん……あの、貴女、仕事中なんじゃ? いや、突っ込むのは止めておこう。なんか怖いし……。

そんなルナマリアさんを見て、俺は軽く溜息を吐いてから、マジックボックスからクッキーを取り出す。

「……茶請けのクッキーがありますけど、ルナマリアさんもよかったらどうですか?」

「ありがとうございます! 『カイトさん』! 嬉しいです!」

「……うん?」

「あっ……」

なんかいま、変だった……ルナマリアさんの声が、いつものクールな感じじゃなくて、子供みたいに無邪気な声だった。

狙ってそうしたというよりは、まるで……ついうっかり『素が出てしまった』って感じだった。

「……」

「……」

ルナマリアさんはそのまま青ざめた顔で俺を見て、ダラダラと額に汗をかき始める。

とても気まずい沈黙が俺達の間に流れ、俺もなにも言えずに沈黙した。

しばらくしてルナマリアさんは、本を持ったままスッと立ち上がる。心なしかその顔は赤く染まっているようにも見えた。

「……み、ミヤマ様。お、恐れ入りますが、この本をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。どうぞ」

「あ、ありがとうございます。それでは!」

「え? あっ!?」

俺が頷くやいなや、ルナマリアさんはもの凄いスピードで部屋の外に出ていってしまった。

えっと、これは、アレだろうか……もしかして、ルナマリアさん……照れてた? なんかすごく珍しい光景を見た気がする。

ルナマリアさんが部屋から去って数時間、のんびりと読書をしながら過ごしていると……逃げたはずのルナマリアさんが戻ってきた。

「……えっと、ルナマリアさん?」

「……ミヤマ様、こちらを」

「……なんですかコレ?」

戻ってきたルナマリアさんは掌サイズの包み紙を渡してきた。ほんのりと温かく、微かに甘い香りがする……お菓子だろうか?

なぜそれを渡されたか分からない俺が首を傾げていると、ルナマリアさんは視線を右斜め下に逸らしつつ、平静を装う感じで口を開く。

「……口止め料のようなものだとお考えください」

「口止め料?」

「先程の件、他言無用でお願いします」

「……分かりました」

「ありがとうございます。それでは、失礼します」

ルナマリアさん的には冷静に会話してるつもりだったんだろうが、断固として目を合わせなかった辺り、いっぱいいっぱいなのは伝わってきた。

それにしてもこの包み……ピンク色の紙に、フリフリした感じのリボン……ルナマリアさんって、結構可愛い趣味してる気がする。

なんとなく普段見ないルナマリアさんを見た気がして、自然と口元に小さく笑みが浮かぶ。

そして貰った包みを開けてみると……中には色とりどりのマシュマロが入っていた。

……やっぱり、なんか可愛いな……これは意外な一面だ。

拝啓、母さん、父さん――ルナマリアさんが照れるという非常に珍しい光景を見た。そして、口止め料として手作りっぽいマシュマロを貰ったんだけど、包み紙といい、リボンといい……ルナマリアさんって――結構女の子らしい気がする。