軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

報告は大事だ

リンが本来ならあり得ない能力を持っているという事実に、俺の頭が追いつくより早く、リリアさん達は真剣な表情で話し合う。

ちなみに葵ちゃんと陽菜ちゃんは、物凄く素早く「用事を思い出した」と告げてどこかへ行ってしまった……流れるように鮮やかな離脱……二人共腕を上げたものだ。

「……そう言えば、リンの魔力もかなり大きくなってませんか?」

「ええ、リンちゃんは『魔力成長期』ですが、それを差し引いても大きすぎると思います」

「ミヤマ様が、なにか変なものでも食べさせたのでは?」

……食べ物、変な食べ物……あれ? どうしよう、心当たりがある。

「……あっ」

「……カイトさん?」

思わずこぼれた俺の声を聞き、リリアさんが怪訝そうな表情でこちらを振り返る。

「……あ、いや、えっと……」

「もしかして、ですけど……心当たりがあるんじゃないですか?」

「……え、えと……」

「カイトさん?」

「……あります」

リリアさんは、それはもうはち切れんばかりの笑顔である。笑顔なのだが……目は欠片も笑っていないし、よく見ると額に青筋が浮かんでいる。

全身から「またお前の仕業か」みたいなオーラが溢れており、それはもう、とんでもなく恐ろしかった。

「それで? なにを食べさせたんですか?」

俺が素直に認めると、リリアさんは笑顔のままで近付いてきて、俺の肩にポンッと手を置く……たぶんこれは、怒らないから正直に話せって事だろう……うん。その筈だ。

なんか、さっきから肩からギリギリと音がしてるような、物凄く痛い気がするけど……き、気のせいだろう。

胆が冷えるような感覚を味わいつつ、恐る恐る……原因だと思われる物を口にする。

「……せ……」

「せ?」

「世界樹の……果実……です」

「……」

そして俺の言葉を聞いたリリアさんは、直後に膝から崩れ落ちた。

「お嬢様! ど、どうかお気を確かに……」

「……せ、世界樹の……か、果実?」

そう、実は以前オルゴール制作の際に、俺は世界樹の果実を食べながら作業してたのだが、偶然その場面をリンに見られ、世界樹の果実を食べたいとせがまれた。

物が物だけに、最初は断ったんだけど、リンがあまりにも可愛……しつこかったので、仕方なく食べさせてあげた。

すると物凄く気に入ったみたいで、事あるごとにねだってくるようになり、ベルの洗浄とかを手伝ってくれた時にご褒美として食べさせてあげていた。

「あの、ジークさん。やっぱり、それが原因なんですかね?」

「可能性は高いと思いますよ。魔物には体の成長期と魔力の成長期が、別々にあるんです。リンちゃんは丁度今魔力の成長期ですし……魔物の魔力成長期に、魔力のある食べ物を与えると、魔力が大きくなるって通説もあります」

「……」

「世界樹の果実は、強力な治癒の魔力の塊みたいなものですから、その魔力が成長期中のリンちゃんの魔力と混ざって、変化……いえ、進化したのではないかと思います」

思った以上にとんでもない事になっていた!? お、俺としては、可愛いリンへのご褒美のつもりだったんだけど……ま、まさか、それに影響を受けて魔力が変化するとは、全く考えていなかった。

ジークさんの説明を聞いて、俺が茫然としていると……リリアさんがゆらりと立ち上がる。

「……と、いうか……なんて物あげてるんですか! 貴方は!!」

「ぐえっ!? り、リリアさん……くるしっ……」

「一個手に入れる事すら困難な世界樹の果実を、なんでおやつ感覚でペットに食べさせてるんですか!」

「ご、ごめん……なさ……い」

リリアさんに首元を掴まれ、前後に激しく揺らされ、頭がシェイクされるような感覚を味わいつつ、謝罪の言葉を絞り出す。

そのままリリアさんは俺をしばらく怒鳴ってから、手を離して大きなため息を吐く。

「……もぅ、本当に規格外な……」

「げほっ……か、重ね重ね、申し訳ありません」

「……はぁ……一応念の為に聞いておきますが、まさか界王様に、ペットの餌にする為に世界樹の果実を貰いに行ったりは……」

「……す、すみません」

「……したんですか……」

呆れ果てた様子で、ガックリと肩を落とすリリアさんに再び頭を下げる。

そう、リリアさんの言う通り……実はちょっと前に、リリウッドさんの元を訪れ、リンが世界樹の果実を気に入った事を説明して、分けてもらえないかと交渉してみた。

どうも世界樹の果実は時間の経過で傷んだりしないらしく、長年流通を制限しているリリウッドさんの元には、処分に困るほどの世界樹の果実があるらしく、好きなだけ持って行ってくれと言われた。

