軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

耐えられなくなりそうな気がする

リグフォレシアに来て二日目の夜。ジークさんと夜酒を楽しみ、良い気分で明日を楽しみにしながら部屋に戻った訳なんだけど……そんな気分も今は吹き飛んでしまっている。

現在、俺とジークさんはそれぞれベッドの端で正座して向い合うという奇妙な体勢であり、その原因は考えるまでもなく一つしかないベッドだった。

「……あ、あの、ジークさん」

「は、はは、はい!?」

意を決して俺が声をかけると、ジークさんはビクッと肩を動かし顔を赤く染めながら慌てた様子で返事をしてくる。

その反応に思わず心臓が跳ねるのを感じつつ、俺は言葉を続ける。

「……や、やっぱり、俺、床で寝ますよ?」

「だ、駄目です!」

「で、でも、それだと……」

「あっ……うっ……」

優しいジークさんとしては俺を床で寝させる気はないのだろうが、残念ながら昨日までと今では状況が大きく違う。

恋人同士になった……言葉にすれば一言だが、この状況での緊張は昨日までの比では無い。

特に俺の理性の面で非常に心配だったので、何とか俺が床で寝る方向で話をつけれないかと考えていると、ジークさんは恥ずかしそうな表情を浮かべたまま小さな声で告げる。

「……で、ですが……考えようによっては、昨日までとは違って、一緒に寝る事に関する障害はないですよね……その、こ、恋人同士な……訳ですし」

「……は、はい」

いえ、むしろ俺を襲う障害は、昨日までより遥かに高く巨大な壁となって立ち塞がっています。

二人っきりで、部屋は完全防音で、しかも恋人同士で……俺の理性を抹殺する為の、完璧な布陣が展開されてしまっている。

「……そ、そうですよね。私達は恋人ですし、一緒に寝ても問題はないんですよね……」

「そ、そうですね」

いえ、むしろ大問題です。お願いですからもうちょっと危機感を持ってください。俺だって男なんですから、なにするか分からないですよ?

付き合って即そんな行為をするのは……仮にジークさんが受け入れてくれるとしても、例えジークさんがそうは思わなかったとしても……俺としては、しっかり交際して関係をより深めてから、そうなりたいと思っているので、ここで欲望に流されてしまうのは絶対にNGだ。

だからと言って、俺が床で寝ると言っても納得してくれないのは昨日の事で理解しているし、ジークさんを床で寝させるというのも……嫌だ。

となると、もう、これは、耐えるしかない……俺が理性を繋ぎとめて、この完全包囲とも言える局面を戦い抜かなければならない。

……二日目の徹夜が決定した瞬間であった。

昨晩と同じように、ジークさんと一緒に布団に入る。

ただ昨晩と違うのは、背中合わせではなく向い合った状態で寝転んでいるという事……寝巻のジークさんの体は、容赦なく俺の理性にダメージを与えてくるが、それでもまだ耐えられる。

ここで背中合わせの状態になって、もし何らかの……不意打ち的な接触があれば、その瞬間に俺のか細い理性の糸は切れてしまうだろう。

そう、これは一種の戦い……欲望とのあくなき決戦である。背後をとられては不利になるばかり、正面を向いてどっしりと構えておけば……不測の事態が無い限り……

「……あの、カイトさん……もう少し、近付いても良いですか?」

「ッ!?」

不測の事態が速攻で襲いかかってきた!? ちょ、ちょっと待って、もっと近づく……いやいや、それだと体が触れちゃうんじゃ……

こ、コレは不味い、何とか回避を……

「……だめ、でしょうか?」

「い、いえ、大丈夫です! どうぞ、お好きな位置に……」

……速攻で成す術もなく回避失敗……戦場は非情である。残念ながら俺に主人公補正は無かったようだ……いや、むしろ主人公補正あるから近付いて来てるんだろうか? というか俺はなにを訳の分からない事を考えてるんだ?

思考が混乱してきているのを感じていると、毛布が動き、ジークさんが俺の近くに移動してきた……って、近っ!?

