軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

思いっきりクロに甘えた

土の月17日目。リグフォレシアから昼過ぎに帰ってきて、簡単ながらリリアさん達にも事の顛末……ジークさんと恋人同士になった事を報告した。

ありがたい事に皆心から祝福してくれて、特にリリアさんが誰よりも喜んでいた……ジークさんとリリアさんは幼馴染だし、ジークさんの恋が実った事はリリアさんにとっては自分の事のように嬉しいらしい。

そのまま祝福のパーティでも始めそうな勢いだったが、俺もジークさんも疲れているだろうと、それに関してはまた後日という事になり、俺達はそれぞれの部屋に戻る事になった。

しかし、やっぱりなんだかんだでけっこう疲れは溜まってるのかもしれない……特に眠気が酷い。リグフォレシアに泊まった三日間は、ロクに寝ていない。

これもシロさんの祝福のお陰かどうかまでは分からないが、三日も徹夜している筈なのに体に不調は見られず、元気といえば元気だ。

ただ、体は健康でも眠気はしっかり三日分溜まっている……住み慣れた屋敷に戻ってきて気が緩んだのもあるだろうが、この感じだと部屋に戻った瞬間ベッドに倒れて寝てしまいそうだ。

そんな事を考えながら自分の部屋に戻り、扉を開けると……残念ながら、すぐに寝る事は出来なさそうだった。

「あっ、おかえり!」

「ただいま……って、クロ? きてたんだ」

「今着いたばっかりだよ。カイトくんが戻ってくるのは分かってたからね」

「……え? なんで?」

「そりゃ、前以上に強力な『探知魔法の術式』をこっそりネックレスに――勘だよ!!」

「ちょっと待て、前半……」

探知魔法って言った。今、コイツ絶対探知魔法って言った……え? このネックレスに、俺の場所を把握する術式が入ってるって事? うん、薄々そんな気はしてたけど……どこへ行った俺のプライバシー。

「……クロ、プライバシーって言葉知ってる?」

「え? うん、シロに気に入られてるカイトくんには無いやつでしょ?」

「……ソウダネ」

そうだった。クロがどうとか以前に、シロさんによっていつも見られてるんだった……うん、プライバシーなんて前から無かった。

その事実を思い出してガックリと肩を落とす俺を見て、クロは少し慌てた様子で話しかけてくる。

「だ、大丈夫だよ!? ボクはちゃんと、カイトくんのプライバシーを尊重するよ!」

「……探知魔法」

「うっ……そ、それはほら、カイトくんに何かあると大変だから……ちゃんと会話とかは聞こえないようにしてるから……」

「まぁ……シロさんよりはマシか……」

「う、うん! 安心して、カイトくんに悪いことしようとする子が居たら……ボクがぶん殴るからね!」

あれ? なんだろう、今、核爆弾が落ちたような光景が脳裏に浮かんだんだけど……気のせいだよね? きっと気のせいだよね……あり得ないと言えないのが恐ろしい。

「まぁ、それは置いておいて……カイトくん!」

「へ? なに?」

「さっ、ベッドにうつ伏せで転んで……」

「え? な、なんで?」

「いいから、いいから……ほらっ」

「わ、分かったよ」

クロの意図はさっぱり理解できなかったが、クロが突拍子もない事を言い出すのはいつもの事なので、俺はやや戸惑いながらも言われた通りベッドにうつ伏せになる。

……で、ここからどうするんだろうと思っていると、どこか楽しげなクロの声が聞こえた。

「よっと……」

「なっ!? ちょっ、く、クロ!?」

掛け声と共に背中……いや腰の辺りに重みを感じ、反射的にクロが俺の上に乗っかってきた事を理解する。

てか、クロ軽っ!? そ、それに柔らかい……な、なんだこれ? 一体どういう状況!?

「ジッとしててね……マッサージするからね」

「……へ? マッサージ?」

「うん。カイトくん、大分疲れてるでしょ……だから、マッサージ」

「……」

優しい声と共に、クロの手が俺の肩に触れ、クロは俺の肩をゆっくりと揉み始める。

「うわっ、やっぱりこってるね」

「そ、そうなのかな?」

「カイトくん、溜めこんじゃうタイプだしね……よっし、じゃあ、特別バージョンで!」

「ッ!?」

特別バージョンという声が聞こえた瞬間、肩全体にじんわりと痺れるような暖かさが広がり、なんだろう……こり固まった肩が、小刻みに揺らされているような……言いようのないほどの気持ち良さを感じる。