「……その、他の人にあげたりして流通させないようにとだけ注意を受けて、いっぱいもらいました」

「……そうですか……」

もう、リリアさんは全てを諦めたような遠い目をしており、俺はひたすら平謝りしていたのだが……そこで苦笑を浮かべたジークさんが助け舟を出してくれる。

「リリ、もうその辺で許してあげてください。カイトさんも悪気があった訳じゃないんですから」

「ジーク……貴女は、カイトさんに甘過ぎます」

「う~ん。まぁ、普段カイトさんがベルちゃんやリンちゃんの世話してるのを見てて、カイトさんがペットをとても大切にしているのは、分かっていましたからね。リンちゃんが大切だからこそですよ」

「そ、それはまぁ……そうかもしれませんが……」

やはりジークさんは天使、いや 救世主(メシア) である。

穏やかに俺をフォローしてくれるジークさんの言葉を聞き、リリアさんもしょうがないなぁといった表情に変わりつつあり、内心ホッとしていたのだが……それは、直後にルナマリアさんが呟いた一言で粉々にされた。

「……ベル様の方にも、なにかあげてたりして……」

「……」

「カイトさん? 今、なぜ、目を逸らしたんですか?」

「……」

やめて、やめて、ルナマリアさん……そこ突っ込まれると非常に困ってしまう。というか、また叱られる。

そう考えるも時すでに遅し、リリアさんは再び俺を恐ろしい笑顔で見つめてきて、背中に大量の汗が流れる感覚がした。

「……カイトさん、正直に答えてください。ベルの方には、なにをあげたんですか?」

「……そ、その、べ、ベルがもっと強くなりたいって言うんで……『マグナウェルさんに相談』したら、マグナウェルさんの鱗を粉末状にして、食事に混ぜれば良いと言われて……それを……」

「……ちょっとそこに座ってください」

「……はい」

恐る恐る告げた俺の言葉を聞き、リリアさんの額にはハッキリと青筋が浮かび上がり、有無を言わせぬ口調で座れと告げてきたので、それに従って正座する。

「……貴方は……なにをしてるんですか! 最強の魔物でも作る気なんですか!!」

「ひぃっ!?」

「大体竜王様の鱗ですって? 本当にどれだけ規格外な事をすれば気が済むんですか! 私だって竜王様の鱗欲しいのに……よりにもよって食べさせるなんて……どこまでベルを強くする気ですか!!」

「お嬢様、お嬢様? なんか、途中に我欲混ざってませんか?」

リリアさんはドラゴンが大好き……前に見せた時は驚いて気絶しちゃってたけど、欲しかったのか竜王の鱗……言ってくれれば良かったのに……マグナウェルさんが、会うたびに駄賃だとか言ってくれるから、結構沢山あるし。

「……あ、あの、リリアさん? 竜王の鱗……差し上げますよ。それに、牙の欠片とかも!」

「……こほん。まぁ、カイトさんも悪気があった訳ではないでしょうし、そこまで強く叱ったりするつもりはありませんが……」

「お嬢様? なに清々しいほど即座に物に釣られてるんですか……」

リリアさんが恐ろしい一心で告げて見たが、あまりにも分かりやすい反応に、進言した俺の方が戸惑ってしまった……そ、そんなに欲しかったのか……

「まぁ、カイトさん。ペットを可愛がるのも良いですし、カイトさんの持ち物を餌として与える事を、禁止したりはしませんが……今後そういった事はちゃんと報告して下さい。いい加減胃薬の消費量が大変なんです。もう一生分ぐらい飲んでるんですから……」

「は、はい。本当に申し訳ありませんでした」

リリアさんの大変切実な、魂の叫びを聞き、俺は両手を地面について深々と謝罪する。

拝啓、母さん、父さん――リンには世界樹の果実を、ベルには竜王の鱗を、与えていた事がリリアさんにばれて、久しぶりに叱られた。まぁ、ちゃんと報告してなかった俺が悪いので、なんの文句も言えない。うん、本当に――報告は大事だ。