軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白神祭を終えて③

クロの新商会の携帯食料を試食したあとは、いつもと同じようにある程度雑談を楽しんだ。そして夜の10時ぐらいになると、クロが据わっていたソファーから立ち上がり軽く体を伸ばす。

「……う~ん、いい時間だしボクはそろそろ帰るよ。カイトくんはこの後すぐに寝るの?」

「ああ、俺は軽く風呂に入ってから寝るつもり」

「あれ? シロのところで温泉に入ったんじゃないの?」

「入ったけど、そのあと終了式を見てたりなんだりしたから、軽く入りたいなぁって……いちおう準備はしてくれてたみたいで、すぐ入れるらしいし」

終了式の後もかなりの人で賑わう下層を歩いたわけだし、やっぱり少しサッパリしてから眠りたいという気持ちが強い。

ベースがリリアさんの屋敷と同じ俺の家の風呂はかなり大きく豪華で、入浴していてかなり気持ちがいい。

「……なるほど」

「うん?」

風呂に入るための支度をしようと俺も立ち上がると、なぜか帰ろうとしていたクロが顎に手を当てて思案するような表情に変わった。

「まぁ、たしかに一日の疲れを癒すために、一度お風呂に入ってサッパリするのはいいよね」

「そうそう……そう……なんだけど……」

笑顔で話しながら、クロはロングコートの裏側に手を入れ、桶を取り出す。木造りでシンプルながら、中々の高級感で匠の仕事を感じられる逸品だ。

それに続いて、タオルのようなものを取り出し、さらには液体が入ったボトルを三本ほど取り出す。

「……それは?」

「ああ、これはボクの持ってる商会のひとつに化粧品とかを扱ってるところがあるんだけど、そこで作った新作のシャンプーとトリートメントとボディソープだね。これが凄くいい香りで、使い心地もいいんだよ。カイトくんも試してみてよ、感想とか聞きたいな」

「う、うん。それは楽しみだ」

ニコニコと笑顔で話しつつ、最後にアヒルのおもちゃを取り出し、桶にボトルとおもちゃを入れると、魔力で作っているロングコートを消し、タオルを片手に持ってもう片方の手で桶をわきに抱える。

「じゃ、お風呂に行こう!」

「……そうだよね! いまの流れで、サンプル渡して、はい行ってらっしゃいとはならないよね!? え? クロも一緒に入るの?」

「駄目?」

「い、いや、駄目とは言わないけど……」

……あぁ、駄目だこれ、流される感じのやつだと、直感的にクロに押し切られる今後を想像して、俺は諦めたようにため息を吐いた。

ひとりで使うには広すぎる風呂に到着した俺は、ジッと湯船を見つめる。なんとかクロを説得して、俺が先に風呂場に入ることに成功した。クロは1分ほど経ってから入ってくることになっている。

しかし、ここで問題がひとつ……この風呂場は当たり前だが家の風呂であり、温泉ではない。つまるところ……お湯は濁ったりせず、めっちゃ透き通ってる。

「カイトくん! 入るよ~」

悩んでいるうちに1分経過したのか、タオルを巻いたクロが入ってきた。

「クロ、ひとつお願いしていい?」

「え? なに?」

「タオルを巻いたままで入ってくれ……」

「えっと、湯にタオルを付けない方がいいんじゃないっけ?」

「ここは俺の家だから、家主の俺が許可するから、お願い!」

「…‥う、うん。まぁ、カイトくんがそこまで言うなら……けどいまさらな気もするよ。いままでも何回か一緒に入ったよ?」

……まぁ、そう言われてしまうと言い返すのは難しい。たしかに、クロと一緒に風呂に入るのは、アイシスさんのところで一回、六王祭で二回なので、今回で四回目である。

いまさらと言われてしまえば、その通りかもしれないが……やっぱりいろいろ気になってしまうのだ。

「まぁ、とりあえず、背中流しっこしよ!」

「……はいはい」

とりあえず、こちらの要望は聞き入れてくれたので、俺もクロの要望に素直に頷くことにした。いや、そもそも一緒に風呂に入っている時点でクロの要望は聞いている気もするが……。

「先に僕が洗ってあげるね!」

「う、うん、よろしく」

テンションの高いクロに促されて椅子に座る。背後に感じるクロの気配に少しドキドキとする。

ただクロは特にふざけたりすることはなく、新作のボディソープを使って宣言通りに俺の背中を流してくれた。少し柑橘系っぽい香りがするボディソープで爽やかな香りが心地いい。

「流すね~」

「ありがとう、いい香りだな」

「いいでしょ、これ。ボクも結構気に入ってるんだ……ね、カイトくん。髪もボクが洗ってあげるよ。一度お湯かけるからね~」

そう言うとクロは俺の髪にシャワーの魔法具を使ってお湯をかけ、シャンプーを手に取って優しい手つきで俺の髪を洗ってくれる。

本当に優しくて心地よく、少し眠くなってしまいそうな感じで……。

「えいっ!」

「うぉっ!? ちょっ、ク、クロ!?」

まるで俺の油断をつくように、一瞬でクロの手が俺の前に回され、クロはそのまま不意打ちで俺の頭を後ろから抱えるように抱きしめた。

タオル一枚を挟んで感じるクロの胸の感触に、一瞬で血が顔に上る。

「えへへ、なんか抱きしめたかったから……ビックリした?」

「……結構ね」

なんとなく、今日のクロは少しテンションが高い気がする。新商品のこととかいろいろ盛り上がったからだろうか……なんというか、うん……可愛い。