こ、これは、凄い……なんか肩全体にマッサージ機が当てられてるみたいだ……マジで気持ちいい。

「……く、クロ? これ、一体……」

「微弱な治癒魔法をかけながら揉んでるんだよ。強い治癒魔法だと痛みを感じちゃう事もあるから……ゆっくり、揉みほぐしながら……」

「うわっ……これ、凄く……気持ちいい」

「えへへ、良かった……そのまま楽にしててね。ボクがカイトくんの疲れをしっかり取ってあげるからね」

至福の一時とでも言うのだろうか、どうも俺は自分で思っていた以上に疲れを貯め込んでいたみたいで……クロのマッサージが天国みたいに感じる。

なによりも、愛情っていうのかな? 手つき一つ一つから、俺の事を本当に大切に想ってくれてるのが伝わってきて、どうしようもなく幸せな気分になる。

たぶん、クロの事だから俺の感応魔法での感じ方もしっかり理解していて、体だけじゃなくて心まで癒すように伝わる感情に変化を付けてくれてるんだと思う。

「……でも、クロ……どうして俺が、疲れてるって……」

「分かるよ……だって、大好きなカイトくんの事だもん」

「……そっか」

あぁ、コレ癖になりそう……本当に滅茶苦茶気持ちいいし、優しい声が心まで暖かく包み込んでくれてるみたいに感じる。

クロの優しさと、溢れんばかりの好意を感じながら、言い表せない程の幸せを感じつつ、クロのマッサージに身を任せた。

時間的には30分ぐらいだっただろうか? クロのマッサージが終わると、まるで体全体から重石でも外れたかのように、あちこちが軽く絶好調といって良かった。

そしてクロが俺の上から移動するのを見計らって体を起こし、お礼の言葉を伝える。

「ありがとう、クロ。お陰で滅茶苦茶楽になったよ」

「そう? 良かった……でも、まだ、終わりじゃないよ?」

「……え?」

「ていっ!」

「うわっ!?」

俺の言葉を聞いて、クロは明るい笑顔を浮かべた後、まだ終わりじゃないと告げて俺の手を引っ張る。

今までも何度かあったが、クロの力に俺が対抗できるわけもなく、簡単に引き倒されクロの柔らかい膝の上に頭が乗る。

「……まだまだ、今日はいっぱい、カイトくんの事癒してあげるからね」

「……クロ、えっと、その……」

大変ありがたい言葉だし、相も変わらずクロの膝枕は本当に心地良い。

気の抜けばすぐにでも眠ってしまいそうだと考えながらも、気恥ずかしさを感じて寝転がった姿勢のままで軽く頬をかく。

するとクロは、吸い込まれそうな程に可愛らしい微笑みを浮かべ、そっと俺の頭を撫でる。

「……大丈夫だよ。カイトくん」

「え? 大丈夫って、なにが?」

「今は、ここは、シャルティアだけじゃなくシロにも見えないようにしてるから……本当に、ボクとカイトくんの二人っきりだよ」

「……」

それが出来る事自体は不思議ではない。クロはシロさんと同格の存在な訳だし、それこそシロさんが本気で見ようとしなければ見えないような結界を張れても不思議ではない。

シロさんもクロがそういう結界を張れば、意図を察して無理やり覗こうとはしないと思うし……二人っきりというのは紛れもない事実だと思う。

だけどその言葉の真意がすぐには分からず首を傾げたが、クロは優しい笑顔のままで言葉を続ける。

「カイトくんは、いっつも頑張ってて、カッコいいと思うよ……でもさ、誰でも疲れは溜まっちゃう」

「……う、うん。それは確かに……」

「カイトくんは周りに遠慮して、あんまり疲れた顔とかしないよね……だけど、今は……ボクと二人っきりの時だけは、ボクに甘えてくれて良いからね」

「ッ!?」

そう告げながら、クロは優しく俺の頭を抱えて抱きしめる。

暖かく……小ぶりながら確かな膨らみが顔に触れ、柔らかく俺を包み込んでくれる。

「疲れたりしたら、ボクが全部受け止めてあげる……だから、ボクにだけは、甘えてよ……ね?」

「……えっと、い、いいの?」

「勿論……あっ、でも、その代わり、ボクもカイトくんには思いっきり甘えちゃうからね」

「あはは……うん。ありがとう……じゃ、ちょっと、お言葉に甘えて……」

優しく嬉しい言葉を聞きながら、俺はそっと手を伸ばして、クロの小さな身体を抱きしめる。

なんだろう? 俺自身、気付かない内に色々溜めこんでたのかもしれない……なんか、こうして抱きしめて、胸一杯にクロを感じていると、物凄く幸せな気分になってくる。ずっとこうしてたいって、心から思う。

そうしながら少し顔を動かすと、クロの美しい金眼と目が合い、そのまま惹かれあうように唇を重ねる。

「……カイトくん、今日は……ボクがずっと一緒に居るからね。いっぱい甘えてくれて良いからね?」

「……うん」

「いっぱい抱きしめるし、沢山キスもしよ? ボクは……カイトくんのもの、だからね」

「……クロ」

あまりにも幸せな……一度は言われてみたいと思うような言葉を、当り前のようにクロの好意に触れ、溢れんばかりの幸せを感じながら、俺は更に強くクロの体を抱きしめた。

拝啓、母さん、父さん――なんというか、やっぱりクロといると凄く安心出来る。深く優しい愛情っていうのかな? 包み込んでくれるような優しさと、甘くとろけるような好意を受け……恥ずかしながら、その日は本当に言葉通り――思いっきりクロに甘えた。