軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あり得ない能力らしい

光の月5日目。暖かな日差しを感じる昼下がり、俺はリリアさんの屋敷の裏手にある庭に来ていた。

裏庭というにはいささか広すぎるこの庭は、リリアさんの屋敷の警備隊が訓練を行う場所でもある。

「……う~ん。正義がねぇ……快人先輩の事疑う訳じゃないですけど、ちょっと想像できないですね」

「まぁ、光永君の変化はともかく、元気そうならなによりですよ。教えてくれてありがとうございます。快人さん」

陽菜ちゃんと葵ちゃんにハイドラ王国で再会した光永君の事を伝えると、陽菜ちゃんはどうにも光永君の変化に訝しげで、葵ちゃんは素直に無事を喜んでいた。

まぁ、陽菜ちゃんは従兄妹って話だし、光永君をよく知る分、変化には驚いているのかもしれない。

そんな事を考えつつ、手に持った緑茶を飲みながら二人を眺める。

動きやすそうなズボン姿……普段走り込みをしている時と同じ格好の陽菜ちゃんと、シンプルなワンピースに茶色のジャケットを着ている葵ちゃん。

二人はそれぞれの方法で準備体操をしているみたいで、俺はそれを座って眺めていた。

「……よっし、準備OKです。葵先輩!」

「こっちも大丈夫……それじゃ、よろしくね」

「はい!」

「快人さん、合図をお願いします」

どうやら準備が整ったみたいで、陽菜ちゃんと葵ちゃんは庭の中央辺りで、距離をとって向かい合う。

そして葵ちゃんが俺に合図をお願いしてきたので、俺は軽く片手をあげて、声とともにそれを振り下ろす。

「それじゃあ……始め!」

俺の掛け声と共に、葵ちゃんが素早くその場でしゃがみ、地面に両手をあてて魔法陣を出現させる。

「……クレイ、ゴーレム!」

「おぉ……」

すると魔法陣が強く光を放ち、そこから大量の土や泥が溢れ人型……5メートルぐらいはある泥の巨人に変わり、それを見た陽菜ちゃんは、軽く足を引き強く拳を握る。

「ふっ! 本気で行きますよ!」

その言葉と同時に陽菜ちゃんは地面を強く蹴り、物凄いスピードで一直線にゴーレムに向かう。

まるで高速再生の映像でも見ているかのような陽菜ちゃんのスピードだが、ゴーレムはすぐさまそれに反応し、片腕を振り上げ、陽菜ちゃんを迎撃する。

人間なんて簡単に押しつぶせそうな巨腕の一撃、しかし陽菜ちゃんは軽やかな動きで跳躍し、振り下ろされていた腕に飛び乗って駆け上がる。

「す、凄っ……」

「はっ!」

そしてゴーレムの肩まで一瞬で駆け上がった陽菜ちゃんは、そのまま体を捻り、流れるような動きでかかと落としを叩き込む。

余程の威力なのか、大きな音が聞こえ、ゴーレムの肩に大きなヒビが入る。

「くぅっ、硬っ……」

「ふふふ、今回のゴーレムはそう簡単に砕けないわよ」

「うへぇ……反応速度も上がってますし、どれだけ魔力込めたんですか……」

一撃では砕けず、陽菜ちゃんは困った表情を浮かべ、肩を狙って攻撃をしてくるゴーレムの手を回避しながら距離を取る。

しかし、二人共凄いなぁ……陽菜ちゃんはもう完全に人間離れした動きが出来るようになってるし、葵ちゃんも本格的に魔法を習っているのは知ってたけど、あんなでかいゴーレムまで作れるようになってるとは……なんか物凄く置いて行かれた気分である。