もう殆どゼロ距離!? や、やばいって……あぁ、いい匂いがするし、吐息があたってる……いや、まだだ。耐えろ、無心になるんだ!!

肌が触れそうなほど近くに移動してきたジークさんにドキドキしていると、ジークさんは俺の胸の中心に軽く手を当てて微笑みを浮かべる。

「……やっぱり、男性だからでしょうか? カイトさんは、逞しいですね」

「え? い、いや、俺はどっちかって言うと非力ですし……ジークさんの方が強いのでは?」

今までの人生で言われた事の無い褒め言葉だったので、驚きながらも少し冷静になって聞き返す。

俺は最近でこそ陽菜ちゃんと一緒にランニングをしているが、あまり運動はした事なかったし、同世代と比べても非力な部類だと思うんだけど……

「確かに、戦闘力というのなら私の方が上でしょう……ですが、筋力だけならカイトさんの方が上ですよ」

「そ、そうなんですか?」

俺の方がジークさんより、筋力が上……確かに見た目的には、ジークさんに筋肉は殆どないように見えるが、リリアさんやレイさんを殴り飛ばしている所を見ているので、それが身体強化魔法によるものだとは分かっていても、俺の方が筋力が上という言葉にはいまいち実感がわかない。

「ええ、エルフ族は元々筋肉がつきにくいんですよ……魔力が多いので身体強化魔法で補えますけどね」

「成程、種族的な特徴なんですね」

「ええ、だからでしょうか……こうして、触れてみると……やっぱり、カイトさんは男性なんだなぁって思います」

「えっと、褒められてるんでしょうか?」

「はい……男らしくて、素敵ですよ」

「ッ!?」

そう言って優しい笑みを浮かべながら、ジークさんは甘い声で囁くように告げる。

言われ慣れてはいないが、男らしいという褒め言葉は正直物凄く嬉しいし……その蕩けるような美声に、頭がクラクラとしてしまう。

シロさんの祝福のお陰でほろ酔い以上にならないとはいえ、やはり酒が入っている影響もあってか、やけに体が熱い。

が、頑張れ……頑張れ俺……まだ、耐えられる筈だ。

熱暴走しそうな頭を必死に落ち着かせ耐えようとしている俺の状況に、残念ながらジークさんは気付いていないようで……ゆっくりと、俺の背中に手が回され……ジークさんが深く密着してくる。

「じ、ジークさん!?」

「……カイトさん……少しだけ……甘えても、良いですか?」

「ッ!?!?」

えぇぇぇぇ!? ここで、このタイミングで!? 普段頼りがいがある大人の女性が、儚げな声で甘えてくるっていうギャップ攻撃!? やめて……やめて……切れちゃう。理性の糸が切れちゃう……

「……は、はい」

「……ありがとうございます……カイトさん……」

「え?」

「んっ……」

「~~!?!?」

名前を呼ばれて顔を動かすと、直後にジークさんの頭が動き……俺の唇に、ジークさんの唇が軽く触れた。

それは本当に唇を触れ合わせるだけの、簡単なものではあったが……紛れもないキスであり、頭が熱湯にでも突っ込まれたかのように熱くなる。

「……貴方に出会えて……こうして、恋人になれて……私は、ホントに幸せです」

「あっ、えと……」

「カイトさん、好きです。これからも、一緒に居てくださいね」

「……は、はい」

頬を微かに染めながら、幸せそうな笑顔で告げた後、ジークさんは強く俺に抱きついて目を閉じた。

も、もう本当に、げ、限界が……い、いや、まだだ! まだ!! まだ行ける筈だ! 限界を超えろ!?

少ししてジークさんの穏やかな寝息が聞こえてきて、ジークさんが眠った事を理解したが……残念ながら俺は今日も寝れそうにない。

柔らかく暖かいジークさんの体の感触を全身に受けながら、俺は朝まで必死に動こうとしている自分の手をつねり続けた……

拝啓、母さん、父さん――最大の敵は己自身とはよく言ったもので、今日も欲望と理性のギリギリの攻防が繰り広げられた。なんとか今回も理性が勝利を収めてくれた訳だけど、これ、本当にいつか――耐えられなくなりそうな気がする。