作品タイトル不明
そのころ③
神界の下層、白神祭において最も多くの人々が集まる転移門の近く……からはある程度離れて、人が少なくなっている場所では、カチコチに表情を固めているロズミエルが居た。
そんなロズミエルに心配そうに話しかけるのは、一緒に行動しているカミリアだ。
「……エリィ、大丈夫ですか?」
「……む、無理無理無理……ひ、人が多すぎるよぉ……物凄く増えてる」
「そりゃ、最初に来たときよりは増えてるでしょう。それよりどうですか? 転移門には近付けそうですか?」
「……ぜ、ぜぜ、絶対無理……あ、あんなにたくさんの人の中に行くとか……死んじゃう」
快人たちと別れたあとで、ふたりは帰るために下層に戻ってきた。というのも、神界は基本的に転移魔法を使用することができない。
正しくは神界全域に転移阻害が施されているというのが正しいので、六王などの一部の飛びぬけた実力者であれば強引に転移魔法を使うことはできる。
もっともシャローヴァナルの住む神域だけは、シャローヴァナルの力に対抗できるクロムエイナやエデンなどといった準全能級の実力が無ければ転移は不可能だ。
「私たちでは神界の転移阻害を突破できませんし、転移門を使う必要があるんですが……」
「……と、というか……六王様以外で神界に転移できるのなんて……幻王様のところの……グラトニーと……ジュティアぐらいじゃないかな?」
「たしかにそれぐらいのレベルでないと難しいかもしれませんね。まぁ、なんにせよ私たちが帰るには、転移門を利用する必要があるので……最終的にはあの大量の人の場所へ行く必要があるのですが……」
伯爵級最上位ともなれば誰しも大抵のことはできるのが普通だが、当然のことながら得手不得手というのは存在する。
神界の転移阻害は非常にハイレベルであり、それこそ世界トップレベルの転移魔法の使い手でなければ突破は難しい。
魔界でも屈指の転移魔法の使い手として有名な亜空の捕食者グラトニーか、転移魔法の原理を用いて行使する精霊魔法の大本にして世界最高の精霊魔導士である大樹姫ジュティア……そのぐらいのレベルが必要だった。
そうなるとロズミエルとカミリアに残された選択肢は、遠目に見ても凄まじい人がいる転移門を利用するしかないのだが……極度の人見知りであるロズミエルがそこに踏み込むのは非常に困難だ。
しかも、順番待ちの必要もあるため相当長い待ち時間がある可能性も高いので、まさにロズミエルにとっては地獄そのものだった。
表情を硬くしながらも小刻みに震えるロズミエルをみて、カミリアは安心させるように微笑みを浮かべた。
「とりあえず、この辺は人も少ないですし休憩しましょう。時間を空ければ人も減るかもしれませんしね」
「……う、うん……ありがとう、リア……」
「こうなるなら、ジュティアさんも誘って来ればよかったですね」
「……そ、そうだね……で、でも……こ、こんなに凄いとは思わなかったし……」
とりあえず様子を見て、人が少なくなったなら転移門に近づこうという結論に達し、ひとまず休憩をすることにした。
そのまま少し他愛のない雑談をしていると、不意に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おやおや、おやおや、こんなところで会うなんて奇遇だね! いいね、いいね、偶然会えるなんてとっても運がいいぜぃ!」
「ジュティアさん!? どうしてここに?」
「ボクは紅茶を買いに来たんだよ。それでね、それでね、これからリグフォレシアに顔を出そうかと思ってね。転移門は混んでそうだし、邪魔にならないところで転移しようと思ったんだ。そしたら、そしたら、ふたりを見つけたってわけだぜぃ」
偶然遭遇したジュティアを見て、カミリアは驚いた表情を浮かべ、ロズミエルは素早い動きでジュティアに近づき、その両肩に手を置いて顔を近づけた。
「……す、救いが来てくれた……ジュ、ジュティアぁぁ……た、助けて」
「およ?」
「ひ、ひひ、人がいっぱいで……転移門に近づきたくない……お、お願い、転移魔法で連れて行って」
「そっか、そっか、ロズミエルは人が多いのが苦手だったね。いいよぉ、いいよぉ、それならボクが送るぜぃ! 一度リグフォレシアに転移すればいいかな?」
「う、うん……人界にいったら……自力で転移できるから……本当にありがとう」
神界の転移阻害を無視して移動できるジュティアは、ロズミエルにとってはまさに救いの神と言えるような存在だった。
転移魔法での移動に関しても、ジュティアは快く承諾してくれロズミエルはホッと胸を撫で下ろした。
「なんとなくですけど、ジュティアさん。明るいのは、いつも通りですけど……なんだか、いつもより機嫌がよさそうに見えますね」
「およ? 分かる? うんうん、いまボクってばとってもいい気分だぜぃ! 嬉しいねぇ、嬉しいねぇ、素敵な出会いがあってとっても幸せだぜぃ」
「出会い、ですか?」
「聞いて、聞いて、さっき中層でさ……」
ジュティアは楽しげな表情で、先ほどの中層での出来事を話しはじめ、しばし三人は快人たちの話で盛り上がることになった。