そんな事を考えつつ、繰り広げられる戦いを眺める。

今二人が戦っているのは、葵ちゃんが新しいゴーレムの試運転をしたいと陽菜ちゃんに頼んだからで、これは最近割とよく見る光景だった。

ちなみに前回のゴーレム3メートルぐらいで、陽菜ちゃんの蹴り一発で砕けてしまった。

葵ちゃんはああ見えて結構負けず嫌いなのか、今回のゴーレムは前回と比べて格段に強化されているらしく、圧倒的な身体能力を誇る陽菜ちゃんも、攻め切れずに苦戦していた。

うん、まぁ、なんて言うか……二人共本当に強くなっちゃって……

「あぅぅ……負けました。再生能力はずるいですよ」

「やった……あっ、いや、ありがとう。陽菜ちゃん」

しばらく経つと決着が着いたみたいで、陽菜ちゃんはガックリと肩を落とし、葵ちゃんは小さくガッツポーズをしていた。

今回は葵ちゃんの作戦勝ちみたいで、耐久力重視+再生機能付きのゴーレムが陽菜ちゃんの猛攻を耐えきった感じだ。

まぁ、実際ガチで戦うと、陽菜ちゃんが高速で葵ちゃんの本体を叩いて終わるのだが、あくまで今回の主題はゴーレムの試運転なので、葵ちゃんの勝ちで良いだろう。

「二人共、お疲れ様……いや~それにしても、二人共本当に強くなったね。俺じゃ全く敵いそうにないよ」

「ありがとうございます。でも、快人さんが私達より、基礎戦闘力が低いのは仕方ないですよ。タイプの違いです」

「タイプの違い?」

戻ってきた二人に労いの言葉をかけてると、その言葉に反応した葵ちゃんが俺はタイプが違うと言ってきた。

なんのことだろうと首を傾げていると、葵ちゃんは陽菜ちゃんの方を指差しながら続ける。

「RPGに例えるなら、陽菜ちゃんは戦士で私は魔法使いです」

「戦士ってあんまり可愛い響きじゃないので、女の子としてはなんか葵先輩に負けた気分ですけど、確かに納得です」

「ふむ……じゃあ、俺は?」

「「魔物使い」」

「……成程」

「キュイ?」

俺の質問に声を合わせて答える二人。そして俺の膝の上には寝転がってるリンが居て、さっきまで背もたれにしていたのはベル……物凄く納得してしまった。

確かに俺を魔物使いに例えるなら、本体の戦闘能力が低いのは仕方が無いとすら言える気がする。

まぁ、実際に俺がこの場に呼ばれているのも、その関係だったりする訳なんだが……

「それはともかく、快人さん。ついに陽菜ちゃんを退けました! いよいよ次はベルちゃんですね!」

「……本当にやるの?」

「お願いします! 私のゴーレムが、この世界の魔物にも通用するか確かめたいんです」

「……う、うん。まぁ、そこまで言うなら……ベル」

「ガゥ」

そう、今回俺がこの場に呼ばれているのは、葵ちゃんがゴーレムをベルとも戦わせてみたいと言ったからだ。

俺としては、ベルの毛が汚れるのが嫌で悩んでたんだけど、ここまで頼まれたら仕方ない……終わった後でまた洗おう。

ベルの毛並は俺の自慢の一つだ。頻繁に洗っていて、ブラッシングも欠かしていないので、もうつやつやのふさふさである。

お陰でそこらの高級布団になんて負けないぐらいの寝心地をほこり、しょっちゅうベルにもたれかかって昼寝していたりする。

ベルは俺が声をかけると「仕方ないなぁ」といった感じで起き上がり、ゆっくりと庭の中央まで歩いていく。

「ベル……ブレスは駄目だからね」

「ガゥ!」

そしてベルとの対決を希望した葵ちゃんも小走りでそこへ向かい、先程と同じように巨大なゴーレムを出現させる。

パッと見ではベルより大きいゴーレム……本当に相当の魔力消費だろうけど、葵ちゃんの魔力は俺達三人の中で一番多いので、二回ぐらいならなんとか作れるらしい。

