軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

非常に個性的な愛情表現だ

クロが「ちょっと表でろや」って感じで、エデンさんを連れて亜空間に消えてから三十分が経過した。

おそらく、亜空間では想像を絶する戦いが繰り広げられているのだろう。まぁ、ガチバトルっていうよりは、喧嘩って感じだったから命のやり取りまでは無さそうだけど……。

そして、現在、雑貨屋のカウンターでも激しい戦いが繰り広げられていた。

「……くっ……よし!」

「ぐっ……やりますね。カイトさん……しかし! 甘い!」

「な、なんだと……」

劣勢だった俺が起死回生の攻めを行うと、アリスは一瞬苦しそうな表情を浮かべたが、即座に切って返してくる。

甘かった……アリスのスペックが凄まじいのは知っていたが、あの状態から繋いでくるとは……くそっ、なにか、なにか逆転の手は無いのか?

焦りと共に手を伸ばすが、冷静さを欠いた行動が上手くいくことは無く、無情にもソレは大きく傾き……崩れた。

「よしっ! 私の勝ちですよ!」

「ぐぅ……負けた」

木のブロックが崩れ落ち、俺の敗北が決定する。

うん、多くの人が遊んだことがあるであろう、木のブロックを抜いて上に乗せるゲームだ。

まさか、あんなに傾いてる状態で、バランスとって積んでくるとは思わなかった……アリス強い。

「ふふふ、運勝負じゃ負けてばかりですし、こうして勝つのは気分がいいですね」

「なんか、他の人ならともかく、アリスに負けるのは……むかつく」

「なんでっ!?」

リベンジの為にもう一戦と、そう思って木のブロックを拾っていると……黒い渦が現れ、クロとエデンさんが戻ってきた。

「……おかえり、クロ」

「ただいま……はぁ、もう、本当に強いから性質悪いよ……つかれたぁ」

流石一つの世界を造った神というべきか、エデンさんは相当強いらしく、クロは珍しく疲れた表情で溜息をつく。

そんなクロを見ていると、エデンさんが俺に近付き、軽く頭を下げる。

「先程は、失礼しました。『宮間快人』……少し、舞い上がっていました」

「あ、いえ……」

呼び方が「我が子」から「宮間快人」に変わってるし、先程までの寒気がする感じは無い。どうやら冷静になってくれたみた……うん? この方さっきなんて言った? 少し舞い上がってた? あれで……少し?

「もぅ、ともかく……カイトくんに迷惑をかけたり、カイトくんの友達に危害を加えたりしちゃ駄目だよ!」

「見くびるなよ、神の半身。我が、愛しい我が子を悲しませるなどありえません。宮間快人にも、その友人にも、危害など加えはしません」

「……お~い、でっかいブーメラン刺さってますよ? 数日前のこと、もう忘れてるんすか~?」

「……」

「こ、このっ……」

俺を悲しませない。俺にも友人にも危害は加えないと告げるエデンさんに、数日前にガチバトルをしたアリスが突っ込みを入れるが……エデンさんはこれを華麗にスルー。恐ろしい方である。

