軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

薔薇姫の来訪⑧

快人の家への訪問日を間違えていたことに気付いたロズミエルは、表情の変化が少ない彼女としては珍しく非常に焦った表情で口を開く。

「どどど、どうしよう!?」

「お、落ち着いてくださいエリィ……つまり、本来は明日行くはずのカイトさんの家に、今日行ってきてしまったと?」

「う、うん……」

「ふむ……カイトさんはなにも言わなかったんですか?」

慌てふためいているロズミエルを宥めつつカミリアが尋ねる。ロズミエルが日にちを間違えたとしても、快人の方が気付いていそうだと思ったからだ。

カミリアの言葉を聞いたロズミエルは、顎に手を当てながら今日の快人とのやり取りを思い出す。

「……う、うん。カイトくんは別になにも……あっ、ち、違う!? そそ、そうだ! 私がお礼に来たって言った時、カイトくん少し考えるような顔して沈黙して、そそ、そのあとで部屋で手紙を書いてて出迎えが遅れてごめんって謝ってた!?」

「それは……確実に気付いてますね。その上で、エリィに恥をかかせないために自分が悪いということにしたのでは? カイトさんの性格を考えると、人見知りのエリィがくると分かってれば、早めに出迎えに出てくれてもおかしくないですし……」

「あわわわわわ……とと、とにかく、カイトくんに謝らないと!」

カミリアの言葉を聞いたロズミエルは、青ざめた顔で日にちを間違えたことに関する謝罪を書いたハミングバードを飛ばした。

すると、1分程度で快人からハミングバードの返信が届き、そこにはこう書かれていた。

『あっ、そう言えばそうでしたね。俺が気付けたらよかったんですが、俺も間違えて覚えてたみたいで……すっかり勘違いしてしまってました。お互いうっかりでしたね』

「ふぐぅっ……カ、カイトくんが……カイトくんが、優しいよぉ……」

あくまで自分も気付かなかったという……そういう建前で、ロズミエルが気にし過ぎないように配慮してくれる快人の優しさにロズミエルは感動したような、それでいて申し訳なさそうな複雑な表情を浮かべる。

するとそこに、快人から追伸のハミングバードが届く。ハミングバードに長文を書き込むにはそれなりの魔力操作技術が必要なので、それができない快人は二通に分けてメッセージを送ってきた。

『ですが、今日は天気や気温もよくて、テラス席でお茶をするには最高の日でしたし、むしろ今日でよかったかもしれませんね。今日ロズミエルさんが来てくれたからこそ、ネピュラの砂糖とかで盛り上がれたわけですし、なによりロズミエルさんとのお茶は本当に楽しかったので、どうかお気になさらず』

「……あぅあぅ」

「ふふ、やっぱりカイトさんは優しい子ですね」

もちろんロズミエルもカミリアも、それが快人がロズミエルが罪悪感を抱かないように配慮してくれた言葉だというのは分かっているが、この気遣いを受け取らないのも失礼である。

「……ねぇ、リア。コレってさ、これ以上謝罪とかするのも……逆に失礼だよね」

「そうですね。カイトさんがこうしてフォローしてくれてるんですし、受け取っておいた方がいいでしょう。また次の機会にでも、さりげなくお返しすればいいんですよ」

「……う、うん、そうだね」

とりあえずは快人の気遣いと親友であるカミリアのフォローもあって、ロズミエルが大きな罪悪感を抱いたり、今回の件を気にし過ぎたりすることはなかった。

ただやはり迷惑をかけたお詫びはなにか考えようということになり、しばしカミリアはロズミエルの相談に乗っていた。

カミリアが帰り、ひとりになったロズミエルは自分用の紅茶を淹れ、そこに今日貰った花の形の砂糖を入れながら、今日のことを思い返していた。

日付を間違えたのは大失態であり、罪悪感もあるし恥ずかしさで顔から火が出そうではあった。気弱なロズミエルであれば、それこそかなり落ち込んでしまっていた可能性もあった。

しかし、いまのロズミエルの気持ちはそれほど沈んでいない……というよりは、どちらかと言えば上機嫌といえた。

そんな気持ちを自覚して苦笑を浮かべつつ、ロズミエルはひとりポツリと呟いた。

「……酷いなぁ私……いくらカイトくんが気を使ってくれたからって、本当はもっと申し訳なく思わなくちゃいけないのに……」

紅茶の入ったカップを見つめながらロズミエルは、先ほど快人から送られてきたハミングバードに書かれていた『ロズミエルさんとのお茶は本当に楽しかった』という一文を思い出し、嬉しそうに微笑んだ。

「駄目だなぁ……どうしても、嬉しいって気持ちの方が強くて……困っちゃうよ」

ロズミエルは白神祭と今日の一件で、すっかり快人のことを気に入ってしまっていた。人見知りの彼女にしては珍しく「また話したい」「もっと話したい」と感じられる相手だった。

罪悪感よりも強く湧き上がってくる嬉しさを感じつつ呟くロズミエルの顔には……とても柔らかな微笑みが浮かんでいた。