「それじゃ、葵先輩、ベルちゃん。いきますよ~スタート!」

「グルァ!」

「……え?」

「ガゥ……」

陽菜ちゃんの元気の良い合図によって戦いが始まり……そして即座に終了した。

それはもう、本当に一瞬だった。ベルが面倒臭そうに前足を振るうと、その一発でゴーレムは粉々になった。

流石伝説の魔獣……完全にレベルが違った。

「い、一撃……ベルちゃん……強い」

ガックリと肩を落とす葵ちゃんを気にした様子もなく、ベルは俺の所に戻ってきて、褒めてくれと言いたげに軽く頭を下げる。

「うん。ありがとうベル……よしよし、よく頑張ったね」

「クゥ……」

ベルは俺に撫でられると気持ち良さそうな鳴き声を上げ、そして再び俺の後方に移動して、いつものように伏せの体勢になる。

「葵ちゃんも、お疲れ様……」

「う、うぅ、流石にまだベルちゃんには勝てませんでした……改良しないと」

「ほどほどにね」

「う~ん。コレってどうなんでしょう? 快人先輩が一番強いって事なんですかね?」

「俺じゃなくて、ベルが強いんだよ……それより、ベル」

「グル?」

「右前足汚れただろ? ほら、拭くからこっちに伸ばして」

「ガゥゥ……」

とりあえず目下重要なのは、先程泥のゴーレムをぶん殴ったせいで汚れたであろうベルの前足だ。

泥の汚れは乾くと大変だから、マジックボックスから大きめの布を取り出して前足を拭いていく。

「……それにしても疲れました」

「うん、私も同感……魔力も殆ど使いきっちゃったし……」

「まぁ、しっかり休憩だね。ルナマリアさんに頼んで紅茶でも……うん?」

お疲れの様子の陽菜ちゃんと葵ちゃんに、ベルの足を拭きつつ声をかけると、突如リンが俺の前にパタパタと羽を動かして移動してくる。

「キュ、キュキュイ!」

「え? 任せろって?」

「キュイ! キュクキュキュイ!」

「だから後で褒めて? う、うん?」

「……葵先輩。快人先輩がついにほぼ完全に魔物の言葉を理解し始めましたみたいですよ」

「……完全に魔物使いね」

さらりと失礼な言葉が聞こえた気がしたが、とにかくリンにはなにかの考えがあるらしく、自信満々に任せろと伝えてきた。

そもそもなにを任せろなのかよく分からなかったが、とりあえず頷くと、リンは葵ちゃんと陽菜ちゃんの方向を向き大きく息を吸い込む。

「キュ~ク~!」

「え? なっ!?」

「な、なんですか? このキラキラしたの!?」

そしてリンの口から光り輝く風のようなブレスが放たれ、二人を包み込むと……

「え? あれ? なんか疲れが取れてきたような……」

「少しずつ、魔力も回復してる? もしかしてこれって『治癒のブレス』なんじゃ……」

え? 治癒のブレス? リンっていうか、白竜ってそんなブレスが放てるの? おぉ、これは凄いし、なんとも役に立ちそうだ。

思わぬリンの力に感嘆していると、なにやら後方でなにかが落ちるような音が聞こえ、振り返ると……目と口を大きく開いて驚愕しているリリアさん達三人が居た。

「……なっ、なな……なんですか今の……」

「……治癒のブレスなんて聞いた事がありませんが、リンちゃんは特殊個体なんでしょうか?」

「ち、違います! 白竜の特殊個体は翼の形が違うんです。リンは間違いなく通常個体の筈です!」

「流石お嬢様……竜種に詳しい」

あれ? なんだろうこれ? なんか厄介事の香りがするというか、可笑しな事態になってきた気がする。

拝啓、母さん、父さん――ベルの強さを再確認して、更にはリンの新たな能力まで目撃したよ。ただ、どうやらこれは――あり得ない能力らしい。