「……だ、だいたい。さっきは誘拐して監禁みたいなこと言ってたじゃないっすか……」

「誘拐? 監禁? なにを言っているのですか? アレはただの『提案』です。宮間快人の意思が最優先に決まっているでしょう?」

「……全然そうは聞こえなかったんすけど?」

「汝に意図を理解してもらう必要などありません」

「……カイトさん、私、こいつ、嫌い」

どうやらエデンさんにとって、先程言っていた世界を造るだの、空気を造るだのは、あくまで提案らしく、俺が了承しなければ実行はしないらしい……なんかホッとした。

とりあえず口元を引くつかせながら、いまにも殴りかかりそうなアリスを嗜める。

しかし、エデンさんは全然空気を読んでくれず、さらに言葉を続ける。

「汝に好まれたいとも思いません。極めて無駄です」

「……おっけ~上等っすよ。ちょっとこの前の続き、やろうじゃないっすか……」

「あ、アリス、落ち着いてくれ。エデンさんも、アリスを挑発するのはやめてください」

「承知しました」

第二のバトルが勃発しそうだったので、エデンさんに挑発はやめてくれと頼むと……すぐに了承してくれた。

「……う~ん。これ、カイトくんに任せて大丈夫かな? カイトくんの言うことは聞くみたいだし……ボク、六王祭の準備途中で来ちゃったから……戻っていいかな?」

「え? ああ、分かった。ありがとう、クロ」

「ううん。『会話は聞こえてるから』……またなにかあったら来るね~!」

「ちょっ、なんかいま、聞き捨てならない内容が……」

「じゃあね~」

「ちょっ、クロっ!?」

おかしいな、なんで魔界で六王祭の準備をしているはずのクロが、俺達の会話を聞くことが出来るんだろうか……。

即座にクロに尋ねようとしたが、時すでに遅く、クロは黒い光に包まれて消えてしまった。

俺のプライバシーはどこにあるんだろう……いや、ないのか……。

ガックリと肩を落としつつ、無言で睨み合うエデンさんとアリスの方を向き、恐る恐る仲裁を始める。

「……エデンさん、俺は出来れば、エデンさんにアリスと仲良くしてもらいたいと思っているんですが……駄目ですか?」

「先だっての無礼を詫びましょう。改めて、自己紹介をさせていただきます。我が名はエデン。よろしくお願いします。アリス」

「……なんすか、その高速の掌返しは……ですが、いまさらそんなこと言っても、私は……うん?」

「お近づきの印です」

俺が頼むと即効でアリスに自己紹介をするエデンさん……そうか、エデンさんにとって、数日前の自己紹介は俺にしたものであり、アリスは眼中になかったのか……。

先程まであれだけ険悪だった相手にそう言われても納得できないみたいで、アリスはなおも鋭い目でエデンさんを睨んでいた。

しかし、直後にエデンさんは布の袋をどこからともなく取り出し、アリスの前に置いた。

置く時に聞こえたジャラっという音……中身はお金か?

そう思って様子を見ていると、アリスはその袋の中身を確認し……それを懐にしまってから、エデンさんの方を向く。

「この世界で分からないことがあれば、なんでも聞いてください。いくらでも手助けしますよ!」

「ありがとうございます」

「……」

アッサリと買収されやがった!? なんだ、このコント……どっちも掌返しまくりじゃないか!?

よっぽど沢山お金が入っていたんだろう。アリスは先程までのことは忘れたといわんばかりに友好的になっている……エデンさん、なんて恐ろしい方だ。アリスの弱点を一瞬で見抜くとは……。

「ああ、そうです……愛しい我が子にはこれを……」

「……え?」

目の前で繰り広げられる奇妙な光景に茫然としていると、エデンさんが俺の方を向いて微笑み、純白の翼から羽根を一枚取って、俺に手渡してきた。

あれ? なんだろう、また寒気が……。

「こ、これは?」

「『私の一部』です」

怖い言い方止めてもらえませんかね!? もうちょっと他に言い方あるだろう!!

「愛しい我が子よ。我はいつでも汝の味方です。それはその証……あぁ、足りないというのでしょう? 分かっています。叶うのなら、いまこの場で、汝に我の全てをあますとこなく味あわせてあげたい。でも、また横槍が入っては、我が子の嫌でしょう? 大丈夫、安心してください。ちゃんと、また『会いに来ます』……母は、いつでも見ています。汝の選択の全てを肯定します。そう、そうです。我が子は自由であるべき、そうなのです。もちろん、我は尽きることなく汝に愛を注いであげます。そう、そうです! 我が子がなにかに縛れるなど、あってはいけない……重力も、太陽も、全て、全てが我が子の為に動くべき……そうです、それが……」

「エデンさん! ストップ、ストォォォップ!!」

「……失礼しました。また少し興奮しました。もう大丈夫ですよ。宮間快人」

うん、ちょっとだけ分かってきた。エデンさんが俺を「宮間快人」と呼んでいる時は、スイッチがOFFの状態で……「我が子」って呼び始めたら、危険信号だ。ちゃんと覚えた。

再び冷静に戻ったエデンさんは、俺の耳に口を寄せ……小さな声で、俺が持つ羽根の効力を説明してから、踵を返し……去っていこうとして、途中で止まった。

「……失念していました。折角、宮間快人が店番をしているのです。このまま去るのは駄目ですね……アリス、適当に商品を見繕ってください。全て買いましょう」

「なぬっ!? 任せてください!!」

「……」

エデンさんがそう告げると、アリスは一瞬で姿を消し、山ほどの商品を抱えて戻ってきた。

そしてエデンさんはソレをロクに確認することなく、先ほどよりも二回りほど大きい布袋を取り出し、アリスに手渡す。

「釣りは不要です」

「……貴女が神でしたか……」

「その通りですが? では、我はこの世界の観光を続けます……また会いましょう。宮間快人」

「あ、はい。さようなら」

「ありがとうございました! またのご来店をお待ちしています!!」

「……アリス」

仮面を付けていても分かるほどホクホク顔のアリスは、明るい声と共に、去っていくエデンさんに頭を下げた。コイツ、本当に分かりやすい性格してるよなぁ……。

それに比べてエデンさんは……いや、俺に対する愛情は恐ろしいほど伝わって来たんだけど……なんか変わった方だ。

シロさんを超平等主義者とするなら、エデンさんは超偏愛主義者ってところなんだろうか……。

なんかこう、世界を造った神は皆、自分の造った世界に対し、変な愛情表現をする方ばかりなんじゃないかと思えてきた。

拝啓、母さん、父さん――エデンさんから一枚の羽根を貰った。けど、この羽根は正直……使い時なんて来るんだろうか? 明らかに危険すぎる気がする。まぁ、それはともかくとして、シロさんといい、エデンさんといい――非常に個性的な愛情表現だ。